河童44

康介は気づく。
静かに見回す三人の中で、一人康介だけが気づき背中に戦慄を走らせる。
「目玉かっ」
節穴から覗く黒い目玉。
社から漏れる灯りに美しく光っている。
美しく光を映すものが目玉と解る。それは瞬きをしている。
ゆっくりとした動き、まぶたは上からと、下からも目玉を覆っている様子がある。
黒い目玉がゆっくりと動き、節穴から見えなくなる。
灯りを反射するものが何もなくなったのは間違いない。
目玉だ。
皆が目だけを動かす静寂。
自分が見たものを言葉に出すべきか、このまま気のせいで黙っておくか。
迷いのうちに、
「そのまま静かに」坊主は片手をあげて辺りを制するようにする。
坊主は見えない外に目を向ける。その時。
「うぁー」
遠くで叫び声。
その瞬間立ち上がる坊主。
「しまった。やられたか」
見えない外に向かい呟く。
戸口に手をかけ動きを止める。
考え込む。
「鞘を」
康介の刀の鞘を戸口に突っ張る。
「さあ、どうする」
自分に問いかけ踵を返し社の中を歩きまわる。
「あの人たちでしょうか」
娘が言葉を震わせ呟く。
「うむ」
坊主は腕組み歩き回るのをやめない。遠くからは新たに叫び声がきこえてくる。
叫び騒ぎ続けている声が風に乗り、小雨の粒を縫うようにして社に届く。
叫びがとまる。
雨もやんだか静寂が来た。
「・・・足音。」
確かに社の近くを何かが走り寄る音。そして、バタンッ
何かが壁にぶつかる。
次はガガガガッと壁に何かを押し当てるように走り回る音。
枝だろうか。
そして静寂。
「なんだ・・・。」
歩き回るのをやめ、腰を落とし身構える坊主。
娘は膝で立ち上がりきょろきょろと落ち着きもなく辺りを見回している。
康介は痛む身体を動かし、身体を支え損ない崩れ落ちるのを耐えて片膝でたつ。
「くそっなんだっ」
声で勢いつけ身を起こす。
辺りではバシャバシャと音をたて走り回る気配。
康介の後ろの壁には何やらの気配を感じる。感じたそのとき、バンッ と壁が叩かれたような音。
三人は肩をすくめて音のした壁を見つめる。
それが合図のように辺り一面しゃがれた叫びが響き出す。
皆のからだに戦慄。



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