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身を守るための科学知識

今、身の安全のために科学をきちんと理解することが重要です。氾濫する情報に振り回されないで、きちんと判断するために、必要となる本質的な科学知識をまとめてみました。

※記載内容は、できるだけわかりやすくするために、簡略化しており、専門の方からみると完全な正確さに欠いているかもしれません。明らかな誤りや、間違った理解を促してしまう可能性のある記載があればご連絡ください。

1. ウイルスとは何者か?


いきもの、すなわち、生物である条件は3つ。「自ら増えることができ」て、「生きるのに必要なエネルギーを作る能力」を持っていて、「自分と自分でないものを明確に分けているもの」とされています。

また、「細胞」からできているのも生物の特徴です。

ところが、ウイルスは、増えるために他の生物の細胞に入る(寄生する)ことが必要なので、自ら増えることができるとはいえず、生きるのに必要なエネルギーを作る能力、すなわち、生物のエネルギーの通貨といわれるATP(アデノシン三リン酸)を作ることも、タンパク質を作ることもできないのです。

また、ウイルスは「細胞」からできているのではなくて、タンパク質の殻とその内部に入っている「核酸」(「DNA」か「RNA」)からなります。「核酸」というのは、「DNA」と「RNA」をひとくくりにした言い方です。
普通、生物は、「遺伝情報」が全部入った辞書のような「DNA」(デオキシリボ核酸)と、その「DNA」の情報を一時的に利用する「RNA」(リボ核酸)の両方を持っていますが、ウイルスは「DNA」か「RNA」のいずれかしか持っていません(「B型肝炎ウイルス」は例外的に「DNA」と「RNA」を一部含みます)。「RNA」しか持っていないウイルスの場合、その遺伝情報は「RNA」に保管されています。

このように、ウイルスは、「生物」である要件を満たしていないのです。でも、あたかも生き物のように振る舞って増えていきます。

ウイルスは生き物ではなくて、生き物を利用する「粒」といった方が合っています。ウイルスは、ヒトなどに「感染」して、その細胞内に入り込むことによって増えます。厳密にいうと、ウイルスが入り込むのではなく、ヒトなどの生物の「細胞」が異物と認識できず、ウイルスの「タンパク質」を作ってしまうというようなことが起こっているのです。すなわち、ウイルスに取り憑かれた(=「感染」した)「細胞」は、そうとは知らずに、自らのもつ機能を使って細胞内でウイルスのコピーをたくさん作って増やしてしまうのです。「粒」があたかも生き物のようにみえるのは、細胞の反応のしかたに原因があるかもしれません。

「RNA」に「遺伝情報」を保存している「RNAウイルス」は、どんどんその「遺伝情報」が変わっていきます。これを「変異」といいます。「RNA」は「DNA」よりも不安定であるため、増えるために遺伝子をコピーする際にエラーが起きて、どんどんとウイルスのキャラクターが変わっていくのです。この「変異」は、「小進化」とも言われます。ものすごいスピードで進化がおこるということです。「RNAウイルス」は、ヒトの細胞内に入り込んで、「RNA」を複製することで自らのコピーを増やして増殖しますが、ここで複製の誤りがおこるだけでなく、1つの細胞に複数のウイルスが感染した場合には、複製した「RNA」の一部をウイルスどうしが交換するという「遺伝子再集合」という現象がおこり、どんどんウイルスのキャラクターが変わってゆきます。(グレムリンという映画を彷彿とさせます)

「RNAウイルス」である「インフルエンザ」の流行が厄介なのも、この「変異」の起こしやすさからきています。インフルエンザの予防接種が万能でない原因の一つがこれです。

ちなみに一般的な風邪は、鼻やのどがウイルスや細菌・マイコプラズマ、クラミジアなどに感染することによっておこりますが、風邪のおおよそ9割がウイルス感染によるものです。

