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もぐらとロケット

私の祖母はお米農家である。
超が付くほど巨大な田んぼの中に、ポツンと家がある。
まさに今の時代でいうポツンと一軒家である。

私たちが小学生の頃は夏休みに祖母の家に行くのが通例であった。
祖母の家にいとこがみんな集まって、
大人達は酒盛りを。
子供達はお菓子をむさぼりながら、ゲームをする。
夜になれば花火に行くし、どこで何をしようと誰にも怒られることのない世界だった。

その日もそんな1日だった。
私は従兄弟の中で一番下であり、私の兄も下から2番目である。
つまり、ほとんどが歳上なのである。
歳上の遊びなんてものは、小学生なんかの数倍上をいくわけで、楽しさと興奮の嵐である。
その日のスタートはアリの巣バクチクゲームだった。
読んで字の如く、アリの巣に爆竹をセットして着火して逃げる。
間違えれば耳がキーン!!!ってなってしばらく聞こえなくなる。
それでも、みんなでよってたかって世直しじゃ!と叫びながら爆竹を爆破させる。

今となっても世直しの意味はわかっていないが、どう考えても小学生のフレーズではないので、高校生のいとこか誰かが教科書から抜粋したのだと思う…

とにかく、まずは爆竹がなくなるまでそれは続いた。

次に始まったのは、ロケット花火ドッジボールである。
ドッジボールとはそもそもキャッチして投げ返すという動作があるのだが、この競技はその動作は存在しない。
受けて爆発するか、かわすか。の2択である。
いとこが4人vs4人に分かれて開催される。
今思えば、小学生なのに良くやったなぁ…と思うのだが、火をつけてシューっと音が鳴り出して飛ぶ瞬間に相手に向かって投げるのだ。
これもまた間違えれば手の腕爆発するし、相手に向かっていく途中で爆発もするし、なんなら地面に落ちて爆発する、なんてパターンもある。
それがロケット花火ドッジボールのスリリングな一面なのである。
こちらもあるだけ使い切るのだが、ここでは数人服が焼ける程度で終了となった。
ま、当然である。
服の上で爆発するのだから、それは焼けるか焦げるかの2択なのだ。

さて、ここでその日も終わるかと思いきや。
その日はいつもと違った。
追い花火である。
花火もっと買ってこいと、従兄弟のおじさんがお金をくれたのだ。
すかさずみんなで自転車に二人乗りになって、花火を買いに行った。

その帰り道である。
花火をぶら下げながら自転車で帰ってくる途中に橋があるのだ。
その橋から水の中にロケット花火とやるとどうなるのか?という謎のテーマから、川花火が始まろうとしていたその時である…

モグラの死体が発見される…

私は生まれてこの方モグラを生で見たことがない。あの日いたあの生き物が本当にモグラなのかどうなのかもわかっていない。
ただ、花火でハイテンションになっていた従兄弟達がロケット花火をその何かの死体に刺して火をつけるという所業を冒そうとしていた。

みんな離れて固唾を飲み、点火されるのを遠くから見守った。
「みんな逃げろ!!」
シューっと煙がモクモクと視界を遮っている。
どうなるのか…
爆発したらどうなるのか…
そんな事も考えずに、私はただただ見つめていた。

バーンっ!!

と音が鳴る。
それらは肉片となり宙を舞っていく。
その次の瞬間、
ポタポタボタと肉片が落ちてくるではないか。
半狂乱である。
みんながキャーキャー言ってる時に私の頭の上に何かが落ちた。
隣にいた従兄弟を見る。
従兄弟も私を見る。
「ギャー!!!!!!」
と従兄弟は叫んで逃げ出した。
私はわからず追っかける。
従兄弟はみんなの元へと逃げていくが、みんなは何が起こっているかわからない。
私も何が起こっているかはわかりたくないので、走って輪の中に入ろうとする。
も、みんなが振り返って叫びながら逃げていくのだ。
私は気付いてしまった。
きっと自分の頭の上に良からぬものが落ちてきたんだと。
誰も私を快く迎え入れてくれないわけだ。
私は諦めて、走るのをやめた。
私が走るのをやめると、逃げていた従兄弟達も走るのをやめた。

私は上を向いて、頭上の異物を手で払った。

その時の空の色がなぜがセピア色でしか、記憶に残っていない。
ただ、あの時の感触と匂いは未だに覚えている。

そんな夏の1日。

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