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ポスト・コロナ時代にプロモーションはどうなるのか?

 プロデュース部の上島です。このひと月あまりですべてがコロナ一色に染まり、仕事だけでなく生活もまったく違ったものに塗り替えられてしまい、キツネにつままれたような気持ちで過ごしています。ニュースを読めばほとんどがコロナの記事で、「ポスト・コロナはこうなる」と有識者たちが喧々諤々と未来予想図を展開しています。
 これは個人的な予想なのですが、「ポスト・コロナはまったく世界が新しいものに変わってしまう」とは実はあまり思っていなくて、緊急事態宣言が解除されてひと月もたてばほとんど何もなかったかのように元に戻っていくと思っていますが(※あくまで個人の希望的観測です)、「その中間ぐらいに社会が変容していったとしたら」という仮説をもとに、販促業界の端くれとして私もポスト・コロナのプロモーション考察を展開してみようと思います。

プロモーションの目的は、豊かさの民主化である

 まず、コロナに関係ない普遍的な「プロモーションの目的」という大前提から考えますと、すべてのプロモーションは「みんなの生活を豊かにするためにある(豊かさの民主化)」ということです。ドラッカーの著書に「マーケティングの理想は販売を不要にすることである」という名言がありますが、同じように「みんなの生活」がすでに十分に豊かであったら、そもそも広告やプロモーションは必要ありません。しかし現実はそうではないので、企業は常にみんなの生活を豊かにするために新しい課題を発見し解決することが使命で、それをみんなに行き届かせるために用いる手段がプロモーションというわけです。
 たとえば今やキャッシュレスの代名詞ともなった「PayPay」ですが、スマホやインターネットが誕生するはるか昔から「クレジットカード」というキャッシュレス手段は存在していましたので、キャッシュレス自体は決して新しいテクノロジーではありませんでした。そして実際に使ってみるとわかると思うのですが、キャッシュレスは確実にみんなの生活を豊かにします。
 しかし、PayPay以前にもおサイフケータイやApple Payなどのスマホ決済サービスはたくさん存在していたにもかかわらず、一部のデジタル好きやアーリーアダプターに普及が限定されていて、「みんな」まではキャッシュレスの豊かさが行き届いていませんでした。ここまでスマホ決済が広くみんなに普及したのは、PayPayが100億円以上もの莫大な費用を投じて「みんなにプロモーション」したからです。PayPayによるプロモーションとその後のQR決済の普及は「プロモーションの目的は豊かさの民主化」を説明するのに最適な出来事でした。
 他にも、通販やサブスクを民主化したAmazonやフリーマーケットを民主化したメルカリなど例を挙げればいとまがないし、そもそもそれらのプラットフォームであるスマートフォンを民主化したのもAppleによるiPhoneのプロモーションでした。

ポスト・コロナに購買行動はどう変わるのか?

 次に、コロナによってみんなの購買行動がどう変わっていくのかを考えてみます。それを考察するのにうってつけの記事が東洋経済に掲載されていました。

 ざっくりまとめると、みんなの衛生意識が高まり、在宅時間が増え、外出・外食が減ったことによって「衛生用品」「日用品」「食品」の売上が伸び、反対に「メイクアップ用品」「レジャー用品」の売上が落ちた、ということです。まあそれはそうだろうなという結果になっていますが、これがずっと続くわけでもないと思いますので、雰囲気中間ぐらいに最適化されていくとして、購買行動は次のように変化していくと考えます。

衛生意識の高まりは戻らない

 まず、高まった衛生意識がまったく元に戻ってしまうことはないでしょう。事実、コロナ禍に起因するかどうかは不明ですが、例年この時期に大流行するインフルエンザが今年は6割程度に抑えられたという話もあり、もちろんインフルエンザにかからない方がみんなの生活が豊かになるからです。かくいう私も、いつもより手洗い・マスクを徹底的に行った結果、今までほぼ毎年かかっていたインフルエンザに今年はかかりませんでした。新コロが落ち着いてもこの習慣は続けます。
 インフルエンザの流行は3月までにだいたい終わりますが、新コロは終わりがまだ読めませんので、衛生用品が今まで以上にオールシーズンの定番商品になることは確実です。それ以外にも「みんながベタベタ触ったものはなるべく避けたい」という意識の変化もあるように思います。触って試してもうらプロモーションや、試飲・試食施策は少しやりづらくなるのではないでしょうか。屋内の即売会など、密なところにたくさんの人を集める系のイベントも難しくなるかもしれません。

