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書評|朝井リョウ『ままならないから私とあなた』


先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。「レンタル世界」

成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった二人の価値観は、徐々に離れていき、そして決定的に対立する瞬間が訪れる。「ままならないから私とあなた」



少し前に読んだ本ですが、アナログの読書ノートに感想を書いていたので、せっかくだからと思い、noteに書き起こしてみます。

表題作「ままならないから私とあなた」と、短編「レンタル世界」が収められた二篇作。それぞれに独立した作品ではありますが、その題材は共通しているように思えます。

「正しいと思われていることは、本当に正しいのか」。そして「自己と他者」について、「違い」について。

改めて考えさせられるきっかけとなりました。

私は表題作の「ままならないから私とあなた」がすごく好きでした。まず、タイトルがすごく魅力的じゃないですか?読む前はなんだか変わったタイトルだなぁと思ってたのですが、読み終えてみるとやっぱりこのタイトルしかない!と思えるほど、よく内容を表しているのです。
他者を自分の思い通りにすることはできない。思い通りにはいかない、ままならないからこそ、人は自己と他者を見つけ出すことができる。「あなた」がいるからこそ、この世界で「私」として生きられる。あぁ、だから「ままならないから私とあなた」なんだなぁ~としみじみと考えてしまいました(伝わるかな)

効率性と人間性、どちらが重要か。単純な二元論ではなく、正解などないことを分かっていて、なお問いかけられます。無駄を排除し効率性を求める薫と、道理や人間性を尊重する雪子。そのどちらの価値観にも共感できる部分があるので、どちらが正しいということはないにせよ、うーん、と考え込んでしまいました。私の場合は雪子に共感することが多かったです。
向かった先が違うだけで、2人を突き動かす根本はずっと同じだった。でも考え方が違うだけで、こうも違ってくるんだなぁと。

2人とも、相手のことを憎からず思っているからこそ、「あなたのことを思って言ってるんだよ、なんで分かってくれないかな」という風に躍起になって相手の考え方を変えようと思い行動しますが、その行動の結果をそれぞれ身をもって味わう結末となってしまう。
現実世界でも、「あなたのことを思って」と言ってアドバイスをする人って多いと思います。私も「どうして分かってくれないのかな」と相手に自分の考えを押し付けてしまったり諭すようなことをしてしまったりした経験があります。けど、やっぱりそういう考え方こそ自己中心的なのだと改めて思わされました。
結局、自分の考えってエゴでしかなくて。自分はこうだから、こう思うから、という理由は他者を否定する理由にはなりえないし、自分が正しいとは限らないし、他人は変わらない。変える必要もない。

いい意味で読み終わってもモヤモヤが残る作品だなと思います。いろんなことを考えさせられました。

朝井リョウの作品は、複雑な現代で苦しみながらもがき生きる若者の描写がすごく長けているように思います。そして、容赦ないなぁと感じるほど世の中の問題提起をしてくれる。是非、若い人に読んでほしいですね。
もちろん、若い人に限らずオススメです!


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