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オールラウンドプレーヤーの元祖・長山さんの31年とこれから

きちみ製麺の数ある商品の中でも、特に人気が高く従業員も太鼓判を押す「手延べうーめん」。工場併設の食堂「光庵」でも使用しています。機械で製造するその他の麺とは製造工程が異なり、独特の食感を持つこの手延べは、きちみ製麺の「顔」とも言えます。

長山さん

 この手延べうーめんの製造に10年以上携わり、試行錯誤をしながら現在の礎を築きながら、営業から倉庫の業務に至るまで、まさにオールラウンドな働きをしてきたのが、入社31年目の長山さん。長山さんに、入社当時から現在まで携わってきた現場のこと、そしてこれからのきちみ製麺について、お話をお聞きしました。

乳業、そしてカセットテープからうーめんの世界へ

「こんにちは。今年で入社31年目になります、長山です。現在は主に倉庫の担当をしていますが、これまで営業を3年、手延べ10年、などさまざまな部署を担当してきました。
きちみ製麺に入社する前は、山田乳業という会社で13年、製造の仕事をしていました。その後、カセットテープを作る工場で仕事をしていました。みなさんきっと聞いたことのある、○D Kのカセットを作っていました。CDが出てくると、カセットテープが下火になってきて。時代を感じるでしょ?(笑)

きちみ製麺を知ったのは、たまたま工場のそばを通りかかったら求人が出ていたのがきっかけです。正直それまでうーめんのことはよく知らなかったし、地元だけども、短いうーめんは食べたことがなかったです。ヤオシン、というところの長いうーめんを親戚にもらって食べたことはあったかな。その当時は今よりもっとうーめんの会社があって、12~13社あったと思います。」

超ハードだった見習い時代

「現会長が常務だった時代に入社しました。営業職で入ったのですが、うーめんのことがわからないので工場に入り、麺を切る作業を1年間やっていました。その麺を切る作業というのがめっちゃハードで。
今は、乾燥後の麺が自動で流れてきて機械が裁断しますが、昔は自分で抱えて台まで運び、長い麺を寝かせて、そして包丁で切っていました。運ぶのも切るのもとても力がいるんです。それに、流れを止めないように切り続けるのが大変で。今思うとよくやっていたなと思います。

麺を包丁で切っていた時の様子を絵で説明してくれた長山さんは、絵も得意だそう。

麺を切る作業だけでなく、小麦粉を混ぜるミキシング、麺を乾燥させる乾燥室の担当など、様々な工程に関わってきました。昔は工場見学も受け入れていて、麺を切る体験などもやっていました。子どもたちが大喜びでやっているのを見るのは嬉しかったですが、通常の作業しながらの受け入れはなかなか大変でしたね(笑)。手延べ麺の作業体験もやっていましたね。」

工夫を重ねた「手延べ」の仕事

「昔は全工程手で作業をしていました。天候によって麺が延ばしにくかったりして、熟成を早めるために室(むろ)の中を水で濡らすなど、さまざま工夫を重ねました。

ところで・・・機械で作る麺と、手延べの麺の違い、分かりますか?
(うーん、作り方が違うということはわかりますが、どのように、というと答えられない私)

機械麺では平らにして棒状にし、刃で押して直線に切るんですが、この時グルテンが直線的に形成されます。
一方手延べでは、全ての工程を螺旋状に行うため、グルテン形成が螺旋状になり、引っ張っても切れない。歯応え、喉越しの良さにつながるんです。」

手延べ麺を伸ばしてかける作業

「研修を受けて手延べのことを勉強したのですが、研修だけでは習得できない、非常に繊細な感覚というのを、小野課長から教わりました。
自分でも創意工夫を重ねながらやってきましたね。
元々結構太かった麺を、もっと細く喉越しよくなるように研究したりもしました。一方で細すぎると食感が損なわれるので難しいところなんですが。