風邪を引き起こすウイルスには、ライノウイルス(主に春や秋に鼻風邪を起こす)、コロナウイルス(主に冬に鼻や喉の炎症を起こす)、RSウイルス(冬に多め、乳幼児は気管支炎や肺炎を起こす)、パラインフルエンザウイルス(主に鼻やのど、子供が重症化しやすい、春〜夏と秋)、アデノウイルス(主に冬から春が多い、プール熱の原因、咽頭炎・気管支炎・結膜炎)、エンテロウイルス(主に夏に流行、風邪+下痢の症状も)などがありますが、通常の医療では、その風邪の症状がどのウイルスなのかを特定はしていません。風邪に対する治療は"症状を緩和する”ものであって、ウイルス感染を根本解決するものではありませんし、ウイルス感染症であれば、一般的に抗菌薬に分類される医薬品は適していません。ただし、近年、マクロライド系抗菌薬の新たな免疫調整・抗炎症作用というものがわかってきました。

ウイルスは様々な感染経路でヒトからヒトにうつりますが、一般的な生活で気になるのは、空気感染:”空気を吸っただけで感染する” のか、それとも、飛沫感染:”話すときに飛ぶツバやくしゃみや浴びたら感染する” のか、もしくは ”ドアノブなどを触ったり握手したりした手を目・鼻・口の粘膜につけたら感染するのか” ということだと思います。

これは、ウイルスの粒の大きさがどれくらいのサイズで、空気中でどれくらいの落下速度のものなのかということと関係します。一般的に5マイクロメートルよりも大きな粒は、空気中に長くただよっていることはなく、すぐに落下するので、話すときに飛ぶツバやくしゃみを直接浴びたときに感染し、5マイクロメートルよりも小さな粒は、落下する前に水分が蒸発して空気中に長くただようので、空気を吸っただけで感染する可能性があるといわれています。

N95というマスクは、0.3マイクロメートルよりも大きな粒子を95%以上捉えることができる性能があるものですが、結構呼吸が苦しくなるともいわれています。ただ、マスクをしていれば安心というわけではなく、また、マスクのつけかたが正しくないと、マスクの性能は発揮されません。


2. 細菌とウイルスはなにが違う?

感染症の原因になる異物として、ごちゃ混ぜに語られる細菌とウイルス。

ウイルスについては、ここまでにいろいろとお話ししたので、ここでは細菌のお話を中心にします。

細菌は、ウイルスとは異なり、明らかに「生物」です。「自ら増えることができ」て、「生きるのに必要なエネルギーを作る能力」を持っていて、「自分と自分でないものを明確に分けて」います。

細菌は、一つの細胞で生きているので「単細胞生物」(⇄多細胞生物が反対語)と分類されます。

細菌の遺伝情報は「DNA」に含まれていて、細菌には、細菌が増えるために必要な情報が含まれる染色体上の「DNA」と染色体の外にある「プラスミド」という「DNA」があります。

一般に細菌はウイルスよりも大きく、例えばインフルエンザウイルスのサイズが0.1マイクロメートルくらいなのに対して、緑膿菌(りょくのうきん)という細菌のサイズは1マイクロメートルくらいです。

細菌は英語では「バクテリア」といいます。細菌=バクテリアです。

人の体に入り込んで病気を起こす細菌もありますが、それは細菌全体のほんの一部で、納豆菌や乳酸菌のなかまのように食品として活用されている細菌もあります。

ヒトの体には多くの細菌がすんでいて、一人の体にすんでいる細菌の数は、その人自身の細胞の数よりも多く、わたしたちの体は、細菌を運んでいる乗り物のようでもあります。

皮膚の表面、腸の中、口の中にはそれぞれ特定の細菌が特定の割合すんでいて、そのバランスが、皮膚、腸、口の中の健康を保っているといわれています。ヒトの体に有益な細菌を善玉菌(ぜんだまきん)、有害な細菌を悪玉菌(あくだまきん)、状況によってどちらにもなる細菌を日和見菌(ひよりみきん)と呼んだりしています。

ヒトに病気を起こすことがある細菌として、大腸菌(だいちょうきん)、黄色ブドウ球菌(おうしょくぶどうきゅうきん)、結核菌(けっかくきん)などが知られています。有名なO157も大腸菌のなかまです。

抗菌薬という種類の医薬品は、細菌をやっつけるための薬です。一方、ウイルスは大きさや仕組みが細菌と異なるので抗菌薬は一般的には効きません。抗ウイルス薬はまだ少数しか開発されていません。

