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【Bar S 】episode23 カエル君と43点の女
カエル君は元々、あっくんと呼ばれていた。あっくんは34歳。身長160センチ ずんぐりむっくりした体つきで、度の強い黒ぶち眼鏡をしていた。サラリーマンの中間管理職。
あっくんが始めて【Bar S 】を訪れた時、部下の女の子とふたりだった。女の子は少しぽっちゃり系のかわいいコだった。最初の印象では、社内不倫のカップルに見えた。
この日は混雑していたが、年輩のお客ばかりだった。いつものメンバーは居らず、自分でトークも頑張るしかなかった。このふたりを常連のメンバーにしようと思った。特に女の子の方。
女の子はあっくんから「キムラ」と呼ばれていた。年齢は24歳。少し甘えたような喋り方で、男好きする女性だった。
「マスター こいつに点数をつけるとしたら何点ですか?」
あっくんが、唐突に質問してきた。
こういう場合、基準や意味がわからなくても悩んだり、質問を返したりしてはいけない。間を空けず、即答あるのみ。
「92点。」
「おーっ お前スゲーじゃん!」キムラの背中を叩くあっくん。
「さすがマスター 人を見る目がある。もーっ好き!」ノリ良く反応するキムラ。
「キムラはどういう男がタイプなの?」私が訊ねる。
「そーねー、イケメンで~背が高くて~優しくて~誕生日にはブランドのバックとかをプレゼントしてくれて~年収2,000万くらいの人」
「ほらねっ! そういう完璧で計算された、面白い答えが出来るところが高得点!!」
「マスター わたし計算なんかしてませんよ~! 本当の事、言っただけです~」
「そうっ! そーいうところ そーいうところ」私は手を叩いて喜んでみせた。
「課長~ 今日、泊まらせていただいていいですか~⁉」だいぶ酔いが廻ってきた頃、キムラは大胆な事を言い出した。
「おうっ いいよ別に」あっくんも気軽に答える。
やっぱりそういう関係か! なんて思っていると
「マスター 勘違いしないでくださいね。課長って チョー安全な人なんですよ! この間も泊まらせてもらったんですけど、私にベッドを使わせてくれて、自分は床で寝てるんです」
「おう お前には手は出さないわ! お前の本性知ってるし」
いやっ そういう状況だったら手を出すでしょう!と思いつつ、この人なら本当に手は出さないのかな⁉ とも感じたのであった。
それからあっくんは、週3で店に来るようになった。キムラの方は、家が遠いらしく、たまに現れる程度だった。
ウチのレギュラーメンバー達とも仲良くなった あっくんは、ある日ウチの店に居るところを、常連の関西人アツシに呼び出されて出掛けていった。合コンの男メンバーが急遽、足りなくなったという事だった。
5日後の土曜日、あっくんは女性を連れて現れた。レギュラーメンバー達も揃っていた。
女性はカナちゃん。28歳。5日前の合コンで意気投合して、誘ってみたということだ。
23:30。他のレギュラーメンバーとも打ち解けて、カナちゃんが電車がなくなるのでそろそろ帰らなきゃ という話をしていると、
「あっくんのとこへ泊めさせて貰えばいいよ! あっくんは女の子を部屋に泊めても何もしないらしいよ!!」
レギュラーメンバー最年長41歳のやっちゃんが、からかい半分で言った。(やっちゃんは、伝説川畑さんとエロ花火師三田さんのパパ友。)
他の常連達も、やっちゃんの言葉に乗っかって
「そうだよ! 泊まってっちゃいなよ! あっくん かまわないでしょ⁉」
「うん まあ カナちゃんが良ければ。」
「だって、カナちゃんどうする⁉」
ミーコは質問しながらも、1択でしょ!的なオーラを出している。(ミーコはマユミの友達で、この時はサブレギュラー的な立ち位置)
「じゃあ 泊まっちゃおっかな!」
次の日、あっくん1人で登場。
「マスター カナちゃん何点でした?」入って来るなり、質問するあっくん。
「そうだなー 43点!!」
「えーっ どうしてそんなに低いんですか⁉」
「まず、見た目が55点。」
「まあ、美人とは言えないからそれはヨシとしましょう。で、マイナス12点はなんなんですか?」
