【Bar S 】episode5 初めての常連さん
尾崎豊の〈 I love you 〉につられて入って来たのがキンさん。
小樽生まれ 50代後半 ツルツル頭に銀縁の丸メガネの小柄なおじさん。
「マスター 尾崎豊の曲が聞こえたから入って来ちゃったけど ここ何屋さん?」
怪しい店ではない事を確認すると、生ビールを注文した。
日曜の午後3時過ぎ。外はまだまだ明るい。有線のチャンネルはこの日、80年代に合わせてあった。
「実はさぁ マスター俺 鬱病でさ 今、病院行ってきたとこなんだよ」
入店してから1時間ほど経ち、酔いがまわってきたのか うちあけ話を始めた。
「俺さぁ内装の職人やってるんだけど、会社に行けなくなっちゃってさぁ まあ会社でいろいろあるんだけど もうやってられなくなっちゃってさぁ もう会社辞めて独立しようかと思ってるのよ ねぇマスターどう思う?」
どう思う?って言われましても、、、
「辞めて独立した方がいいんじゃないですか」
とりあえずテキトーに言ってみた。
「そうだよね!うんそうしよう! マスターありがとう。よしっ決めた。明日、会社に行って辞めてくる」
そう言ってその日は帰っていった。
次の日曜日、午後2時。開けたばかりのタイミングでキンさんは現れた。
「マスターありがとう。マスターのおかげで踏ん切りがついたよ。来月までで辞められる事になった。自分で始める準備をしなきゃね」
とても嬉しそうで、先週来たときとは別人のように明るくなっていた。
適当に言ってみただけだったけど、喜んでいただけて良かった。
「マスター 今日はお礼にたくさん呑んでくよ! マスターも手伝ってくれるでしょ!」
それからふたりで浴びるほど呑んだ。キンさんは途中、来客があると「今日は気分がいいから」と他のお客さんの分も全部払った。
閉店間際の11:30まで呑み続けた。その間に何回も
「マスターと尾崎豊のおかげで俺は人生を変えられたぞーっ」と叫んでいた。
それからも週1くらいで来てくれるようになった。
お店オープンから1ヶ月目で初めてできた常連さん第1号が、このお茶目でちょっとめんどくさいキンさん。
この1ヶ月後には、テレビモニターをキンさんからもらった。
「マスターには感謝してるからさ」って。
またある休みの日にはキャバクラへ連れて行ってもらった。ふたりで10万円分 全部払ってくれた。
「マスターにはいつも世話になってるからさ」って。
ちょっとその歳で純粋過ぎやしないか⁉ というくらい良くも悪くもピュアなキンさん。
他の常連客からの弄られ役を、喜んでやっていたキンさん。
そんなキンさんがトラブルを起こすのは、もう少し先の話し。
ー【Bar S 】episode 5 おわりー
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