温度と湿度の影響を受けやすくて、ミキシングが終わった時点でその日の硬さがわかるんです。硬すぎると太くなる、柔らかすぎると細くなりすぎる。柔らかすぎる場合は伸びすぎないように工夫するなど、毎日が奮闘でした。毎日同じ仕上がり、本数になるようにするには、麺をかけるまでの工程を重視して、日によって加減するという工夫が欠かせませんでした。」

乾燥室の手延べうーめん

「昔は機械麺を1日2万食作っていました。我ながら、よくやってたなあ笑。足踏みで麺を作っていた時代もありましたね。
手延べの麺だけでなく、機械で製造している麺も、日々天候を見ながらこだわって作っていますのでぜひ味わっていただきたいですね。」

まさに「1人3役」。各現場を陰ながらフォロー

倉庫から倉庫へ、商品を丁寧に運ぶ作業も。

「昔は配達も担当していました。現在は運送便を利用していますが、かつては松島、仙台などの卸先にも配達していました。百貨店、個人のスーパー、農協、問屋さんなど、かなりの数を回っていましたね。昔は運転する人も限られていたので、私が担当することになったのですが、午前中乾燥の仕事をして、午後から配達、という風に兼任していました。私が抜けた現場には、ミキシングやっていた人が入るなど、お互いにフォローし合って。まさに分刻みで業務に当たっていましたね。

それから、機械類のメンテナンスも日々地味~にやっています。
できる範囲で自分たちで直しています。機械が古いからね、説明書がないものもあるし(笑)。だから工具室があったらいいと思っています。最低限の工具や部品を揃えておけばその作業がしやすくなるので。ちょっと様子がおかしかったら、そのまま使い続けないで、すぐメンテすることで故障を防ぐこともできるんです。機械のメンテナンスも重要、手の感覚もとても重要ですね。」

自分の手で直す、作ることに秀でている長山さんが、陰ながら各現場を支えていることが分かります。また、現在担当している倉庫の仕事についてもお話が及びました。

他のポジションとの相談や連携も欠かせません。(左:長山さん)

「倉庫は昔から手伝っていましたが、前任者の退職に伴い倉庫の担当になり、3年ほどになります。(リフトの音が聞こえてる)

倉庫の仕事は、できた商品を管理する、荷物が届く、送る、と意外と複層的なんです。去年は、過去最高の暑さで本当に大変で、仕事終わって帰るまで35度もありました。一方で、冬はめちゃくちゃ寒いという、作業環境が大変なポジションです。

時々冷房に当たりながら、熱中症にならないように気をつけていますが、自分は暑さには強い方かもしれないです。」

より美味しいうーめんを届けるために

(きちみのうーめんは昔より美味しくなっているか?という質問に対して)
「技術や経験値の継承ができている、という意味では、どんどんおいしくなっていると思います。

でも、実は重要なのが、原料となる小麦粉なんです。小麦粉の品質が、春夏秋冬のミキシング、乾燥も左右するんですが、きちみ製麺ではオリジナルブレンドの小麦粉を使用するなどしてこだわっています。

また、そのクオリティを上げ、たくさん作るために、作業しやすく体に負担がかからないように、作業導線やレイアウトを改善したり、広さを確保したりということが欠かせないと思います。これまでは、人の働きでカバーしていた部分も大きいですが、現在この労働環境についても改善が進んでいます。

それから・・・この地域の魅力みたいなものも伝えられたらいいですね。昔はきちみ家の高床式の蔵があって、そこを倉庫にしたわけですが、すぐそばには水車があったんです。さぞかしいい風景だったことでしょうね。遺跡や武家屋敷の名残もあるこの辺りの雰囲気を、もっと多くの人に足を運んでもらって感じてもらえたらと思います。」

丁寧なお仕事ぶりに、安心感を愛情を感じました

きちみ製麺の歴史を支え、深めることに尽力してきた長山さん。
現場を知り尽くした長山さんの静かな熱を感じました。その経験に裏付けされた技やアイディアが、これからの発展にますます生かされていくのだろうと感じました。

合同会社いまじむ
アートコーディネーター
今川和佳子