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"環境を通して行う教育"とデジタル

今回で3週間連続。
【推しの子】方式で4週書いて1週休むを目標にしてみようかしら。

今回は「教育データの利活用に関する有識者会議」での上智大学の奈須先生の話がとてもステキで、皆さんにも是非見てほしいと思ったので、そこから端を発して好きに書いてみたいと思います。


どんな話だったのか?

自分が何かを書くより、実際の内容や資料のほうが圧倒的に有用だと思うので、リンクを貼ってみます。

上記動画はYoutubeライブのアーカイブ。なのでいずれ消えてしまうはずなので、見たい方はお早めに。
動画より文字で、という方は原本の資料はこちらを。

大事な部分が抜け落ちちゃうのであんまりやっちゃダメと思いつつ、勝手要約すると以下のような内容です。

学力論の拡張
・学習指導要領は、内容中心から資質・能力を基盤としたものに移行
・子供本来のコンピテンシーを重視し、環境を通して行う教育が重要
多様性への対応
・子供の多様性に対応するため、教育課程や学習環境の改善が必要
・デジタルでの学習環境は、多様性に応じるだけの選択肢を提供可能
デジタルとアナログ
・デジタルによる効率化・省力化を図りつつ、アナログとの共存や融合を
・子供による自己決定の重要性が増し、教師には適切なガイドが求められる
デジタルコンテンツ
・コンテンツ任せの学びは、現場を軽視し、学力論の矮小化の危険がある
・教師が自由にコンテンツをアレンジ可能にする環境の整備が必要
データの利活用
・学びはアナログとのミックスだが、データはデジタル化していくべき
・教育活動の全体像を俯瞰し、データ活用の対応・未対応の把握を

量としてはA4で8枚、動画だと16分ほどですが、内容はとても濃密。
今後の学びのあり方の方向性、それに伴うデジタル学習環境やデータ利活用について、広範囲かつ構造的に説明しています。

要約した文の一行一行で、note1本ずつ書きたいことがでてきます。
が、今回は

・子供本来のコンピテンシーを重視し、環境を通して行う教育が重要
・デジタルでの学習環境は、多様性に応じるだけの選択肢を提供可能

あたりに焦点をあてて書いてみます。
※繰り返しになりますが、原本見るのが第一なので、以下は勝手補足として捉えてもらえたらと。

「環境を通して行う教育」とは?

最初に「子供本来のコンピテンシーを重視し、環境を通して行う教育が重要」という部分で書いてみます。

奈須先生の資料では以下のように記載されています。

全ての子供は生まれながらにして有能な学び手であり、適切な環境と出会いさえすれば、自ら進んで環境に関わり、環境との相互作用を通して不断に有能さを高めようとするし、高めていくことができるという事実認識の共有が重要である。
(中略)
ここで重要になってくるのが、幼児教育でいう「環境を通して行う教育」の考え方である。小学校以降の教育では、教師が教えるという教育方法を中心的に用いてきた。これに対し、幼児教育では、環境を整えることを主要な教育方法としてきた。今後は、小学校以降においても、環境を整え、子供たちが自らの意思と力で環境と関わり、自立的に学びを進めていくことを、教育方法のレパートリーに加え、適切に運用していきたい。

まず前提として、子供は有能な(コンピテンシーを有する)学び手だという前提。そのうえで「環境を通して行う教育」が重要になる、と。
ちなみに「環境を通して行う教育」は、以下の通り、学習指導要領「幼稚園教育要領」の実に1文目で規定されているとても重要な概念です。

幼稚園教育要領

一方で、小学校以上の指導要領では同様の記載は見受けられません。
この辺りの理解を深めるには、構成主義と客観主義をざっくり理解しておくと良さそうです。

構成主義とは?客観主義とは?

と言っても、自分も人に解説できるほど学んでおらずざっくり理解です。ご存知ない方は以下とかが分かりやすいかも。

うーむ、めっちゃ分かりやすい。
客観主義では、知識は独立していてその知識をインストールすれば学べる。
構成主義では、体験や環境の影響を受けて自ら構成することで学びになる。

この分類をすると、指導要領において幼児教育では構成主義を前提として敷き、一方で小学校以降の指導要領では客観主義が多くなっているように見えます。

小学校以降で客観主義が主になる理由

これについては

  • 学齢的に抽象概念の理解や理論的な学びが可能になってくること

  • 内容の複雑化・量の増加から、体系的に学ぶことが求められる

  • 体系的に学ぶにあたり、標準的なカリキュラムが用いられている

あたりが要因なのだと勝手理解しています(指導要領の策定過程をちゃんと見られていないので抜け漏れ・勘違いがあったらごめんなさい)。

結果として先生の役割も幼児教育では環境を整え、子どもたちが自主的に学ぶことをサポートする役割が色濃くなり、小学校以降では授業を通じて体系的に知識・技能を伝達する役割の色が濃くなるのだと思います。