細菌は、いろいろなしくみで抗菌薬に触れても生き延びようとします。自身を覆っている膜(まく)を変化させて薬が細菌の中に入ってくるのを防いだり、細菌の中に入ってきた毒(どく)を外にくみ出したり、DNAやRNAを変化させて抗菌薬の効くところを変えたり、化学反応をおこして分解してしまったり、「バイオフィルム」というものをつくって、簡単にはやっつけられなくしたりします。


ウイルスの中には、細菌に感染する「バクテリオファージ」というなかまがいます。「バクテリオファージ」は細菌の遺伝情報を変えることもでき、それによって細菌の性質が変わることがあります。これによって自然と抗菌薬に触れても細菌が生き延びるようになることがあります。また「バクテリオファージ」を利用して細菌の性質を人為的に変える技術もあります。いわゆる遺伝子操作です。

このように、ウイルスと細菌は全く別のものです。

コラム:抗菌薬には抗菌作用以外のはたらきも

抗菌薬の一部には、抗菌作用以外の役立つはたらきがみつかってきています。飲み薬の抗菌薬として幅広く使われている「マクロライド系」抗菌薬が、抗菌作用とは別に、「免疫」の調整や「炎症」を抑える保護的な働きを持っていることがわかってきました。「マクロライド系」抗菌薬が免疫の行きすぎた働きを抑える細胞「MDSC様細胞」を増やして、その増えた「MDSC 様細胞」が免疫調整作用に主たる役割を果たしていることがわかってきました。

3. PCR法ってなに?

「PCR法」は、みつけたい「遺伝情報」がそこに存在しているかどうかを調べる技術です。言い換えれば、「遺伝情報」を手ががりに、そこにお目当ての「生物」や「ウイルス」がいるか、もしくは、”いたか”を調べるための技術です。

「PCR法」では「DNA」を検出できる量まで増やします。もとになる「DNA」がわずかな量しかなくても、「DNA」存在されしていれば、目的領域のコピーをいっぱい作って、その「DNA」がそこにあるということを見つけられるのです。

具体的には、まず一本の「DNA」をもとに「DNA」を複製します。さらに、複製された2本の「DNA」をそれぞれ複製します。これを繰り返すことで、2本が4本、4本が8本・・・・と倍々ゲームでDNAがコピーされます。コピーして増幅することにより、「遺伝情報」が見つけられるような量になります。たとえば、そこにSARS-CoV-2の「遺伝情報」があるか、すなわち、SARS-CoV-2があるかどうかがわかるようになります。

SARS-CoV-2は「DNA」を持たない「RNAウイルス」なので、「PCR法」の前に「RNA」の情報を「DNA」に写し取る、「逆転写」 という作業も追加されます。「PCR法」には、ウイルスの遺伝子の情報をもとに人工的に作った短い「DNA」の断片=「プライマー」が必要です。今、世の中で使われているのは、SARS-CoV-2の遺伝子配列をもとにこのDNA断片を作ったものです。


ここからは少し詳しいバージョンです。

PCRは、Polymerase Chain Reaction: ポリメラーゼ・チェーン・リアクションの頭文字を取ったもので、筆者の古くからの知人がその開発に関わっていたことから、親しみを感じています。1980年代前半の話です。

PCR法は「遺伝情報」が保存されている「DNA」の見つけたいところ(=「目的領域』)を、熱に強い「耐熱性DNAポリメラーゼ」という文房具のようなものをつかってたくさんコピーを作る方法です。「DNA」と「プライマー」「耐熱性DNAポリメラーゼ」「遊離ヌクレオチド」を溶かした液体を温度を上げたり下げたりします。いろいろと難しい言葉が出てきたので、このあと、しっかりと説明していきます。

「DNA」は通常、「遺伝情報」の「鎖」が2本対(二本鎖)になっていて、閉じている状態のため、「遺伝情報」を簡単には読み取れないのですが、「DNA」を液体に溶かして温度を94~96℃くらいに上げると、DNAの鎖の性質が変わって、二本鎖が解けて、一本鎖になり、「遺伝情報」を読み取りやすくなります。

