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フリーライターはビジネス書を読まない(47)

またまた自費出版の原稿依頼

その日は広告の初日だったこともあって、水曜日にしては朝から多くの来客があった。
惣菜売り場のバックヤードは開店直後から、通常の商品に加えて、揚げ物の追加がひっきりなしにオーダーされ、トイレに行くヒマすらないほど忙しかった。
やっと勤務時間が終わって店から解放され自宅に帰ってきたが、しばらくはボーッとして、何をする気力もなかった。
タイマーで録画しておいた朝ドラを見ながらウトウトしていると、固定電話が鳴った。昼間のこんな時間に、固定電話がかかってくるなんて珍しい。
「はい、もしもし」
「アントレの広告を見たのですが、平藤さんのお電話でよろしいでしょうか」
「はい、そうです」
電話の向こうは、女性だった。
「原稿をお願いしたいのですが……」
お! 仕事のオファーか。広告を出しておいてよかった。

「アントレ」は今もあるビジネス雑誌で、当時は小さな広告を無料で掲載してくれるサービスがあった。所定のフォーマットで投稿すれば、よほど怪しい業態じゃないかぎり掲載された。ただし掲載は1号限り。毎月掲載されるには、広告原稿を毎月送らないといけない。もう半年ほど投稿し続けていて、やっと問い合わせがチラホラ入るようになってきたところだった。

「どのような原稿でしょう?」
「自伝を自費出版したいと考えてまして」
え? また自費出版か。このまえ、別のクライアントとギャラが折り合わずに降りたところだ。しかも、また女性。声の感じからすると、まだ若いが。
「どなたの自伝ですか?」
「私のです」
「失礼ですが、声の感じから、まだお若いようですが」
「30歳です。もうすぐ31になります」
「お若いのに、自伝ですか?」
「波乱万丈な人生を送ってきたので、独身のうちに1冊つくっておきたいと思いまして」
なるほど。こっちは構わないけどね。
「分かりました。電話だけで完結する話ではないので、いちど内容とか条件とかお話をさせてください」
「明日でもよろしいですか?」
話は早いほうがいい。
「では明日。場所は、どこかご指定ありますか?」
「うちにお越しください。住所は――」
ということで、30歳独身女性のお宅を訪問することになった。

(つづく)

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