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「シンプルなアプリ」の粒度感について考える

この記事は何か

こんにちは。B2E(Business to Employee)アプリのデザインコンサルをしている松岡といいます。

先日、樫田光さんの『せっかくシンプルにした顧客セグメントを複雑化しようとしてくる人たちに放ちたい、偉人の名言集』という記事を読んで感銘を受けました。

これを読んでから、「シンプルであること」は、顧客セグメント以外にも当てはまるんじゃないかと考えました。

ということで、今回は「アプリケーションのデザインシンプルにすること」とはどういうことなのか、また、どのようにシンプルにすべきか、について思うことをつらつらと書いていきたいと思います。

ちなみに、松岡は普段はB2E(業務アプリ)を専門にしていますが、いわゆるB2Cの一般的なアプリにも当てはまる、ある程度普遍的なことが言えればなと思って書いています。


この記事に出てくるキーワード

ミニマルデザイン
・アプリのアンバンドリング[unbandling](分割)
ブックマーク理論 ※自論


ミニマルデザイン

「ミニマリストデザイン」とも呼ばれ、Appleの製品に代表されるような、余計なものを削ぎ落として、ユーザーにとって本当に必要なものだけにフォーカスさせる考え方です。

Wikipediaの定義は以下の通りです。

あまり使用しない機能のせいでシステムが肥大化することを避け、必要最小限の機能に絞って設計すること。

ミニマリストデザインの歴史については、以下の記事がよくまとまっており、参考になりました。


具体的に、ミニマルデザインをアプリで実現した例には以下のようなものがあります。

Twitter
・「タイトル」がなく、気軽に投稿することにフォーカス
・本文が140字と限られている
Instagram
・様々な投稿の種類の中でも「写真」にフォーカス
・プロが行う複雑な加工テクニックをわずかなステップで完了できる
iOSの「Camera(カメラ)」と「Photo(写真)」
・「Camera(カメラ)」は写真を撮ることにフォーカス
・「Photo(写真)」は撮った写真を見たり、整理したり、編集したりすることにフォーカス

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どれも馴染みのあるアプリかと思いますが、こうして振り返ってみると「なるほどぉ」という感じがしますね。

また、このnoteというサービス自体も、ミニマルデザインの考え方が洗練されており素晴らしいと思います。

note
・クリエイターが記事を書くことを続けられることにフォーカス
・フォントカラーやサイズなど、カスタマイズ要素を敢えて制限

実際に、ブログを始めようと思って色々なサービスを試してみて、Noteは一番カスタマイズ性が低かったですが、その分書くことに対する障壁が低くなることに気づきました。

ユーザーによるカスタマイズ性や拡張性を削ることで、「書く」ことに集中でき、それが「継続してできる」ことにフォーカスを置いたサービスデザインは流石だなと思いました。


なぜシンプルにするのか

アプリをシンプルにするメリットは、ミニマルデザインに関する様々な記事でまとめられていますが、簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。

ユーザー側:
 ・利用シーンに合わせた最適なUXが実現できる
 ・純粋に操作が簡単になるので覚えが早い
アプリ側:
 ・開発工数が削減できる(運用・保守も楽)
 ・Try & Erorr のサイクルが早く、すぐ試せる


また、アプリケーションがモバイルになった場合、さらにアプリがシンプルになる傾向があります。

これには、

・PCに比べ画面に表示できる情報が少ない(フォームファクタ)
・マウスや物理キーボードではないタッチ操作という制限(入力メソッド)

などの理由があるのではないかと考えています。

実は、モバイルに関してはミニマルデザインとは少し違った考え方もあるようです。


モバイルにおけるアプリケーションの「アンバンドリング(分割)」という考え方

特にAndroid(モバイル)において、アプリケーションを「アンバンドリング[unbundling](分割)」することで、ユーザーにとって使いやすいアプリを提供できると、Googleは言っています。

多くのデベロッパーは、ウェブ エクスペリエンスをそのままアプリに再現しようとします。その結果、アプリが肥大化して複雑になってしまいます。これを複数のアプリに分割することで、入口を別々にした使いやすいアプリをユーザーに提供できます。

 『アプリ分割のメリットとデメリット|Android Developers』(2019年1月7日アクセス)より

実際、「Google Drive」はWebでは一つのアプリですが、Android、iOSといったモバイル版アプリでは、

・スプレッドシート系
・ドキュメント系
・プレゼン系

の3つのアプリに分割されています。

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(画像出所↓)