標準的なカリキュラムの限界

一方で、標準的なカリキュラムでの限界も見えています。
文部科学省「義務教育に関する意識に係る調査」では、授業の内容が「難しすぎる」という児童生徒が30%強、逆に「簡単すぎる」が15%強となっていて、半数近くが「自分に合っていない」と感じています。

義務教育に関する意識に係る調査から抜粋

とはいえ、幼児教育と比較すると前述した通り学習内容の複雑化や量の増加、以前より多様化した(または多様であることを社会が認知し始めた)子供たちへの対応、主にテストを通じた評価の比重が高くなること、などなどから「環境を通じて行う教育」の難易度が各段に上がるのだと感じています。

上記を踏まえると、「環境を通じて行う教育」のためには、多種多様で大量、かつ良質な学習環境が不可欠です。そうでないと、結局は先生方の多大な労力に頼る羽目になり、今の先生の労働環境改善とは真逆になってしまいます。

この状況に対する解決策が「デジタル」なのだと自分は考えています。

限界費用のゼロ化とデータによる質の向上

学習環境に求められる量と質。
量の部分は、デジタルの学習環境は「限界費用ゼロ」に近づくことで、説明することができます。
詳細興味ある方は以下の書籍で。

端的には、デジタルコンテンツは一度つくってしまえばコピーが容易で、大量生産のコストがほぼゼロになるから。これがビーカーだと、大量生産で単価を下げても必ず製造原価は発生し、限界費用はゼロにはなりません。

質の部分は、デジタル自体のマルチメディアの特性もありますが(一方でこれは視覚・聴覚優位になりがちという課題もある)、データによる最適化の方が効力を発揮すると考えています。

この辺は以前、以下で書いているので興味あればご覧いただけたらと。

スラム街でもネットがあって褒める人がいれば

「環境を通じて行う教育」の重要性と、それにはデジタルの学習環境が有用では、ということが自分の中で繋がったのは、2012年に以下のスガタ・ミトラ氏のTEDを見たときからでした。

インドのスラム街で行った「Hole-in-the-Wall」というプロジェクトです。
街の一角にインターネットが使えるPCを置いて、子供たちに自由に使える環境を整える。その横にただただ褒めて励ますおばさんを配置する。
そうすると、PCを使ったことがなく英語を扱えない子でも、PCを巧みに使い、英語で学び、能力が向上した、という実験結果です。

勿論、日本の先生方はただただ褒めて励ますだけの人ではないと思っています。奈須先生の資料でもある「教師の健全な意図性や指導性に基づく適切なガードレールを設けつつ、学校での学びをオーセンティックとする」の要素も加わるのだと思っています。

GIGAスクール構想の"GIGA"も「Global and Inovation Gateway for All」つまりはすべての子どもに世界に繋がる革新的な入口を

学習者が起点となる学びに構造を変えていくために、現時点ではデジタルが最も解決策に近いと確信しています。
だからこそ自分は(もっと割の良い仕事はいくらでもあるのですが)、この仕事を続けています。

「誰もが自分らしく学べる社会」との関係

要約の2項目分だけ取り上げて書いても、こんな長さになってしまいました。比較すると、如何に奈須先生の資料が密度濃く、まとまっているのかが良く分かります…。

小学校以降では客観主義ばかりのような書き方していますが、実態としては「環境を通して行う教育」も重要視されていて、体験学習や探究学習などの機会を設けるよう活動されていると理解しています。
一方で、実験主体で授業設計している妻(小学校の理科専)の授業準備の大変さを横で見ていると、めっちゃ大変そう、とも感じています。ホント、全国の先生方はすごいっす。

ちなみに今回書いたことは、前述した以前の内容(これこれ)の焼き直しに近いです。
今の自分の活動は、2019年に書いた以下のビジョンと図に全て由来するので、色んな起点で同じこと書いても良いかな、と思って書いてみました。

学習者の左右にあるのが「環境」で、それらを支えるのが「データ」という図なので、ビジョンにピッタリなので今回のテーマを書いたのでした。
※まなびポケットが基本無料のフリーミアムモデルを採用しているのも、前述した限界費用ゼロの観点だったりもします

あとは今回書ききなかったけどめっちゃ重要な点として「標準化によるシステムとデータの相互運用」があったりします。
これナシでは、「環境を通した学び」の目指す姿には到達できない感じていて、いわゆるNGDLEを具現化するための「学習eポータル」にコミットしていたりしています。この辺もどこかで書けたらと。

おわりに

一番の目的は奈須先生の資料を皆さんが見る機会をつくることだったので、そうなったら嬉しいです。
会議では他にも群馬県の実践やデータ活用のユースケース例の整理などもあるので、興味があれば是非ご覧ください。

次回は少し違う観点のシステムっぽい話でも書こうかと思います。
ではまたー。


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