つぎに、この一本鎖になった「DNA」の入った液体に、「目的領域」と対になる部分の起点になる短い「DNA(オリゴヌクレオチド)」=「プライマー」を大量に混ぜて、それに加えて「DNA」の材料になる「遊離ヌクレオチド」と、「DNA」を組み立てる文房具のような「酵素」である「DNAポリメラーゼ」も入れて、今度はこの液体の温度を55~60℃に下げます。すると、そこに「目的領域」があるならば、「プライマー」が「目的領域」の「DNA」にくっついて、部分的な二本鎖の形になります。冷やすのが急だと、長い「DNA」どうしは再びくっついて二本鎖になることが難しいのに対して、短い「DNA」の切れ端(オリゴヌクレオチド)は二本鎖を作りやすいという性質の差を利用しています。こうやってできた「目的領域」の「DNA」が「プライマー」を起点にして、さらに70~74℃にすると「酵素反応」が続いて続きのDNA合成される(伸びていく)・・・というように進んで、特定の部分のDNAの切れ端が大量に複製されます。

以上のようにPCR法は、DNAの鎖の長さによる性質の違いを利用して、反応溶液の温度の上下を繰り返すだけでDNA合成を繰り返し、DNAの見つけたい部分を大量に複製して、DNAの存在をみつけることができるという技術です。

ちなみに、今、ウイルス検出に使われているのは、ただのPCR法ではなくて、「リアルタイムPCR法」という方法です。「リアルタイムPCR法」では、「PCR法」でウイルスの遺伝子を増やす際に、「DNA」を増やしながら、「DNA」に光る薬を取り込ませます。遺伝子が増えるとそれにともなって光が強くなるので、光の強さでウイルスの遺伝子を検出できます。ウイルスに感染していなければ、ウイルスの遺伝子も存在しないので、遺伝子は増えず光も強くならないというわけです。

PCR法の小話

PCR法を発明したキャリー・マリスという人は、それはそれはユニークな人だったといいます。

実は、筆者の古くからの知人がこのマリスさんの同僚で、PCRの開発に関わっていたので、ここには書けないような、マリスさんの過激なエピソードを聞いてます。

ここから書く話は、世間にも有名な話なので、ここに書いても大丈夫でしょう。

マリスさんは、1983年のある金曜日、月明かりの夜道をガールフレンドを乗せてドライブしている時に、温度を上げ下げするだけという、あまりに単純な方法でDNAを大量にコピーできる原理を突然ひらめき、デートがデートにならずに雰囲気が悪くなって帰ったといいます。マリスさんは、このデート中のひらめきでノーベル賞を取ったというツワモノです。マリスさんは、1992年に日本国際賞を受賞。その受賞パーティーでは、ガールフレンドとのドライブのエピソードが紹介され、来賓で来られていた上皇后さまはそれを聞いて、マリスさんに向かって「今日一緒に来られている方がその方ですね!」と声をかけられたそうです。すると、マリスさんは、正直者なので「いいえ、今日一緒に来ているのは別の女性です」と答えたといいます。すると上皇后陛下はすかさずに「それでは、もう一つ大発見が出来ますね!! 」とおっしゃったのだそうです。上皇后様、さすがですね。。。


4. 抗原ってなに?

「抗原」は「免疫細胞」にあるの「抗原レセプター」と呼ばれる部分にくっついて、「免疫反応」を起こさせるあらゆるもののことです。「抗原レセプター」にくっついて、「免疫細胞」に見つかると、「抗体」や「リンパ球」などによって、体の中から追い出されたり、殺されたりしして、消し去られます。

ふつうは、「免疫細胞」が、体の中にはいってきた「細菌」「ウイルス」などを「抗原」として消し去っていますが、時として、自分の体の成分を「抗原」として認識するようになってしまうことがあり、それを「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」といいます。自分の身内を敵のように思って攻撃してしまう病気です。また、「アレルギー」も「抗原」に対する体の反応の一つで、「アレルギー反応」を起こす「抗原」を「アレルゲン」とも呼びます。「花粉症」は、「花粉」を「抗原」として免疫細胞がとらえるようになって体が反応するようになる病気です。


抗原検査

「酵素免疫測定法」と「イムノクロマトグラフィー」という2つの技術を組み合わせた診断キットで、同じ方法は、インフルエンザウイルス、B型肝炎ウイルス、HIVの検査にこれまでも使われてきています。

