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地方公務員がプロゲーマーになった話

自己紹介

 うなむねと申します。普段はソフトウェアエンジニアをやっております。キャリアとしてはまだ約半年の駆け出しで、それ以前は地方公務員をやっていました。そしてこの度、BEMANI PRO LEAGUE 2021ドラフト会議にて、株式会社山崎屋さま運営のチームレジャーランドにご指名いただき、プロゲーマーになることとなりました。

 ドラフト直後からこの記事を書き始めましたが、嬉しいやら驚きやらでいまだに足元がおぼつかない感覚です。

BEMANI PRO LEAGUEについて

 BEMANI PRO LEAGUE(BPL)は、音楽ゲームブランドの代表格である「BEMANIシリーズ」のタイトルで争われるeスポーツのプロリーグです。詳しくは、公式ホームページから見ていただくのが正確かと思います。

 私自身、昨年のBEMANI PRO LEAGUE ZERO(BPL ZERO)も興味はありましたが、当時はまだ地方公務員の身分だったために当然申し込むことができませんでした。

 昨年のプロテスト募集当時は次年以降も申し込むことはほとんど考えていませんでしたが、副業可能な会社に転職したこと、そして何よりもBPL ZEROの熱量に圧倒されてしまったため、いち音ゲーマーとしてあのような場所に立ってみたいと思い、応募を決意しました。

音ゲーと私

 音ゲーを始めたのは今から20年以上前、友人の家で初代Dance Dance Revolutionを触った時でした。当時の音ゲーの人気は朝のニュースでもbeatmaniaやDDRが取り上げられるほどであったと記憶していますが、やはりできなかった譜面が練習してできるようになるのが楽しく、気づいたら他のゲームそっちのけで音ゲーをやるようになりました。

 しばらくはDDRを普通のPSコントローラで遊ぶ程度でしたが、ニュースでも見たbeatmaniaに対する憧れがずっとあり、ある時家庭用のbeatmaniaIIDX 6th styleと専用コントローラを買って、本腰を入れて上達に取り組みはじめました。また、中学校に上がったくらいからゲームセンターにも通うようになりました。初めてカードを買ったのはIIDX REDのときです。

 併せて、この頃からGUITARFREAKS & drummania、特にドラムマニアもプレーするようになりました。こちらも初めてカードを買ったのはGF11th&dm10thのときです。以来、時期によって力を入れてプレーするタイトルはまちまちでしたが、15年以上ゲームセンターで音ゲーをプレーしてきました。

 とはいえ、長くプレーしてはきたものの、腕前としてはトッププレーヤーとは程遠くありました。音ゲータイトル全体の公式の大会で一番結果が出せたのは、KONAMI Arcade Championship(KAC)2013のSOUND VOLTEX部門、予選Cグループ5位というのが最高かと思います。(2021年4月5日現在予選が開催されている10th KACのDrumMania部門で暫定11位なので、こちらの方が良い結果が出せるかもしれません)特にIIDXに関しては、同じ曲をやり続けてスコアを詰め切るというのが苦手なこともあり、過去のKAC予選ではまともにスコアを残せたことがありません。プレーヤーとしては全く無名の存在です。

プロゲーマーになるための戦略

 BPLに申し込むに当たって、ドラフトで指名されるのが現実的かどうかを検討しました。結果、

・選手の枠がBPL ZEROの9人から24人に増えている

・申込み直前まで他のプレーヤーの動向を観察した結果、昨年申し込まなかったトッププレーヤーが次々と応募している

といったことを踏まえ、おそらくドラフト候補にはなれるであろう、そしてドラフトで指名されるかは完全にボーダー上であろうことが予想されました。よって、少しでもドラフトを通る確率を上げるための戦略が必要であると考えました。

・プレーヤーとしての腕前のアピール

 元々長くプレーしているだけあり、いわゆる皿やソフランなどの癖のある譜面や対策の必要な譜面が武器であるという自覚はありました。よって、4巡目の選手に求められるのは「どの譜面も安定して結果が出せる」というよりも「負ける曲はボコボコに負けてもいいから勝てる曲で格上に勝つ」というスキルであると考え、苦手を底上げするというよりも自分の武器を磨くことに重きを置いて練習し、また自分のアピールポイントとしました。

