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一本道の迷宮

■例えばここに「今日は特に書くこともない」と書いてみたとして、ではそのあと特に書くこともないのでそこで文章が終わるのかというと決してそんなことはなく、毎日1000文字は書くと決めている以上書くことがあろうがなかろうが絶対に1000文字は書くのであって、そこに書くことがあるとかないとかいう条件が口を差し挟む余地はないのである。だいたい、書くことがあるかないかというのは自分の中で書く・書かないの判断ラインを勝手に上げ下げすれば、いつかどこかで書くことは出てくるのだから、変な話、朝一のトイレでとてもスッキリした話でも膨らませて、1000文字書けばいいのである。

 文章というのは風船のようなもので、一つだけでもネタがあれば、あとは空気を入れれば勝手に膨らんでいく。膨らませられないのは、空気の入れ方が下手だからであって、別に風船の方に問題があるわけではない。まぁもちろん、風船自体に穴が空いているとか、そういうパターンも全くないとは言い切れないが、逆にそれならそれで例えば風船に穴が空いていた話、という風船を膨らませればいいのだと思う。

 僕は今かなり適当に手を動かして出てくる文字をただそのまま眺めているだけだが、なんだか無理して何か高尚なことを書こうと思えばそういったものも書けるだろう。先ほど朝一のトイレの話が出たのでその流れで言えば、結局ひねり出す系のかたーい文章は、要するに水分の足りていないそれなのである。僕はあらゆる創作ジャンルに対して、“お通じ”の例えは有効だと思っているので、お堅い高尚そうな何かをひねり出したら、そのあとは封を切ったようにするすると出てくる、みたいなことは普通にあることだと思う。さっきは「お堅い高尚な文章も書こうと思えば書ける」と言ったが、実際にそうなっていない点からして、今日はその日ではないのだということがわかる。多分昨日しっかりと堅いものを出し切ったから、今日は割と適当に、スムーズに、いい感じに文字が走っているのだと思う。

 結構ここまでスムーズに指が動くのはなんだか久しぶりのような気もする。最近は部屋の掃除をしながら色々と考え事を、特にこの場合の考え事というのはだいたい考えたところでどうにもならないようなことについて考えていることが多いのだが、そのような考え事をしていたからだろうか、こうやって何も考えずに文章をしたためるということができていただろうか。格好つけながら文章を書けば、格好つけた文章が出来上がる。楽な気持ちで文章を書けば、楽な文章が出来上がるのである。

 今日は何も考えなくても指が勝手に文字を書いてくれるので、こういう日はただ指が落ち着くまで、ただひたすら内容も何もなくキーボードを叩き続けるのがいい。流れのままに文字を吐き出す機械のように。だが僕は機械ではない。れっきとした生き物だ。今度親になる。まだ赤ちゃんの性別はわかっていないのだが、両親からは「生まれるまではわからない方が色々想像できて楽しいよ」と言われており、この間まではそんなことあるかいなと思っていたものの、いざ性別がそろそろわかりますよという時期になると、なんだか親のいうこともわかるような気がしてきている。男の子だから〜〜とか、女の子だから〜〜みたいな考え方を今からしていても仕方がないなぁというか。今はもっと、どんな子が生まれてくるんだろうなーとか、どんな子が生まれてきてもそれでいいなぁとか、そんな気持ちを噛み締めるタイミングなのではないか。もちろん、いずれは性別も分かるだろうから、そうなったらそうなったで、じゃあ実際にどういう準備をするのかという方向に話が行くしそれはそれでいいのだが、いまはもう少し、形に見えないものを想像してみるということをしてみるのがいいのではないかと、そんな気がするのだ。

 最近はどうも、文章の長さを1000字程度で収めようという無意識が働いていたような気がする。たまにはダラダラ書いてもいいじゃないか、と思う一方で、そんなダラダラ書いても仕方がないだろうという気もするので、まぁ要するにどちらでもいいということだ。僕の指はまだ書きたがっているか?そろそろ終わらせてもいいか?

 ともあれ、目に見えるものだけを基準にして物事を考えるというのは、当たり前と言えば当たり前のように思えるが、実はすごく色々なものを見落とす可能性のある考え方なのではないかという直感が、今回赤ん坊の性別がわかる・わからないの話をしている中で僕に訪れたのだ。今まで散々無限がどうとか、世界の有限性がどうとか言ってきたにもかかわらず、やはりこうして具体的な問題としてそれが自分の前に現れると、今まで見落としてきた様々な可能性がずっとどこかにあったのかもしれないなと感じさせられる。今一度、世界の見方、捉え方、考え方について、一から考え直すべき時期がきているのかもしれない。

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