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【Bar S 】episode19 新しい風



1年目の11月後半の金曜日。この日から徐々に【Bar S 】のスタイルが変わっていった。きっかけはふたりの男の登場からだった。

この日、店内には6人のお客が居た。常連の川畑さんとケンは、政治について語り合っていた。そこへ2人の男性が恐る恐る、扉を開けて入ってきた。

「すみませーん。入れますか?」

私が返事をするより先に、川畑さんが動いた。

「おう、いらっしゃい。どうぞどうぞ。」そう言いながら、補助椅子をひとつ用意し、奥へと席を詰めてくれた。

ふたりは恐縮しながら、席についた。私は忙しかったので、新しく入ってきた二人に興味はあったものの、あまり相手を出来る状態ではなかった。でも、この二人は逃してはいけない。常連にさせるのだ。と何故だか感じていた。

とりあえず、入ってきた二人に話を振る。

「この近くにお住まいですか?」

川畑さんの隣の席に座った、モジャモジャ頭の男が答えた。

「はい。僕はこの近くのマンションに住んでいます。前からこのお店、気になってたんですけど、なかなか一人で入る勇気がなくて、友達を誘って入ってみました。」

「ガハハハっ 確かにこの店は始めての人は入りにくいわな!」

そう川畑さんが言うと、そこから話しは繋がっていった。新しく入ってきた二人と川畑さんが喋り始め、そこへケンが川畑さんの話を盛り上げたり、二人へ質問したりしていい仕事をした。

これだっ!と思った。これまで地元の面倒な客を相手に、自分だけで対応をしようとしていたけれど、お客同士で盛り上がってくれれば、こちらはとても楽だ。ただし、相手をしてくれる人に問題がある場合は逆効果になる。そこで、これからの方針を考えた。
これまで、なるべくお客さんを平等に扱おうとして、クセの強い 他人からあまり好かれないような人にも頑張って対応していたが、それをやめる。
自分の歳に近いか、それより下の20代後半~40歳前半くらいまでの、ちゃんと他人をリスペクトして会話が出来る人(面白ければ尚良い)だけに気に入ってもらえるようにする。
そして、その人達を中心として、仲間を増やしていく。結果、私は楽をしながら、気を使わない、楽しいお店が出来る。ここで私の王国が出来上がる。

うんっ 素晴らしいっ! これで行こう!


この日を境に少しづつ、客層が変わっていった。半年後には実際に私を中心とした理想の楽園、王国が誕生していた。

その常連グループの中心となっていくのがケンと、この日訪れたモジャモジャ頭のタツヤだった。

タツヤは、ケンのひとつ下の34歳。身長178センチ。九州出身。長渕剛の影響を受けてギターを始める。店には彼が持ってきたギターがいつも置かれるようになった。このグループだけで集まった日には、タツヤのギターで皆でいろんな歌を合唱するようになった。タツヤは話も面白くイケメンで、男女問わず彼の廻りに人が集まった。私も彼の事をとても気に入った。しかし、モテる事によって、彼を巡っての問題が発生するのであった。
タツヤと一緒に来たもうひとり。マサルは愛知出身。165センチ。32歳。人懐っこい性格で、皆のマスコットでいじられ役。住んでいた所が少し離れていたので、主に週末に現れる。

私が作ったこのグループは、後に20人ほどのグループとなり、皆が集まる日には、店一杯になり立ち呑みしているのだった。

このシリーズも、ここからが第2章と言って良いだろう。

だが、理想の店に近づき、王国を造ることができたと思っても、それを維持していくには、この先もいろいろな事が起こるのである。


「おめぇさん達 この店を可愛がってやっておくれよっ!」そう言って、大きな掌でタツヤの背中を叩く川畑さんであった。





ーepisode 19 おわりー



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