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【Bar S 】episode20 世界一ビールを美しく呑む女



12月の始め、タツヤとケンがカウンターで語り合っているとき、1組のカップルが店の扉を開けた。

ナオトとマユミ。29歳、同い歳のカップルだ。ふたりはケンと同じ高級マンションの住人で、どうやらナオトの母親が自営で稼いだお金で買ってくれたようだ。

私は早速、例の作戦を実行することにした。

まず、最初のトークでケンと同じマンションだという事がわかったので、後は簡単だった。会話が途切れそうになったら、ナオトとマユミに適当な質問をぶつける。そうすると、コミュニケーション能力の高いタツヤとケンは、そこから話題を拡げてくれる。

すぐに4人は打ち解け始めた。特にナオトはタツヤの事を慕うようになった。何回かこの店で会ううちに、ナオトはタツヤの子分のようになっていった。タツヤを見つけると、必ず隣の席に座った。

ナオトは三陸地方の出身で身長172センチ。細身の体の割りによく食べる。そこそこイケメンだが、カッコつけな所が皆から弄られるようになる。年齢も若いので、自分でもいじられ役を引き受けるようになるのだが、元来お坊っちゃま気質なので、あまり弄られ過ぎるとふて腐れてしまうので、そこは私がフォローを入れるようにしていた。

ふたりはビールを呑んだ。マユミは大のビール党で、最初から最後まで一貫して、ビールだった。特筆すべきはマユミのビールの呑み方が、とてつもなく美しいことだ。ビールジョッキの取っ手を右手で掴み、口元まで持っていくと、そっと瞼を閉じる。少し顎を天井に向けて受け入れる準備を整える。左手をジョッキに添えて、金色に輝く液体を口に溜めずにそろそろと喉へ流し込む。ただ美しいだけでなく、本当に美味しそうに見えるのだ。この呑み方は、ジョッキの角度が最適な角度でないと成し得ない技だ。少しづつ喉へ流し込むようにしているから、長い時間 彼女が美しく、美味しそうに呑む姿を観賞できる。私は、後にも先にもこのように素敵にビールを呑む女性とは出会っていない。

始めて彼女がビールを私の目の前で呑んだ時、その美しさに見とれながら彼女に言った。

「すごく綺麗で美味しそうにビールを呑むね!ホントに美しい」

「えっマスターホントですか⁉ うれしい。そんな風に言ってもらったの始めてです。でもわたし本当にビールが大好きなんですよー」

マユミは、そう言うと嬉しそうに微笑んだ。

マユミ。東京の23区外の生まれ。身長163センチ。美人という程ではないが、男好きのする顔としぐさ。両親が離婚して、中学生の頃から母親と再婚相手の義父と暮らしていた。1年前からナオトと同棲を始める。

そして計画通りこの二人も、【Bar S 】王国の住人となっていくのであった。

ナオトとマユミは週3くらいで通ってくれるようになった。


しかし、徐々にマユミの深い闇を知るようになるのである。




ーepisode 20 おわりー

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