 反面、得意分野をアピールする以上、そういった曲のスコアはこちらから発信するまでもなく詳細にデータを見られることが考えられました。よって、ツイッターなどでは、どちらかというと基本的なスコア力が確実に伸びているということを発信するようにしました。

 上記のことはドラフトに申し込む直前の年明けくらいから意識するようにし、プロテストに合格してドラフト候補になることがわかったあたりから特に力を入れるようにしました。また、数は少ないながらも、ローカル大会での好成績などは、ドラフト候補が発表された時点でもう一度リツイートするなどしてアピールしました。

 しかし、この戦略はかなり精神的につらいものでした。というのも、年明けから新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が発令されたことにより、平日にゲームセンターに通うことが難しくなり、プレー頻度が激減し、結果として調子をかなり落とすこととなってしまいました。(ツイッターを振り返ると、年明けぐらいからはINFINITASのリザルトしか上げていません)

 特にドラフト直前期は完全にプレーが崩れてしまい、自己ベストが出ても何故出せたのかがわからない状態でした。その中でも実力が順調についているということをアピールしなければならないのはかなりのプレッシャーでした。音ゲー人生で初めて、調子の取り戻し方について知り合いに教えを乞うたりといったこともしました。

 現在はプレッシャーからも解放され、プレー頻度も上がってきたこともあり、かなり復調傾向にあります。

・腕前以外でのアピール

 現在本業でソフトウェアエンジニアをやっていますが、元々趣味でプログラムを組むこともあったため、たまに思いつきで音ゲーのプレー支援ツールを作成していました。

 するとたまたま、私が以前作成した「叙情シミュレータ」(BPM変化に対してギアチェンジの方法を支援する)をBPL ZEROの試合でTEAM Ryu☆所属のNORI選手に使用していただき、対戦の勝利に貢献したといったことがありました。

 これはおそらく他の候補選手には無く、自分しかやったことの無いことであると考え、積極的にアピールしました。

・志望動機、抱負

 志望動機などを考えるに当たっては、そもそも何故BPLが開催されるかということから考えることをスタートしました。

 営利企業が主体となって開催される訳ですから、当然その後の収益に繋がることを考えて投資をしていることになります。(とはいえ、かなり持出しの部分が多いことは予想されますが)ステークホルダーの各企業さまの利益につなげるためには、今まで縁がなかった、もしくは今は足が遠のいてしまった人の中からBEMANIを楽しむ人、ゲームセンターに通う人を一人でも増やすことが必要になります。

 よって、プロテストの申込み時からドラフトでの自己アピール動画まで、このことは一貫して主張することを心がけました。例えば、ドラフト候補の意気込みにも上記のことを書いています。

 結果として、西村宜隆氏(あのDJ YOSHITAKA!)がドラフトの開会宣言で「BEMANIを好きになってくれる人を一人でも増やす」とおっしゃっていたので、この戦略は間違ってなかったのではないかと考えています。

 なお、そもそもがエンタテインメントであるため、不快にならない程度のトラッシュトークもアピールになるかなと思いましたが、どうやら私自身そのようなことが苦手であることがわかったため、これについては断念しました。

・身だしなみ

 面接を受けたり、ドラフト候補資料の写真を提出するに当たって、念のため身だしなみについてもどのような格好が最適であるかを考えました。

 例えば、麻雀のプロテストではスーツを着ることが要求されるようです。

 とはいえ、あまりに気合いを入れすぎて他の候補者と比べて悪目立ちをしてもよくないと考えたため、昨年のBPL ZEROの候補者写真などの温度感を参考して、オフィスカジュアル程度の襟付きの服を着ることとしました。

 写真についても、自ら撮影するよりもお金を払ってプロに撮影してもらったほうが段違いに仕上がりが良いので、きちんと写真屋で撮影しました。(ここまで写真に気合を入れたのは公務員試験の願書を作ったとき以来です)

 以上が、ドラフト会議までに取り組んだ戦略です。最終的に、予想通り4巡目に指名をいただいたので、これまでの努力が報われてとても嬉しかったです。指名された瞬間はあまりに嬉しくて、その直後の記憶がかなりあいまいです。

