人生において不可欠な友だち ―穏やかに過ごす幸せを教えてくれる北原尚弥さんの話―
長野県南木曽町役場でお仕事をされている北原尚弥さん。
「友達が大事」と語るなおやさんの穏やかな表情に、
終始、和やかな雰囲気が漂っていました。
>北原尚弥さん(30)のプロフィール
長野県木曽郡南木曽町に生まれ、地元の小学校から高校まで通う。
高校卒業後は南木曽町役場へ就職し、今年で勤続12年目になる。
【① 中学と高校の違い】
― 中学ぐらいからこれまでは、どのように過ごしてきたんですか。
小学校は10人のクラスだったんですが、中学校になったら50人くらいに増えて、ほとんど知らない人の中で学校生活がスタートしました。
勉強は別に好きではなかったので、あんまりいい点じゃなかったですね。美術とかは好きでしたけど。
― 美術がお好きだということでしたが、例えばどんなことでしょうか。
絵やものづくりが好きでした。切り絵とか器とか、木工作品をつくるのが好きでした。
それから、キットから作る技術の授業も好きでしたね。
― 卒業後は、迷いなく地元の高校へ進まれたんですか。
あんまり勉強ができるわけではなくて、正直、近場だしって思って行ったような感じだったと思います。
高校に入ったら、南木曽町だけではなく、近くの地区や隣の町村から通って来る生徒がたくさんいました。
―高校に入り、町外から入ってきた人に会い、中学生のときと比べて何か違いはありましたか。
違いましたね。雰囲気とか。
趣味とかも違うし。新しいものが増えた気がしますね。
― 例えば?
一番は音楽ですかね。
ハイスタンダード*などのインディーズバンド*が流行りだして。
自分は入ってなかったけど、音楽は好きだったんでよく軽音部の部室に行ってました。
ハイスタンダード(Hi-STANDARD)*とは、1991年に結成し、現在は3人組で活動している日本のパンク・ロックバンドのこと。
インディーズバンド*とは、インディーズレーベルに分類される組織に所属するバンドのこと。「ソニー」や「ユニバーサル ミュージック」など、「日本レコード協会」に登録しているレコード会社のレーベルはメジャーレーベルといい、それ以外で独立して活動するレーベルのことを「インディーズレーベル」と呼びます。なお、レーベルとは、レコード会社の部署の一つで、CDを作ることに携わっています。
ただ、相変わらず勉強はできる方ではなくて。
高校3年生くらいになると、進路どうするよっていう話が出てきて、
勉強も好きじゃないし、進学に興味はあったけど、地元企業に就職かなと思いました。
でも就職したいところは見つかってなかったんです。
そのとき、父親に「町役場受けてみたら」って言われて。
受けてみたら採用通知を頂いたので、そのまま町役場へ入社したという感じですね。正直、そこで受かってなかったらどうなってたのかわかりませんが。(笑)
それで、南木曽町役場の上下水道係で5年間働きました。
その後、税務係でさらに5年間働き、去年は一年間、県職員との交流派遣として、木曽地域振興局に勤めました。
今年は、町役場の税務係で働いています。役場へ入って今年で12年目ですね。
― すごいなぁ。高校卒業してすぐに働き始めているから、だいぶ長いですね。
【② 誰かに後押しされてたら】
― 高校の進路は働くことに決めたなおやさんが、今振り返ると「進学してもよかったんじゃないか」と思ったのはどうしてなんでしょうか。
去年一年間、木曽地域振興局で働いていた時に、仕事として長野市などへ行くようになったんです。
そしたら、次第に町外の市町村にも興味が出てきて、もっといろいろ知っておけばよかったなっと思ったからかもしれません。外へ行ってたら、視野が広がったなと。
― 何を知っておけばよかったと思ったんですか。
全部ですかね。街並みから、文化、歴史、人。
こんなものがあるんだとか、こんな考えなんだとか。
それを知ってたら、町の中で役場職員として活かせますし。
インターネットで調べればいくらでも情報は得られるけど、実際に自分目で見てみないと、見たものに対する認識が違ってしまうんじゃないかと思います。
町外へ出てみなかったことは、ちょっともったいなかったなとも思いますけど、高校からずっと町役場で働いてたので町内のことをよく知れたのはよかったと思ってます。
― なるほど。
どっちがいいってわけじゃないけど、最近は、大学行ってもよかったのかななんて思い始めた、という感じです。
― 去年一年間、長野県木曽郡木曽町にある木曽地域振興局で働いていたとのことでしたが、実際に町外へ出てみてよかったことってどんなことですか。
課長が「時間があったら外に出て、視察しておいで」ていう人だったので、
今までは道を知ってるくらいだったけど、車から降りて歩いて、さまざまな施設の中へ入ってみたことで、一歩踏み込んだ情報を得られたように思います。
振興局では郡内の行政の取りまとめをしているので、郡内のいろいろな情報に触れられることや、出先での出会いとかも面白かったですね。
そうそう、最近、いろいろな人と話すもの面白くなってきました。
時間があったら新しいものを知りたいと思いますね。気が向いたらですけど。(笑)
― 気が向いたら(笑)
― さっきのお話のなかで、進学に興味を持っていらっしゃったそうですが、どのような点で興味があったんですか。
簡単に言うと、出会いですかね。女性もそうですし、男性も。
ただ、当時は進学する勇気がなかったですね。
― あぁ~、なるほど。
誰かに後押しされてたら、外へ行ってたかもしれないですね。
それがよかったかどうかは置いといて。(笑)
【③ 自己満足と反省】
― なおやさんが夢中になっていたことってありますか。
一時期、絵を描くことにはまってました。
― 何を描いていたんですか。
小・中学生のときは、ドラゴンボールっていうアニメのキャラクターとか、遊戯王っていうカードゲームとかを描いていて、高校生のときは、当時好きだった芸能人だと宮崎あおいさんとかを描いてました。
― どんな画材を使って、どのように描いていましたか。
鉛筆を使って、模写をしていました。
友達の顔写真とかも描いてましたね。
これとか。
― これもらったら、嬉しいですね。
気持ち悪いかなって、不安を抱えつつ、描いた似顔絵を誕生日にプレゼントしたんですよ。それは喜んでくれたんでよかったです。(笑)
― いやいや、これは喜んでくれますよ。ちなみに、今も描かれているんですか。
こんときは独身で、時間にも余裕があったんで、帰宅後に一人で描けたんですが、模写はすごい時間かかるんで、今はやってないんです。
― なおやさんは、誰かの顔を模写するのが好きなんですか。
そうですね。特に、目を描くのが好きですね。
― どうして好きなんですかね。
なんで好きなんですかね。(笑)
リアルだからかな。
作品にするのが好きなのかも。
― あぁ、なるほど。
出来上がった絵を眺めて、お酒とか飲めるんですよね。
― それ、ぜいたくですね。
完成した達成感を味わって。
「今日、いい感じにできたなぁ」みたいな。(笑)
― その一人鑑賞会、やめられなくなりません?
