台湾発翻訳コミックス『用九商店』 発売記念 | 訳者・沢井メグ特別コラム
皆さんこんにちは!
漫画『用九商店』の日本語訳を担当させていただいた、沢井メグです。
皆さんは台湾の漫画『用九柑仔店』の名前を聞いたことがあるでしょうか? 同作を原作としたドラマ『いつでも君を待っている』でご存知の方もいらっしゃるかと思います。
ついにその原作漫画が日本語版『用九商店(ようきゅうしょうてん)』として発売!今回は2022年1月12日(水)発売の1&2巻について、翻訳作業を通して感じた見どころ、翻訳の裏話などをお届けしたいと思います。
『用九商店』とは?
『用九商店』は食べ物も日用品もなんでも買える、でもスーパーやコンビニとはちがう……台湾の昔ながらの商業形態「よろず屋」を舞台に、人と人の絆を描いた物語です。台湾一の都市・台北で暮らす主人公・俊龍(ジュンロン)のもとに田舎でよろず屋を営む祖父が倒れたという知らせが入って物語は動き出します。俊龍は都会の生活を捨て、店を継ぐことに。
よろず屋のような「古き良きもの」は人々のノスタルジアをかき立てるものですが、どんどん変化し便利になっていく未来に生き残る価値はあるものなのでしょうか。そんな私たちにとっても身近なテーマを内包しながら、よろず屋に集まる人々の温かな人情が描かれていきます。
そんな『用九商店』は台湾の漫画大賞「金漫獎2017(ゴールデン・コミック・アワード)」で「年間漫画賞」「青年漫画賞」をダブル受賞!
さらに2020年、金漫獎に新設された読者投票による「インターネット人気賞」で獲得票1位となりました!
まさに台湾で広く愛されている作品だと言えます。
物語の注目ポイント!
さて、表紙のあらすじを見ただけでもエエ話な香りがぷんぷん漂っている『用九商店』。ストレートに読むだけでも胸にグッとくる作品なのですが……翻訳作業を通して、読者の皆さんにどうしてもお伝えしたいことが出てきました!
それは「あらゆる背景に、なんなら草木の1本1本にも意味がある」ということ。『用九商店』では何気ないコマに重要な意味が持たされ、それがセリフや舞台背景を補完していることが少なくありません。本当に油断できないということです!
たとえば物語の舞台について。
舞台は作者のルアン・グアンミン先生の故郷・台湾中部の雲林県なのですが、1巻の段階で特に地名は明言されていませんでした。台湾の読者はどこで舞台を雲林県だと判断していたのでしょうか? 不思議に思いながら1巻を隅々まで見てみると……あるコマに小さく「斗雲(ドウユン)」と書かれたタクシーが!
タクシーのドアに「斗雲」の文字(『用九商店1』p.22より)
雲林県のタクシー会社です。
……さりげないにもほどがある!
でも必要な情報はしっかり描かれていました。
さらに読み進めると読み飛ばしそうになるほどの小さなコマに「斗六(ドウリウ)駅」の駅舎が!斗六駅は雲林県のターミナル駅。もう雲林県確定です。そのシーンがどこにあるのか皆さんも探してみてくださいね!
作品の中にはこのような発見や、思わずニヤッとしてしまうような仕掛けが数多くあります。台湾に行ったことがある方にとっては懐かしい風景も描かれていることでしょう。
目まぐるしい日々に慣れた私たちは、漫画をついつい流し読みしてしまいがちです。『用九商店』に散りばめられた丁寧に読ませてくるギミックはグアンミン先生の「少し歩調を緩めてみては?」というメッセージなのかもしれません。
人物の表情の変化にも注目です。画像は店を継ぐ前の”ビフォー俊龍”。アフターと見比べるとずいぶんと印象が違います。(『用九商店1』p.28より)
日本語訳するうえで最も注意したこと
さて、翻訳というとついて回るのが「直訳」と「意訳」の問題ではないでしょうか。さらに漫画翻訳には吹き出しの文字制限があります。
中国語を日本語にストレートに訳すと2倍近く、時にそれ以上の分量になりがちです。漫画翻訳の性格上、意訳や言葉の省略、言うなれば「濃縮」する作業は避けて通れません。
右の男性のセリフは25文字。原文の中国語では21字、原文をストレートに訳した仮翻訳で45字→初稿38字→最終的に25字に。セリフの意味は変えず、言い回しを変える作業を行いました。(『用九商店1』p.31より)
しかし、物語の世界観、人物の心の機微はもれなくお伝えしたい!
そこで翻訳の指標としたのが、「もしグアンミン先生が日本語で描いていたらどう描くか」「このキャラが日本語ネイティブならどう話すか」でした。そのためにグアンミン先生のインタビューや講演を拝見し、グアンミン先生の人物像と作品に対する思いへの理解を深め、訳文を編集担当の佐藤さんと何度も議論を重ねて作っていきました。
答えが見えない議論ですが、読者の皆さんに伝わることが最も答えに近いのかもしれません。皆さんにグアンミン先生が物語に込めた思いを感じていただけることを願っています。
グアンミン先生は「人物が勝手に話し出す」とおっしゃっていますが、私も同様のことを感じたことがありました。詩的表現の部分翻訳の際、原文に忠実に訳すと長くて入らない、省略すると意味がわからなくなる…そうして悩んでいたときに突然、キャラ達が話し始めました。笑
(『用九商店1』p.32より)
『用九商店』は「よろず屋」という台湾の文化を軸にした物語ですが、劇中に登場する田舎の風景、人と人が寄り添う生活、そして人生の先輩であるおじいさん達が語る言葉は国や文化という垣根を越え、心の原風景にリンクしてきます。
それが「どこか懐かしい」という思いをかき立ててくるのでしょう。没入しすぎて外国の漫画であることをうっかり忘れてしまうくらいです! 漫画に国境なしとはこのことかもしれません。
皆さんの心にはどのシーンが響いてくるのでしょうか。
コミックスでぜひお楽しみください!
文:沢井メグ
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『用九商店』1・2巻は、2022年1月12日(水)に全国書店にて発売します!
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