健康意識の向上に派生する

 みなさん、GWの巣ごもりで太りましたよね?私は2kg太りました。やっぱり、家から出ないだけでこんなに太るんですね。先ほどの東洋経済の記事で「売れた食品ベスト10」にラインナップしていたのが「プレミックス・小麦粉・ホイップクリーム」というところからも日本国民全体の体重増が予測できます。あと寝過ぎて腰も痛くないですか?さらに昼から飲んでいたのでアルコールの消費量も増えてしまいました。およそ健康とほど遠い状況です。
 そこで私は、在宅ワークにつき通勤の時間がなくなったこともあり、朝のジョギングをはじめました。もちろん人ごみを避けてマスクをしながらですが。自宅での自重トレーニングも増やし、運動後にはプロテインを飲みはじめました。外食ができないので自炊が増えたのですが、食べるものにも今まで以上に気を使うようになっています。
 こういった変化は全体とまではいかないと思いますが、手洗いの重要性をみんなが実感を持って再認識したこともあり、少なくとも今までより「健康意識高い系人口」は今回確実に増えたと思います。

店頭購買への回帰

 今回、あまり大きな声では言えないですが「リアル店舗に行く回数が増えた」という人が意外と多かったのではないでしょうか。配送網の混雑によりAmazonが翌日届かなくなったこともありますが、「買い物にかこつけて外出したい」という理由もあったと思います。行ったら行ったで、掃除用品や片付け系のグッズなどもついで買いしてしまう。自宅にいる時間が増えたことで発生した、炊事や掃除、整理整頓という新たな「漠然とした課題」を解決するには、指名買いが前提のUI・UXになっている平面的なネット通販よりも、歩いているうちに自然と空間陳列が奥行きを持って目に入ってくる立体的なリアル店舗の方が、やはり強い。そして、買い物はネットよりもリアル店舗の方が楽しいということに、改めて多くの人が気づかされたのではないでしょうか。Amazonが踏み入れられない、100円ショップの偉大さにも。

店頭のメディア化が進み、小売店はセレクトショップ化する

 みんなの衛生意識や健康意識が高まり、お店で買い物をする人が増えてきたとき、「豊かさの民主化」としてプロモーションはどうなっていくのでしょうか。私は「店頭のメディア化が促進され、そこにプロモーションが接続される」と思っています。現時点でも店頭はすでにひとつのメディアとしての影響力が決して低くないですが、特に食や健康を取り扱うスーパーやドラッグストアの店頭で発信される情報への注目度はさらに増してくると思います。
 人生100年時代、「健康に長生きすること」が何よりの豊かさといえますが、生きる上でめちゃくちゃ大事な豊かさにもかかわらず、まだこのテーマは十分に民主化されていません。今回ようやく手指消毒がおよそ正しくみんなに広まったように、まだ一部の「健康アーリーアダプター」が自発的に取り組んでいるだけです。その豊かさを民主化する責務が、これからの店頭メディアに求められるようになると予測します。
 そうなると必然的に、小売店はセレクトショップ化、もしくはSPA化せざるを得なくなってきます。今でも各企業がPB(プライベートブランド)商品の開発に注力し、日進月歩で洗練された商品がリリースされていますが、「PBコーナーが充実してきた」というレベルではなく、店舗のラインナップ全体がひとつのコンセプトで串刺しされ、そのメッセージをプロモーションすることが店頭の姿になってくるということです。
 たとえば、健康的な生活をさまざまに提案している店舗の中に、めちゃくちゃアルコール濃度の高いお酒が置いてあったら違和感が生まれるようになります。私自身、ワインが大好きなのでアルコールを否定しているわけでは決してないのですが、残念なことに「アルコールは少量でも健康に害がある」という研究結果が明確な事実として定着しつつあり、「酒は百薬の長」信者としては涙目の展開です。とはいえ、適度なアルコールが精神的な豊かさをもたらすこともまた事実なので、「健康に気を使いながら適度にお酒を楽しもう」として、アルコール○%以下のお酒だけ取り扱うとか、酵母や麹、ポリフェノールの栄養成分にこだわった商品だけに絞るとか、このアルコール濃度のお酒は1日にグラス一杯だけにしましょうというアドバイスを発信するとか、禁酒ワークショップをお店発信でコーディネートするとか、これが店頭のメディア化促進とセレクトショップ化です。

 かなり個人的な希望的観測、信じたい未来感が強い考察となりましたが、そこまで大きく外れることもないと思います。というのも、今回の新型コロナウイルス(COVID-19)を人類が克服したとしても、近いうちにまた新たな変異種が生まれる可能性もあり、一度底上げされた公衆衛生のレベルが逆戻りすることはないからです。みなさんも、くれぐれも手洗いマスクを徹底し三密を避けつつ、適度な運動と十分な睡眠、健康的な食生活で免疫力を高めてこの危機を一緒に乗り越えましょう。

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