「それはね、あっくんが『カナちゃん めちゃくちゃ歌上手いんですよ。歌手を目指してたらしくて、芸能事務所にも入ってたんですよ!』っていう振りからの、カナちゃんのアカペラあったじゃない。絢香の〈三日月》歌ったでしょ! あれ確かに凄く上手かったんだけど、フルコーラス歌うか普通。ちょっと聴かせてよって言っただけなのに。そこでマイナス10点。皆を静まりかえらせて、あの尺の長さはダメですよ!」
「マスター 厳しいですねえ」
「それから後半、たくさん料理注文したでしょ! でも食べきれなくて、けっこう残したよね! あれでマイナス10点。あーゆうのは良くないよ!」
「なるほど、それは確かにそうですね! でもマスター 今ので35点まで下がっちゃってますよ!」
「そこはちゃんとプラスの要素も見てますよ! 明るくて、元気なところは良かったからプラス8点。これで、43点。」
「もう少しいい点数つけてくれると思ってたのにな」
「これはあくまでも、俺の昨日見ただけの点数です。だからあっくんが、自分で良いコだと思ったのならそれでいいじゃないですか!」
「それはそうなんですけどね、マスターからいい点数をもらいたかったんですよ」
落ち込むあっくんを見ながら、適当に面白く答えてるだけなのに、少しだけ悪い事をしたな と思った。ホントにちょこっとだけ。
「それよりさ、夕べはカナちゃん泊まらせて何もしなかったの?」
「マスター 何もしてませんよー! こういうのは焦っちゃダメなんです」
「ほーっ カッコいい事言うじゃん。でももうチャンス無くしたかもよ!」
あっくんを弄り始めた私に
「大丈夫ですっ! 僕は絶対にカナちゃんと付き合ってみせます!!」
そう力強く答えるあっくんであった。
6日後の土曜日。あっくんはカナちゃんを連れてやって来た。店にはまた、いつものメンバーが揃っていた。
「43点の女 連れて来ました」
店内がザワついた。
「あっ またマスター女の子の点数つけてたんでしょ! そういうの良くないと思うよ!」
タツヤがまともに説教してきた。
「だってあっくんが点数つけて欲しいっていうから、、、仕方なく。」
いじけたフリをして誤魔化そうとする私。
「マスター さっきあっくんから聞きました。はっきり悪いところを指摘してくれる人って重要です。わたし、マスターにもあっくんにも認めて貰えるように頑張ります!」
「おーーっ!!」
オーディエンスから盛大な拍手が沸き上がった。
「わたし達、付き合う事になりました。あっくんが告白してくれたんです!」
「うおーーーっ」
より盛大な拍手と「おめでとう!」「良かったね!」という祝福の言葉が飛び交った。
「で、カナちゃんはあっくんのどこが気に入ったのかな?」
マユミからの質問。
「それはね、優しいところと、この間泊まらせてもらった時にわたしにベッドを譲ってくれて、自分は床で眠って その間わたしに変な事してこようとしなかったところ。わたしの事、大事に思ってくれてるんだな って」
「おーーっ」今度はどよめきに似た声があがった。
「それからね、小さくて、顔がカエル君みたいでカワイイところ」
「ワハハハっ」皆の笑い声。そしてこの瞬間、あっくんは〈カエル君〉になったのであった。
一年後、カエル君とカナちゃんのふたりは、結婚式を挙げた。私が東京にいる間で唯一、参列した結婚式と披露宴だった。(他に2組結婚したカップルがいたが、都合で参加できなかった)
その間も、あっくんから何度もカナちゃんの点数を訊かれた。少しづつ点数を上げて答えてやっていると、最終的には98点まで上がっていた。実際にカナちゃんはいいコで(多少、空気が読めないところはあるが)このグループの元気娘的な存在になり、皆で何かイベントをしようという時に、逞しいメンバーとなるのであった。
結婚してからもふたりはお店に通ってくれた。この店の仲間と遊びたいからと、ウチの店の近くのマンションに引っ越した。
カナちゃんの唯一の不満は、あっくんから結婚後、一度も夜のお誘いがない事らしい。
ーepisode 23 おわりー
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