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【UXリサーチ】 ラポール形成は、ドキュメンタリー制作の手法からも学べる

UXデザイナーの吉本です。

最近、ビジネス向けのユーザーインタビュー手法のセミナーに参加してみて、「ん?」と気になることがありました。それは、ラポールを築き始めるタイミングです。

実施当日に出会って初めて、「5分間アイスブレーキングや1on1トークをきっかけに、インタビューしながらインフォマーマント(データ提供者/インタビューの相手)とラポール形成していきましょう」と、オウンドメディアや他のセミナー資料で記されています。

ご存知のように、「ラポール」はフランス語で「rapport (架け橋)」という意味ですよね。もっと親密な関係や信頼関係を形成するために、調査に協力していただける方々への「尊重」「類似性」「ページング」を意識しようと。

しかし、これは予算とスケジュールを優先されてスピーディーに進めるためのノウハウではないかと感じ、本当に相手方とラポールを築くことができるのか疑問が拭えません。

ラポール形成は、出会う前から始まっている

かつて映画オタクで、アメリカの大学に留学してまでドキュメンタリー映画制作を学び、現地で国際ニュース報道に関わっていたのですが、その時に先輩の仕事ぶりを観察しつつ学んだ取材ノウハウは、いまでもUXリサーチに応用することがあります。

その中で大事にしているのは、お会いする前に、必ずご挨拶の手紙を書くことです。

目的は、私自身がどのような人間かをオープンにし相手に人物像を事前にイメージしていただくことが1つ。もう1つは、UX設計プロジェクトの目的を伝えて、ご協力いただくことへの意義を事前に知ってもらうことです。

これによって調査に対する心の準備をしていただけているのか、初対面にも関わらず少し緊張が解けている様子で気さくに対応してもらうことが多く、初対面でも私の名前を呼びかけていただくこともあります。(もちろん、手紙の中に、日時や場所、参加者名、主な質問項目(2〜3点)などの概要も添えておきます。)

まだ相手の顔が見えていなくても、文面を通して事前に丁寧なコミュニケーションを取ることで、リラックスした雰囲気でインタビューを始められて、ユーザーインサイトのヒントにつながるお話しを引き出しやすくなるのは確かです。それはインタビューだけでなく、行動観察調査でも普段の仕事ぶりや生活まで気軽に共有してくれることも。

ユーザー行動調査の様子(左の男性がインフォーマント)

あるドキュメンタリー作家の姿勢から

地味なことではありますが、これはジャーナリストやドキュメンタリー作家が昔から行っている方法でもあります。

例えば、映画監督の森達也氏がドキュメンタリー映画「A」を制作した時もそうでした。密着取材の被写体は、あのオウム真理教でした。

当時、大きな事件を起こした教団に対して、国内外のテレビ局や新聞社から電話とファックス、アポなしで取材依頼が殺到していた時期。教団の広報担当も圧力の強い依頼交渉に、ほとんど取材を拒否していたと。

その中で、ただ一人森監督だけが、長期での取材を許可されました。

理由は、彼だけ初めて手紙を送って取材を申し込んでくれたことと、中立な立場でドキュメンタリー作品を作りたいと言う姿勢だったそうです。日本中から非難されている相手に対しても、丁寧に自分の立場と目的を手紙で綴ったことで、誰も撮影できなかった映像を記録しドキュメンタリーを作ることできたのでしょう。

後に森監督は「普通は、取材を申し込むときは手紙を書くものです。他の局や新聞社もやっていれば取材できたでしょうけれど。」とインタビューで答えていました。

このエピソードは印象深く、UXリサーチをする上で相手を尊重する姿勢として、モデルケースになっています。

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