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フリーライターはビジネス書を読まない(21)

週刊誌の取材を受ける

ラジオの生本番5分間は、長かったような短かったような、よく分からないうちに終わった。たしかにいえるのは、もし予定通りの30分間だったら、間違いなく何かをやらかしていただろうなということ。それくらい緊張した。

出版社の社長は、スタジオの外でニヤニヤしながら見ていただけ。出演のオファーを受けたのが私だけなので仕方ない。

後日、私の口座に、出演料が振り込まれた。
「えっ、たった5分でこんなに?」
交通費を差し引いても、びっくりするような額だった。今思えば、30分の予定を5分に短縮したのは局側の都合だから、仮に30分出ていても同じ額だったのだろうと思う。

それからしばらくして、ある有名な週刊誌から取材の申し込みがあった。これも本の宣伝になるから、受けることにした。

記者が大阪まで出張してくるという。
考えてみればおかしなもので、私も物書きの端くれだ。わざわざ他人から取材を受けて書いてもらうくらいなら、自分で書くほうが手っ取り早いし、原稿料も稼げるのだが。
でも、それだと客観性が失われるから、やっぱり他人に書いてもらうのも、それなりのメリットがあるのかもしれないな。

そんなことを考えながら、取材場所に指定されたカフェに着いた。
記者はすでに到着していて、私が店に入ると「夢野さんですか」と向こうから声をかけてきた。

「初対面なのに、よく分かりましたね」
「なんとなく、そんな空気でした」
どんな空気だろう? 同業者が敏感に感じ取れるオーラでも放っているのだろうか。

名刺を交換する。
雑誌の記者はだいたいフリーランスだと勝手に思い込んでいたけれど、この記者は雑誌社の正社員だった。
型通りの挨拶を交わして、さっそくインタビューが始まる。この記者はマイクロカセットレコーダーを使っていた。
(やっぱり片手で操作できる録音機材が要るよなぁ)
まわるテープを見つめながら、そんなことを考えていた。

「夢野さん!」
突然、記者が大きな声で呼ぶ。
「大丈夫ですか」
考え事をしながらぼーっとしていたようだ。しかもまだペンネームで呼ばれることに慣れていないから、呼びかけてもなかなか返事をしないので、私が体の具合でも崩したのかと心配してくれたのだ。
「あ、すみません、始めましょう」

インタビューで聞かれたのは、主としてホテル警備の裏話で、クリスマスイブに若いカップルが急増するエピソードについてだった。
時はバブル経済の末期。まもなく日本経済が地を這うようなどん底の不景気に陥るなんてことは、夢にも思わなかった。
学生のカップルでさえ、イブの夜には1泊数万円のスイートルームを予約した時代である。皇族も利用する高級ホテルが、その夜だけは、さながらラブホテルと化すのだ。
振り返ってみれば、バブル崩壊直前の、まるで日本経済が悪足掻きしているようにも見える狂乱の時代だった。

(つづく)

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