ちなみに、このアンバンドリングの考え方は、先ほど例に挙げた、iOSの「カメラ」アプリと「写真」アプリにも言えるのではないでしょうか。

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スマホが普及する前、多くの人はデジカメを使用していたと思います。

デジカメには大きく「写真を撮影する」「撮った写真を確認する(プレビュー)」という2つのモードがあり、

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このようなボタンを押すことで、それぞれのモードを切り替えて使っていた覚えはないでしょうか。(もしくは現在進行形)

AppleがiPhoneという「電話」の中に、「カメラ」という一つのアプリをそのまま入れるのではなく、「写真を撮るためのアプリ」と「撮った写真を見たり整理したり加工したりするアプリ」をわざわざ分割して入れたのには、こうした背景があるのではないでしょうか。


どのような粒度でアプリを分割すれば良いか

アプリを分割する際、以下の観点に注意すべし、とGoogleは言っています。

アプリの中核となるエクスペリエンスは何か。アプリが複数の機能で構成されている場合は、そうした複数の機能を分割することでアプリを簡素化でき、ユーザーが直感的に操作できるようになります。(以下略)

アプリの分割を正当化できるほど明確に区別できるユーザー層が存在するか。(以下略)

ユーザーがアプリをどうやって見つけるか。限定的なカテゴリのアプリの場合、インストール コンバージョンを増やす上で重要になるのが、そのカテゴリに特化した検索トラフィックです。(以下略)

組織内の人員などのリソースは十分か。複数のアプリを開発、管理するのに十分な人員がいるかどうかを確認します。小規模な組織では人員の不足が問題になりがちです。一方、大規模な組織では、社内の複雑さが問題になることがあります(特に社内に堅牢な製品管理システムがない場合)。(以下略)

テストや反復開発は重要か。 アプリを分割することで、新機能のテストは容易になります。大きなアプリの場合、内部承認が複雑で時間がかかるために反復開発が困難な場合がありますが、分割を活用すれば定期的な改良や的確なタイミングでの改良が可能になります。

固有のブランドを維持することは重要か。 ブランドが認知されている企業にとっては、固有のブランドを使い続けることがブランド エクイティの観点から重要である場合があります。

国際展開が最優先事項か。 アプリを分割すると、インストール サイズが小さくなり、読み込み時間を短縮できます。(以下略)

『アプリ分割のメリットとデメリット|Android Developers』(2019年1月7日アクセス)より

これら観点は、ユーザー、提供側の両方の観点を含んでおり、モバイルに限らず、PCのネイティブアプリやWebアプリにもある程度通用する考え方なのではないでしょうか。


iOSやAndroidのホーム画面のアプリアイコンの粒度はは、Webの「ブックマーク」に相応するという考え方

究極のところ、「利用者にとって最適なユーザー体験を提供できるかどうか」でアプリをシンプルにすることが鍵であることは分かりました。

一方、もう少し噛み砕いたシンプルな解釈として、「ブックマークに登録して必要な時にアクセスできるちょうど良い粒度にする」という考え方があるのではないかと思います。

松岡は勝手に「ブックマーク理論」と名付けています。(何のひねりもなし)

実際に、iOSではSafariのブックマークをホーム画面のアイコンとして追加することができますし、AndroidでもChromeで同様のことができるようです。

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ユーザーがパッと何かを思い出した時、すぐにアプリを立ち上げて、やりたかったことができる。

そういう意味で、アプリアイコンとブックマークは意外とかなり近い考え方なのではないでしょうか。


最後に

あれこれ書きましたが、最後はやはり、この方の名言で締めくくりましょう。

Simple can be harder than complex. You have to work hard to get your thinking clean to make it simple. But it’s worth it in the end because once you get there, you can move mountains.

シンプルであることは、複雑であることよりもむずかしいときがある。物事をシンプルにするためには、懸命に努力して思考を明瞭にしなければならないからだ。だが、それだけの価値はある。なぜなら、ひとたびそこに到達できれば、山をも動かせるからだ。

- Steve Jobs

実際、私の普段の仕事の中でも、クライアントの要望をどれだけ多くアプリに吸収できるか、それをいかにシンプルにデザインするかという葛藤が起きますが、いつか山を動かせる時がくることを信じて懸命に挑んでいきたいものです。🗻

最後までご精読、ありがとうございます。

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