見出し画像

【Bar S 】episode21 エロ花火師



三田さんが【Bar S 】に来てくれるようになったきっかけは、川畑さんを通じて。川畑さんが、お子さんが通う小学校のパパ友2人を連れて来てくれた。その時のひとり。(もう1人の方も常連になってくれたが、その話はまた今度。)

三田さんは、タツヤと同じ店から近いマンションに住んでいる。48歳。嫁と2人の子持ち。一時期お父さんも一緒に住んでいた。職業は不動産屋と、花火職人。身長164センチで筋肉質。

この男は、正義感が強く 義理人情に厚く 情熱的な人だ。しかし、どれもが少しづつズレている。ただ、何もかも熱い。

特に花火について語る彼は、子供のように輝い瞳で、楽しそうにとても熱く語るのである。

「花火職人って、みんなスケベで性欲が強いんですよ! 何故だかわかります?」

「花火をつくる作業って、とても地味で繊細な、とても神経を使う仕事なんです。火薬を詰める位置が1ミリ違ったら、全然違う形の花火になっちゃいますから。」

「だから作業した後は、無性にセックスしたくなるんです。」

「そしていざ、出来上がった花火を打ち上げると、その興奮がなかなか収まらなくて、その日はメチャクチャ女を抱きたくなるんです。1回では収まらずに2回、3回と 多い時には5回戦までして、疲れ果てた状態にならないと眠れないんです。」

って 花火の話っていうより、ただの下ネタですね。

「だからという訳ではないんですけど、自分には愛人が今、全部で5人います。本当は嫁さんが相手をしてくれれば、愛人なんてつくらないんですけどね! 残念ながら悲しい事に、ここ何年か相手をしてくれません。普段の生活では仲いいんですよ! でも何故なんでしょうね。」

「彼女達にはみんな、付き合う時にちゃんと既婚者である事は伝えてありますよ! でないとフェアではありませんからね。その上で割り切った付き合いをしましょう という事で納得してもらってます。」

「この間、怪我して入院した時にナースともそういう関係になっちゃったので、愛人が6人になりそうなんですよ! 流石に6人でローテーションを組むとなると体がもちません。マスター どうしたらいいと思います?」

ただのモテ自慢。どーでもいい話ではあるが、まともに答えてみた。

「そりゃあもう、整理するしかないんじゃないですか⁉ そんなに愛人がいたら、体も金もたまらないでしょうに。この機会に、せめて3人くらいにしたらどうですか⁉」

「やっぱりそうですよね! 体の相性のいい28歳のコを軸として、新しいナースのコと あともう1人誰にしようか悩み所ですね!」


後日、三田レディースのレギュラー入りした3人を、各々別の日に連れて来てくれた(頼みもしてないのに)。3人目に滑り込んだ、35歳の女医さんも含め、みんな見た目はあまり良くなかった(個人的な感想)。

「マスター ありがとう。おかげで余裕をもって付き合えるようになりました。でもこの間のクリスマスイヴには3人と時間差で約束したから大変でしたけどね!」

と言って、爽やかに笑うのであった。


三田さんは、たまにお兄さんとお父さんを連れて来てくれた。

お父さんは鎌倉に住んでいるのだが、半年くらい三田さんの家に居た事があった。その時期にウチの店にもよく来てくれた。お父さん82歳。

三田さんは、お父さんが1人でお店に来ている事を心配していた。話を聞くと、お父さんは酔っぱらってよく、一緒に居合わせた客とケンカになるそうで、歳をとって思うように動けなくなっても、若い人にケンカを売ったりするので心配している。実際に店の物を壊して、自分が呼び出される事も少なくない という事だ。

「ウチの店では、そんな事は全然ないですよ! ちょっと偏屈な事を言ったりすることはありますけど」

そう私が言うと、三田さんは安心したようで

「もしなんかあったら、すぐに連絡くださいね! 親父が問題起こして、自分もこの店来れなくなっちゃうの嫌だから」

本当に問題は起きなかった。


お父さんが鎌倉に戻るという前の日、三田さんとお父さんが一緒に店に来てくれた。

なんだかとても感謝されて、

「短い間だったけど、このお店に来れて良かったよ!ありがとう。」

お父さんはそう言って、来ていた白いパーカーを私に渡した。

「えっ これ⁉ いただけませんよ」

「マスター 親父の気持ちだから貰ってやってください」

三田さんからもそう言われ、受け取るしかなかった。

パーカーの内側には、お父さんの名前が入っていた。


それから半年後、三田さんが落ち込んだ様子で店にやってきた。

「実は今日、親父の葬式だったんですよ。」

涙ながらに話し始めた。

もう何年も前から体調が悪かったらしい。頑固なお父さんは、一切医者には行かず、病気で亡くなったという事だった。

「死ぬ前にも親父は、またあの店に行きたいな ってこの店の事言ってたんですよ!」

その夜、お父さんの好きだった 山崎のロックでふたりで献杯して、三田さんのお父さんとの想い出話に耳を傾けたのであった。


お父さんから貰ったパーカーは、棄てる事も出来ず、今も箪笥の中で眠っている。




ーepisode 21 おわりー

ゆる~く 思いついたままに書いてます 特にココでお金稼ごうとは思ってませんが、サポートしてくれたら喜びます🍀😌🍀