「酵素免疫測定法」は生命科学領域で実験をしている人たちの間では、イライザとも呼ばれている方法、イライザはELISAと書いてEnzyme-Linked Immunosorbent Assayという言葉の頭のアルファベットを粋に発音したものです。探している目的の「抗原」を、その「抗原」のみをとらえることに特化した「抗体」で捕まえて、「酵素」を反応させて目的の「抗原」がそこにあること見つける方法です。「酵素」が反応すると、吸い込む光(吸光スペクトル)に変化が起こる物質を使って、吸い込まれる光の変化を見る方法です。探している目的の「抗原」の存在を、吸い込まれる光の変化として測る方法です。

次に「イムノクロマトグラフィー」。これは、金属の細かい粒が分散したもの(コロイド)とくっ付けた「抗体」が染みているセルロース膜に、探している目的の「抗原」が入っている可能性のあるものをたらすと、コロイドとくっついた「抗体」に「抗原」が合わさった「免疫複合体」ができ、それがセルロースの膜を染みながら移動していき、やがて、セルロースの膜のある部分に組み込んである「免疫複合体」をとらえる「キャプチャー抗体」のところに「免疫複合体」が捕まる。この捕まったものを目で見て確かめるというものです。

抗原検査では以上2つの技術を組みあわせて行います。


5. 抗体ってなに? 

「脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類など)」が持っている自分の体を守るしくみの「免疫系」のメンバーである「白血球」の仲間に「リンパ球」があり、その「リンパ球」の一つに「B細胞」という細胞があります。その「B細胞」がつくる「糖」と「タンパク」からなる「分子」が「抗体」です。

人間はウイルスなどによる感染症にかかると、次に同じウイルスなどが侵入した際、素早く防御できるように特殊な「抗体」を体内につくります。


「抗体」は特定の「タンパク質」などの「分子」(=「抗原」)をみつけてくっつく働きをもっています。「抗体」は主に血液中や体液中にあって、体内に侵入してきた「細菌」「ウイルス」それから「微生物」に感染した細胞を「抗原」として認識してくっつきます。「抗体」が「抗原」にくっつくと、その「抗原」と「抗体」があわさったものを「白血球」や「マクロファージ」などの細胞が見つけて食べてしまって、体の中から追い出したり、他の「免疫細胞」がくっついて「免疫反応」を引き起こしたりします。

この反応は、脊椎動物(魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類など)が感染から自分を守る重要な仕組みの一つです。ちなみに昆虫などの無脊椎動物は抗体を作りません。

1種類の「B細胞」は1種類の「抗体」しか作れず、1種類の「抗体」は1種類の「抗原」しか認識できないため、ヒトの体内では、数百万から数億種類の「B細胞」がそれぞれ異なる「抗体」を作り出し、あらゆる「抗原」に対処しようとしています。


「抗体」は、全て「免疫グロブリン」(めんえきグロブリン、immunoglobulin)の仲間です。Immunoglobulin と2文字とって、Ig何とかという言い方をします。IgA, IgE, IgG, IgMと呼ばれるものはみんな「抗体」です。


抗体検査

PCR法は、のどや鼻をぬぐってウイルスの遺伝子を増幅して測定するので、感度は高いのですが、鼻やのどなどの調べる(検体を取る)ところにウイルスがいない場合には、感度をいくら上げても「陰性」と判定される可能性があります。


ウイルスに感染すると、感染した人の体内でウイルスに対する「抗体」ができます。感染後、数日で「IgM抗体」ができて、かなりの時間が経ってから「IgG抗体」ができて、感染は終結に向かいます。特定のウイルスに対する特定の「IgM抗体」を測定すると、今、感染しているかどうかがわかり、さらにそのウイルスに対する特定の「IgG抗体」がでていれば、すでに感染を克服している可能性が高いことがわかるという仕組みです。「抗体検査」はこのように感染が始まったところなのか、感染が終わりつつあるかまでわかる方法です。

「抗体検査」には2つ代表的なものがあります。素早く測れるのが「イムノクロマト法」と呼ばれる方法で、高精密に測れるのが「酵素免疫測定法」(=ELISA=イライザ)という方法です。「抗体検査」は少量の血液をとって行います。例えば「イムノクロマト法」のキットは、IgMの存在を示すラインとIgGの存在を示すラインの有無を目視で確認して判定するようになっています。


6. 話題の薬のはたらき


ファビピラビル(アビガン)