 そして、ここがスタート地点です。プロゲーマーにふさわしい人間であると思っていただけるようになるには、これからの振る舞いが重要です。

人のためにゲームをやるということ

 ドラフト会議候補一覧での私の「意気込み」を引用します。

私は小さい頃からゲームが大好きで、特に『beatmania IIDX』は最も力を入れてプレーしてきたタイトルです。
『beatmania IIDX』や、アミューズメント施設を通じて得られた経験や人間関係は、単なるゲームのプレー体験に留まらない大きな財産です。
この度そんな『beatmania IIDX』やアミューズメント施設に恩返しができる機会を頂くことができ、大変光栄に思います。今はゲームにあまり縁がない方にも、アミューズメント施設に行ってみたい、『beatmania IIDX』をプレーしてみたいと思っていただけるよう、また『BPL』が、多くの方に愛されるコンテンツになるよう試合やイベントを通じて貢献していきたいと思います。

 これ自体は私の嘘偽りのない気持ちですが、これを書いたニュアンスとしてはもう少しネガティブなものとなります。すなわち、「貢献できなかったら次はない」ということです。

 昨今取り沙汰されているように、アミューズメント業界を取り巻く情勢は厳しいものであると考えています。約1年半続く新型コロナウィルス感染症の蔓延もこれに拍車をかけています。例えば、いわゆる行脚erの方が下記の記事で言及されているように、beatmaniaIIDXの設置店舗数は残念ながら減少傾向にあるようです。

 私自身の肌感としても、学生のころと比べてゲームセンターの数が明らかに減ったと感じています。過去私がよく利用していて、現在すでに閉店となってしまった店舗の数を数えてみたところ、少なくとも10を超えていました

 その中でも、私のようないちゲーマーを信じて、決して安くはない報酬を支払っていただけるという事実は、必ずこれに応えなければいけないと思いを強くさせるものです。

 それがトッププレーヤーの方のプレーであれば、報酬に見合うだけの価値があると私は信じていますが、私のような実力もトップに及ばなければ実績もない無名のプレーヤーでは、試合をやって勝った負けたとしているだけでは全く釣り合わないものです。ですから、例えばこの記事のような情報発信をするのは私にとって必要なことですし、これをBEMANIやゲームセンターに縁がない方にも届けていかなければならないということです。これが私のBPL選手としての責任であると考えています。

 プロゲーマーは、ともすれば「ゲームをやっていればお金がもらえる」と思われがちですが、そうではなく「ゲームを通じて報酬に見合う価値を生み出せる存在」のはずです。BPL選手としての責任を果たしていく中で、そのことを示していくつもりです。

 私は物心ついた時からゲームに触れ続けているため、ゲーマーとしては30年選手です。しかし、今までゲームは常に自分のためにやるものでしたが、プロゲーマーとなったことで、人生で初めて人のためにゲームをやることとなります。全く経験のないことですから、かなりのプレッシャーを感じていますし、これからは今までのようにゲームを楽しめなくなってしまうかもしれません。

 それでも、BPL選手として選んでいただいたことに報いるため、自分にできることは何か、どのような価値が生み出せるのかということを考え続けていきたいと思います。

おわりに

 私は30歳を超えています。プロスポーツの世界では「引退」の二文字がちらつき始める年齢です。特に、他のeスポーツタイトルと比較して、音楽ゲームは求められる要素の中でフィジカルが占める割合が大きいので、年齢の影響がなおさら強いと感じています。今はまだ上手くなれるという自信がありますが、そう思えなくなる日はすぐそこに迫っています。(ですから、同世代か私よりも年上で第一線で活躍されている方をとても尊敬しています)

 今年BPLが成功すれば、来年以降規模が大きくなり、参加選手の数がさらに増えたり、あるいは賞金額が増えたりすることもあるかもしれません。また、公式ホームページに

初年度の対象タイトルは、20年以上の歴史を持ち、BEMANIシリーズを代表する音楽ゲーム「beatmania IIDX」です。

と記載があるため、次年度以降他タイトルでの開催も想定されているはずですから、それも現実的となるでしょう。

 BPLの規模が大きくなったことで、私より若く、私より才能がある方に道ができ、もはや私の居場所がないということになれば、これほど嬉しいことはありません。

 最後まで記事を読んでいただき、ありがとうございます。チームレジャーランドを、そしてBEMANI PRO LEAGUE 2021を、どうか応援よろしくお願いいたします。

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