河童66

「くっ・・気味の悪いやつらだ」
口から出る言葉は投げ槍になる。
なんとか身体を起こそうとするが、右腕と首だけが動いて、それ以上動くことが出来ない。
「おまえたち、娘を沼に引きづりこみ溺れさせたな。」
坊主は気味の悪い河童どもの這う姿をみながら呟いた。
坊主は成り行きに任せるように目を閉じ、河童たちの近付く気配と音に耳を傾けた。
「眠ろう。眠りについて溺れ死のう。次に目覚めれば地獄か極楽。・・・楽しみにしておこう」
冷たい水が顔を覆い、河童たちが近付く音が、チャプチャプと耳によってくる。
意識が落ちてゆくなか
「康介どのは・・。先ほどの女たちは」
頭に浮かんでくる。
「もうよい。眠りにつけば・・すべて終わる」

意識は闇の中へと。しかし、それは一瞬。
坊主の意識は少しの刺激でこの世にとどまる。

首や背中を捕まれている。その感触が坊主にはあった。

沼に引き込まれるか。
「待ってくれ。今しばらくすれば眠り込む…,」
水に浸かる顔のまま小さく訴えてみた。言葉は泡となり消えてゆく。
このまま引きずり込まれるのは苦しそうだ。
「今しばらく待ってくれ。」
思うが身体は引きずられてゆく。
生きてゆく苦しみも、死にゆく苦しみも。しっかりと体験した生涯。
安らぎの時が思い出せない。
坊主の願いは届いたようで、意識は闇へと落ちていった。

26

「極楽か地獄か…。」
闇から戻り、いくつの季節が移り変わったか。
「あのまま死ねれば極楽か、それとも地獄だったのだろうか。死んで地獄の方がいっそ楽なのか…生き地獄は…なんとも言えん。」

風を感じ、虫の音を聞き、青い空を拝み、満たされた安らぎらしきを感じてみても。心にすきま風、耳に苦しみの吐息、目にみえるは悲しみと憎しみの顔。

「大自然は、このにわか坊主を生かし、死者のお守りをさせたいらしい…。」


目が覚めると筵の上だった。
湿った着物のまま寝かされていた。
すでに片腕は切り落とされて、切り口は焼かれているようだ。
湿っぽい着物はどうやら寝汗で不快だった。
「…誰の着物だ。」
首だけ動かし見慣れぬ着物を見ていた。






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