ファビピラビルは細胞にウイルスが入り込むときや細胞から出ていく時ではなく、ウイルスの遺伝子を複製しているときに働きます。

ファビピラビルはウイルスに感染した細胞に取り込まれた後に,細胞内の中にある「酵素」によって、ファビピラビル RTPという物質になります。

ファビピラビル RTPは、「RNA依存性RNAポリメラーゼ」というRNAを作る酵素に対して邪魔をします。ファビピラビルRTPは、感染した細胞内でウイルスのRNAの鎖が作られる時にRNAに取り込まれ、その後、ウイルスのRNAが伸びて完成することを食い止める働きを持っています。

ファビピラビル RTPは、このようにしてウイルスの遺伝情報の複製を邪魔するのですが、それと同時に、本来ウイルスRNAの鎖にGTPやATPが取り込まれるべきところ、ファビピラビル RTPがその代わりにウイルスRNA鎖に取り込まれ、ウイルスの遺伝子の複製に関わる様々なRNAを不完全なものにしてしまうという働きを持っています。このように二重の働きをもって、ウイルスが増えるのを止める働きがあります。

ファビピラビルは、治療法の確立されていない、さまさまなRNAウイルス感染症に役立つ可能性があります。


レムデシビル

レムデシビルは、アデノシンという核酸の仲間の類似物で、ウイルスのRNAが作られるのを減らす働きがあります。

レムデシビルは体内で活性型になり、ウイルスのRNAを作る酵素(RNA依存性RNAポリメラーゼ)を混乱させて、遺伝情報のデータ(塩基配列)が誤っている場合に、誤りが修正されることを邪魔します。

ただ、RNA鎖が作られるのを終わらせるのか、突然変異を引き起こしているのかは、わかっていません。


イベルメクチン

イベルメクチンは、ウイルスの「ゲノム」から翻訳された「蛋白質」を”機能できるサイズ”に切断する「メインプロテアーゼ」という「酵素」にくっつく性質を持っています。

メインプロテアーゼを邪魔することによって、ウイルスの複製を抑えることができると考えられています。

さらに、イベルメクチンは、さまざまな「蛋白質」を細胞の「核」の中に運ぶ機能を持っているインポーチン(Importin)という「宿主細胞」の「蛋白質」の邪魔をします。今、課題となっているウイルスは、インポーチンの働きによって、「宿主細胞」の「核内」に入り込んで「複製」されます。そのため、インポーチンにイベルメクチンがくっついて、活化を止めることで、ウイルスの「核」の中への侵入を邪魔するのではないかと考えられています。

7. 消毒、殺菌、除菌、抗菌とウイルス

まずは、あいまいにつかわれている言葉の整理をします。

「消毒」とは、病原性のある微生物やウイルスの活動を弱めたり・除去して害のない程度にすることです。「消毒」という言葉は、「医薬品」・「医薬部外品」のみに使えます。

「殺菌」とは、「特定の菌を殺す」ことです。すべての菌を殺さなくても、数が減れば殺菌です。また、特定の1種類の菌が減っただけでも殺菌といえます。「殺菌」という言葉は、「医薬品」・「医薬部外品」に使えます。


「除菌」とは、「菌を取り除く」ことです。「殺菌」することも除菌に含まれます。「医薬品」・「医薬部外品」以外では「殺菌」という言葉を使えないので、「除菌」という言葉が使われます。

「抗菌」とは、「菌の増殖を抑制する」こと、つまり菌が住みにくい環境をあらかじめつくることです。「殺菌」や「除菌」のように、直接菌を殺したり取り除いたりする効果ではありません。したがって、抗菌の取手は安全というのは、あたっていないことがわかります。

「滅菌」とは、「あらゆる菌を殺菌する」ことです。手術器具や注射には滅菌が必要です。

言葉は実際には曖昧に使われていて、本当は効果がないはずなのに、効果があるかのように売られているものがあることに気づくと思います。この領域は商売っけが集まってくるところなので、注意が必要です。この記事を書くために様々な情報源をあたりましたが、正直怪しいものが正しそうに書いてあるものが多数でした。ここの記載も鵜呑みにせずに、おおよその理解の助けにしてください(責任が持てません)。
微生物やウイルス。その強さ=消毒しにくさは、以下のようになっています。