はい。(笑)
自己満足の味わいと、それから、反省みたいなこともしてましたね。(笑)
― あ、喜びに浸ると同時に反省もされるんですか。
はい。(笑)
顔の片方は納得いってるけど、もう片方は納得いかない、みたいな。(笑)
― あー、ここの部分、もうちょっとこう、みたいな。(笑)
今でも、ふと思い出したときに自分が描いた絵を見返しちゃうんですよね。
あのときこんなん描いたなぁ、みたいな。(笑)
― 夜とかに?
そうそう。家に帰ってきて、一人になったときとか。
あと、誰かに見せた後とかも。見せた直後は見返さないんですけど、一人になってから。(笑)
また描いきたいな。
絵を見てるときもそうだけど、職人さんとかも、見てると、わくわくしちゃいますね。
― あ、そうなんですか。
そうそう、職人さんのやっていることを見て、それやってみたいって。
― 職人の仕事を「自分もやってみたい」と思われるなおやさんは、ものづくりを仕事にしたいと思いますか。
いや、仕事はいいかな。趣味だからやりたいんだと思います。
仕事だと、納期とかもあって思うようにできない部分もあるじゃないですか。時間決まってないんだからやりたいんと思います。誰にも何も言われない状態で自由に。
― なるほど。
【④ 人生において不可欠な人たち】
― 人生の進路選択を通じて、なおやさんが大切にしてきたものってなんでしょうか。
一番はたぶん、友人との付き合いですかね。
― それは、どのように大切にされてきたんでしょうか。
自分はけんかがあんまり好きじゃなくて。見てるのも嫌だし、自分もしたくない人なので。
友だちがけんかになると、自分はけっこう、仲介役をしてました。
彼氏と彼女の間を取り持ったりとか。(笑)
友だちが大事なので、けんかしてほしくなくって。
― なんで大事なんだと思いますか。
いつでも助けてくれるし、一緒に同じことやると楽しいし、くだらない話にも付き合ってくれるじゃないですか。
今の仕事をしているのも、みゆき(嫁)と出会えたのも、自分の趣味や新たな友人ができたのも、すべて友だちがつないでくれたおかげなんです。自分の人生において、友だちの影響力がとても大きいからだと思います。
― なるほど。たしかに、いくらくだらない話でも聞いてくれて、自分と時間を共有してくれますね。
友だちは、人生において不可欠な人たちなので、大事にしてるんじゃないんですかね。
でも、みんな友だちは大事だと思ってますよね。
― 友だちが大事だという感覚はみんなが持っていて、でも自分の人生にとって友だちがどれくらい大事なのかは、人によって違うかもしれませんね。
あぁ、なるほど。
自分の場合は、友だちの優先度がとても高いですね。
こういう田舎だから、都会よりも友だちを大事にするのかなぁ。
― あぁ、たしかに、育った環境も影響してるのかもしれませんね。
【⑤ 仕事とは】
― なおやさんの人生にとって、仕事ってどういうものでしょうか。
自分の人生においてだったら、生活するために必要なもの、かなぁ。
役場の職員として、ならまた違いますけど。
― 結婚前の自分の人生においての仕事ってどういうものでしたか。
いやぁ、そんなに深く考えてなかったですね。(笑)
お金を稼ぐために、しっかり仕事してたって感じですね。
もっとセンスのある返しがしたいですけど。
生きがいです、みたいな。(笑)
― 聞こえのいいかんじの。(笑)
趣味を仕事にしてる人もいるけど、自分は仕事=趣味ではないかな。
ただ、町民みなさんのためになる仕事をさせて頂いていることは、役場の職員としてやりがいを感じてます。
― うんうん。
自分はずっと町の中にいたから、仕事というものを深く考えたり、振り返ったりする機会があまりなかったのかもしれませんね。
― あぁ、なるほど。
― これからやりたいことはありますか。
最近は、知らない町へ行って、宿場町をただただ、歩きたいです。
どんな生活してるのかなとか考えながらの散策もしたいですね。
― 趣味に散策が加わりましたね。
そうですね。
最近は、Youtubeにも散策してる動画があるじゃないですか。
ただ単に撮ってるだけの。ああいう街並みとか、構造物とかを見ているだけでも、面白いですね。
― なんだか私も散策したくなってきました。
北原さんとお話をし、友だちという宝物を大事にしながら穏やかに過ごしていく楽しみを教えて頂いたように感じました。本日はありがとうございました。