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映画『死者からの手紙』

コンスタンチン・ロプシャンスキー『死者からの手紙』(1986、ウクライナ、88分)

シネマヴェーラのチラシに載っている作品解説

渋谷シネマヴェーラでウクライナ映画の特集。
10作品とも観たかったが、結果としてはこの一本のみ。

核戦争が勃発し、滅亡した後の世界を描く。
少なくとも私が今まで観た映画の中で、一番暗い内容だった。

しかし、この陰惨さは俗悪なものでは決してなく、核兵器の使用など絶対にあってはならないという強い意志が織り込まれているからだろう。

主人公は中年の学者で、たまたま博物館の地下にいたからか?生き延びることとなった。
妻と共に暮らしてはいるが、彼女は伏せったままで具合は優れない。
地上にいたはずの息子とは連絡がつかず、いつかこの地下シェルターに来てくれたときのために、日記形式で手紙を綴っている。

避難所では、他にも何人かいて共同生活を送っている。
照明も手作業での自家発電、僅かずつの食事、薬も闇市で物々交換して入手するなど、細かく様子が描かれる。

太陽が出ないためか、今が何日で何時なのかも分からなくなっている。
外出禁止時間帯を避ければ、外へは出られるのだが、もちろん防毒マスクや防護服は欠かせない。
常に雨がちで、暴風が吹き荒れている。
見回りの戦車部隊や、賭博を取り締まる動きなど、権力機構は残っているようだが、秩序などあってないようなものだろう。

やがて、身寄りもなく行き場を失った孤児たちがやって来る。
子どもたちは精神的な衝撃からか、言葉を発することもなくなっている。
そんな彼・彼女たちに主人公は、一緒にクリスマス・ツリーを手作りし、日記の続きも託す。
そしてここに留まり死をただ待つのではなく、何かしらの可能性を見つけに行けと促す。

個人的な意見だが、全ての映画には、内容がどんなに悲惨なものであっても構わないが、かすかでも希望を描いてほしいと願っている。
この作品でそれはあるのかというと、はっきりとは言えないし、一縷の望みを持つのにも絶望が大きすぎる。

やはり、核の使用など絶対にあってはならないし、戦争など起こしてはならない。
制作年の1986年はチョルノービリ(チェルノブイリ)の原子力発電所事故があった年だし、福島第一原発の事故も経験した今、より強くそう思う。

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