芽胞>エンベロープのないウイルス>エンベロープのあるウイルス/結核菌>糸状真菌>一般細菌/酵母様細菌

一番やっかいなのが、「芽胞」です。また、比較的消毒しやすいのが「細菌」です。

以下、比較的入手しやすい、「消毒」「殺菌」「除菌」などをうたった製品に入っている物質について”ほほ”強い順に説明します。

次亜塩素酸ナトリウム:塩素系漂白剤の主な成分です。一般に販売されているものの中では作用が強く、「芽胞」以外は、ほぼ万能です。「エンベロープ」のない小型ウイルスや「B型肝炎ウイルス」などにも効果があります。ただ手指皮膚に使えず、粘膜に触れると大変なことになります。あと金属を変質させてしまうので注意が必要です。

次亜塩素酸水:濃度がきちんとしていれば、次亜塩素酸ナトリウムとほぼ同じ効果を示します。次亜塩素酸ナトリウムとは違い、手指皮膚に使うことができ、粘膜にも安全です。ただ、不安定ので、きちんとした消毒力・殺菌力が確保されているかが課題となります。

アルコール(消毒用エタノール、70%イソプロパノール):一般細菌などほぼ全ての微生物に効果があります。ウイルスについては「エンベロープ」のある「インフルエンザウイルス」や「コロナウイルス」には効果があり、「エンベロープ」を持たない「ノロウイルス」にはアルコールでは太刀打ちできないとされています。80%近くの濃度の消毒用アルコール(医薬品)と50%程度の濃度の食品添加物のアルコール製剤と、それよりもアルコール濃度の低いお酒では強さが異なります。ならば一番濃い「無水エタノール」を使えば一番強いのかといえば、そうではなく、「無水エタノール」はすぐに揮発してしまうので、その場からなくなってしまい、消毒力は至って弱いのです。またエタノールは常温でも揮発するので、たとえば消毒用アルコールからアルコールの匂いがしていたら、それはそこからアルコール分が減っていることを意味します。よってアルコールを消毒に使うのであれば、フタをしっかりと締めて揮発を防いで濃度を保たなければ、薄いアルコール水になってしまいます。

過酸化水素水(オキシドール):血液や体組織と接触すると、分解して大量の酸素を発生して、この酸素の泡が異物を洗い流します。分解しなければ、一般細菌やウイルスを5~20分間で、芽胞を3時間で消毒できます。

ポビドンヨード:結核菌、ウイルス、真菌、一般細菌、酵母様真菌などに消毒作用を持っていて、さらに時間をかければ、一部の芽胞(クロストリジジウムの仲間)にも効果がある一方、バチルス属の芽胞には効果がありません。ポビドンヨードは100倍に薄めるともっとも消毒の力が強くなるのですが、いろいろな理由で不活性化がおこるので、原液で使うのが普通です。

クロルヘキシジン:MRSAなどの一般細菌、カンジダなどの酵母様真菌、ヘルペスウイルスなどのエンベロープのあるウイルスのみに効果があるのですが、院内感染の原因はほどんとカバーできるので、医療現場でよく使われています。クロルヘキシジンを使った消毒薬には皮膚に吸着されやすいものがあり、持続的に効果があります。

第四級アンモニウム塩:塩化ベンザルコニウム・ADBAC・ADEAC:一般細菌や、酵母様真菌に効果がありますが、ウイルスへの効果は期待できないようです。


8. からだを守る免疫系


プラズマサイトイド樹状細胞(pDC):主にウイルス感染が起こった際にはたらき、インターフェロンα(IFN-α)を作って、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、NK細胞、B細胞などを免疫細胞の中で司令塔のような役割を果たし、他の免疫細胞を活性化させます。

このプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を活性化することができて、健康維持にも良いというきちんとした研究がされている貴重な乳酸菌が入った食品があります。この乳酸菌が入った食品(ヨーグルト・サプリメント・飲料)は、日本では2020年から「健康な人の免疫機能の維持をサポート」という機能性表示がされてて、健康な人が食品によって免疫機能の維持に取り組むという、それまでにはなかったアプローチが生まれました。

