[13]パイロットまで、あと2年。
「入ります!」
ブン太が教官室に向けて大声を出す。
入り口で俺と東川、詩音が横並びなって
右へ倣えをして列を整える。
それを確認したあと
ブン太が1番偉い教官に向けて敬礼する。
今日は5区隊、区隊長の関1尉だ。
部屋に入るだけでも作法がある。
非常に面倒だが関1尉は
どちらかといえばフレンドリーだ。
あくまでも、どちらかといえば、だか。
複数人で教官室に行くときは、
基本的に代表者がしゃべる。
「お疲れ様です!」
「おう、お疲れ。どうした?」
「行動計画の確認をしていただくために
参りました。ご確認お願いいたします。」
「あぁ。いいよ。え?どういうメンツ?」
「合コンメンバーであります。」
「え!お前はともかく、前橋と東川もか?
どうせ、水口のセンディングだろ?」
「はい、私の高校時代の同級生が福岡に
進学してますので。」
「かぁ〜。青春だねぇ。
申請理由が余暇になってるけど、
ここは合コンなんだな。」
そんなやりとりをしながら内容に目を通して、
自分の項目にハンコを押す。
「でもこれ、かなり早く帰ってきるな。
門限までに帰れればいいから
もう少し遅い新幹線でもいいんじゃないの?」
「いえ、安全に行きたいので。」
「そっか。隊長も多分もっと攻めていいって
言うと思うけどな〜。はい。」
ブン太がバインダーに挟まった行動計画を受け取る。
これでミッション完了。
後は退散するだけだ。
「お、どっか行くんか?」
後ろから声をかけられる。
助教の柏木2曹。いわゆる副担任。
筋トレが趣味のヤバいやつだ。
小柄な身体に筋肉をまとって、
常人には到底不可能な
回数の腕立て伏せを命じたりする。
牧先輩たちも、
去年柏木2曹からかなり厳しくやられたらしい。
「俺にもチェックさせろよ」
言いながらブン太の手から行動計画をとる。
ブン太もまずそうな顔をしている。
「なになに…。
お前らこんなことしてる余裕あるんか?
特にお前ら3バカはテストもあること忘れんなよ。
詩音も、こいつらと変な店行くなよ。」
こいつは時代錯誤のパワハラを普通にかます。
しかし教官である以上
俺たちを評価する立場にある。
大人しくしておくことが先決だ。
「お言葉ですが、そんなことわかっています。」
詩音が返す。
こいつ肝座ってんなー。
柏木2曹もそれ以上追求してこない。
「お前よくあそこであんな返事できるな」
「当たり前でしょ、
あんなの明らかにセクハラよ」
「まーな。でも良かった。
もっと早く帰れとか言われると思った。」
「これでもかなり早いのよ。大丈夫。」
「頼りになるな〜詩音様。
ついでにテスト教えてくんない?」
「来週のテストって日本史でしょ?
あれ中学生の教科書じゃない。
まさかあれのこといってんの?」
「そうなんだよ。
全然わかんなくてさ。
去年先輩が受けたテストの答案とか持ってない?」
「‥…あるけど、ほしい?」
「う、欲しいけど。」
「じゃ、福岡で行きたいところがあるから、
ちょっと付き合ってよ」
「そんなことなら喜んで!な?」
ブン太が安請け合いする。
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