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フリーライターはビジネス書を読まない

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2020年11月の記事一覧

フリーライターはビジネス書を読まない(68)

フリーライターはビジネス書を読まない(68)

デザインのオファーがきたロフトベッドの下につくった部屋にマックを「設置」し終えた柳本は、さっそく大阪でデザイナーの求人をしている制作会社を探し始めた。
何社か売り込みのメールも出したようだ。

「なかなかいい返事がもらえなくて」
夕飯の調理をしながらこぼしていた。

ある日、私に仕事をオファーする電話がかかってきた。「アントレ」誌の広告を見たという。
「自動販売機に掲示する販促ポスターのデザインを

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フリーライターはビジネス書を読まない(67)

フリーライターはビジネス書を読まない(67)

話が変わってきた柳本が大阪の我が家へ来て、3週間が過ぎようとしていた。

2~3日滞在の予定だったのでは?
そう。その予定だった。

京都で部屋を借りるためには固定収入が条件だと、どの仲介業者からもいわれた。
「コンビニのバイトでも、なんでもします」と悲壮な決意を固めて、柳本はアルバイト情報誌と履歴書用紙を買ってきた。

ちょうど出町柳駅の近くにあるお菓子メーカーの広報担当部署でデザイナーを募集し

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フリーライターはビジネス書を読まない(66)

フリーライターはビジネス書を読まない(66)

見通しが甘かった「暑いですね」
駅へ向かう道を横に並んで歩きながら、柳本がつぶやいた。これから京都へ行くのだ。

柳本は首から下を、黒い厚手のロングコートで覆っている。
「その格好じゃなぁ……」
まだ11月に入ったばかり。見るからに暑そうだ。
「今の時季、宮城では、コレなしじゃ外へ出られないですよ」
柳本の額に、うっすらと汗がにじんでいた。

京阪電車・出町柳駅に着いたのは、お昼の少し前だった。腹

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フリーライターはビジネス書を読まない(65)

フリーライターはビジネス書を読まない(65)

秘密にしていたこと夢から覚めて、現実へ戻りつつ、意識がしだいにはっきりしてくる。まだ少し寝ぼけながら時計に目をやる。
6時を少し過ぎたあたり。
就寝が遅くても、ふだん通りの時間に目が覚める。習慣とは恐ろしいものだ。ふだんと違うのは、今寝ているベッドの下に、26歳の女性がひとり寝ていること。

眠れたかな?

下を覗く。
柳本が滞在しているあいだ、プライベートな空間としてベッドの下を空けたのはいいけ

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フリーライターはビジネス書を読まない(64)

フリーライターはビジネス書を読まない(64)

初日の夜深夜11時過ぎの地下鉄御堂筋線。車内はアルコール臭かった。
酔っぱらいは大声でしゃべるか、座席に身も心も預けて爆睡している。天王寺、難波、梅田を経て新大阪へ向かう車内でさえこうなのだから、都心から郊外へ向かう「なかもず行」は、ちょっと1杯のつもりで飲み過ぎた勤め帰りのサラリーマンで、もっと大変なことになっているだろう。

新大阪へ向かう車内で柳本からのメールを受け取った。
〔新大阪行きの新

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フリーライターはビジネス書を読まない(63)

フリーライターはビジネス書を読まない(63)

人妻を2~3日預かるたった一度会ったことがあるだけの人妻を、独り身の自分の部屋に、2~3日とはいえ滞在させていいものか。
近所はどう見るだろう? いや、近所の目なんかどうでもいい。勝手に下衆な想像をさせておけばいいのだ。

柳本聡美の旦那は?
旦那が許したのは「柳本聡美が京都に住むこと」であって、その前段階である私の部屋で2~3日一緒に過ごすことは想定していないはずだ。
これを口実に、やんわりと断

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