ミエロイド樹状細胞(mDC):免疫細胞の中で司令塔のような役割を果たし、他の免疫細胞を活性化させます。主に細菌感染症が起こった際にはたらきます。

インターフェロンα:インターフェロンα(IFN-α)には、ウイルスやガン細胞の抑制や細胞増殖の抑制などの命令を、他の免疫細胞に伝える役割があります。

NK細胞:リンパ球のなかま。Natural Killer細胞が本名。血管やリンパ管の中を流れていて、病原体がいないかいつもパトロールしています。ウイルスが入り込んだ細胞や、がん細胞など、異常な細胞を、他の細胞からの命令なく、すばやく殺します。リラックスするとNK細胞が元気によく働くようになります。いつもは腸内にいない細菌が腸内に入ってきても活性するので、乳酸菌の入っているヨーグルトや、納豆菌の入っている納豆でも活性があがります。なので、NK細胞を活性化するためには、高級なヨーグルトの必要はなく、3個100円のヨーグルトでも3パック100円の納豆でも大丈夫です。

ヘルパーT細胞:キラーT細胞やB細胞を助けます。エイズになると、このヘルパーT細胞がうまく働かなくなり、様々な感染症にかかりやすくなるのだそうです。つまり、NK細胞が働いているだけでは、なかなか健康を守り切れないということになります。

キラーT細胞:ウイルスに感染してしまった自分の体の細胞を「残念!お覚悟を!」と、殺して、周囲への感染の広がりを防ぎます。

B細胞:リンパ球のなかま。抗体をつくることができるのはB細胞だけです。初めて出会う病原体に対する抗体を作るには時間がかかりますが、前に出会ったことがある病原体には数日で抗体を作ることができます。「あ、以前お会いしましたね・・・」といって、さっと抗体を作ってやっつけてしまおうという取り組みが、「ワクチン」とか「予防接種」とよばれるものです。これがうまくいくことを「免疫が成立する」という言い方もします。抗体酵素ところで触れたIgMとIgGの話です。最初に病原体に出会ってあまり効率よくない形で作られるのがIgM、次回以降に効率よく作られるのがIgGです。

9. メッセンジャー RNAワクチンとは何か?

今回使われ始めている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)用のワクチンは、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンです。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するときに必要なタンパク質・細胞侵入時のフックの役割を担う)の設計図(鋳型)となるmRNAを作り、脂質の膜に包んだものです。

このワクチンを接種すると、脂質の膜に包まれたSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の設計図となるmRNAが脂質の膜に包まれて細胞へ運ばれます。この脂質の膜はmRNAを保護するとともに、mRNAを細胞の中に運び入れます。細胞内に取り込まれたmRNAは細胞質に放出されます。

mRNAが細胞質に来ると、細胞内のタンパク質を作る工場であるリボソームがmRNAを設計図としてウイルス抗原:SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を作ります。 ウイルス抗原は細胞内を運ばれていき、細胞表面に抗原として提示されます。

この提示された抗原に反応して、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対する中和抗体やヘルパーT 細胞やキラーT 細胞が「作りおき」されて、新型コロナウイルスが体の中に入ってきた本番には、すぐに戦うことができるというわけです。

仮に、SARS-CoV-2ウイルスが体内に入ってきて、そのスパイクタンパク質が作られはじめたとしても、すぐに中和抗体・ヘルパーT 細胞・キラーT 細胞などが反応して排除するので、新型コロナウイルスが細胞内に入って感染が成立するのを食い止めることができる可能性が高まるという戦略です。

体の中に新型コロナウイルスが入ってきても、細胞に入り込んでウイルスのコピーが作られなければ、感染は成立しません。

メッセンジャーRNA(mRNA) はものすごく不安定で壊れやすく、ワクチンのmRNAは自然に分解されてしまいます。このため、mRNA ワクチンの遺伝子は体に残りません。

mRNAは、そのままでは、遺伝情報をDNAの文字列として保管している染色体に取り込まれることはなく、ワクチンには mRNA を鋳型にして対になるDNAをつくる (逆転写する)ような機能や、mRNA をゲノムDNA に組み込む機能はありませんので、mRNA ワクチン由来の遺伝子が染色体に取り込まれることはありません。
一部、遺伝子を操作するコワイもののような騒ぎがあり心配されている方もいるようですが、きちんと理解しておくことが大切だと思います。

ただ、ワクチンが万能な訳でもないので、

感染を防ぐ基本の習慣 + 免疫機能の維持をサポートする食品の日常的な摂取 + ワクチン接種 + 感染してしまった時の治療法の確立(治療薬を含めたガイドライン)という組み合わせが大切だと思います。



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