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技能実習制度の問題点と改善策

現在、日本国内の製造工場や建設現場、農家等で、40万人以上の技能実習生が働いています。この数は年々増えており、コロナが収束すればさらに増えると予測されています。こうした実習生の増加とともに、この制度の問題点や課題も顕在化してきました。本稿では、技能実習制度の問題点や課題を整理するとともに、適正な実習生管理をされている監理団体や現地送出機関がどのように実習生に向き合っているのか、取材した内容を紹介します。


技能実習制度の問題点    

                          
外国人技能実習制度は、主に開発途上国の労働者を一定期間日本で受け入れ、日本式の高度な技術や知識を学んでもらい、帰国後に本国の発展に生かしてもらうことを目的とした制度です。ただ、この本来主旨とは異なる目的で活用されているケースが多いことも事実であり、制度開始以来、多くの問題点や課題が指摘されています。


現場で起こっている技能実習制度の主な問題点、課題点について、図1のように整理しました。実際には、これ以外にも細かい課題があるのですが、ここでは、大きな課題について取り上げます。

図版

まず、実習生の劣悪な労働環境について。具体的には、日常的なサービス残業、最低賃金を下回る給与、実習計画とは全く異なる作業内容等があげられます。

日本の法律では、実習生は、インターンでも研修生でもなく、労働者であり、日本の「労働関係法令が適用」されます。
ですが、実際にはこれらが守られない事態が頻発しており、実習先によるタイムカードや勤務記録の改ざんという、悪質なケースも報告されています。
厚生労働省の発表によると、2019年中に、こうした労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場(実習実施者)のうち6,796事業場(実に71.9%)となっています。

労働環境以外の問題点としては、劣悪な住環境、実習先からのパワハラ、セクハラ、セクハラ、暴力指導などがあります。あまりに酷いケースでは、裁判になることもありますが、多くのケースでは、立場の弱い実習生が泣き寝入りしています。また、実習生に対するモラハラも、実習生を傷つけることがあります。ある実習先では、日本人社員が、実習生のことを「あいつら」と呼んでおり、それが実習生のモチベーションを大きく下げているというケースもありました。

このようなことがあると、実習生の失踪の一因になります。ここ数年、年間で約7000人の実習生が失踪しています。母国に帰国すればまだよいのですが、日本国内のどこかで不法就労しているという問題もあります。その他、実習生とのコミュニケーション不足、実習中の怪我、実習生の軽犯罪なども問題になっています。

適正な実習生管理のためにできること                                   

ここまで、実習生の問題点について解説してきましたが、ここからは、こうした問題を起こさないための現場の取組みを紹介します。実際の現場ではどのように実習生に向き合っているのか、監理団体4社、現地送出機関1社に取材した内容を紹介します。
 

実習生の受入決定前に、想定される問題点を洗い出す


今回取材させていただいた全ての監理団体では、実習生の「受入決定前」に、技能実習制度についての勉強会や説明会を開いていました。実習生が来日する前ではなく、実習生を受け入れようと決定する前に、外国人労働者と一緒に働く上での問題点、体制作りについて、実習先の経営層や現場の社員と話し合い、想定される問題点や懸念点を洗い出します。そして、それらの対策が可能なのか、慎重に検討しています。勉強会の結果、実習生の受入が難しいと判断された場合は、実習生を受け入れないという結論になることもあるようです。決して、安い労働力だからと安易にこの制度を導入することはありません。

また、実習生を受け入れたいという企業は、日本人も採用しにくいという場合も多いです。その理由は、労働人口が少ない地域だったり、労働環境が過酷だったりします。実習生が適正に働ける環境をつくることで、日本人の労働環境も良くなり、結果、日本人社員も定着するという好循環が生まれます。例えば、ある企業では、実習生の受入を機に、作業工程を改善したことで、作業効率が向上し、仕事に対する評価基準が明確になり、若い日本人社員のモチベーションが上がったという事例も報告されています。


実習生とのコミュニケーションエラーを防ぐために


実習生は、来日前に母国で、平均6ヶ月程度、日本語の学習をしてくることが多いです。ただ、母国で勉強したからといって、実際の日本の職場ですぐにコミュニケーションが取れるかというと、そうでもありません。

今回、取材した監理団体の多くでは、以下のようなコミュニケーションの工夫をしていました。
①相談員からコミュニケーションを取る。実習生のほうから、相談があった時には、既に手遅れになっている場合もあるため、できるだけ相談員から声掛け、SNSを活用して、コミュニケーションを取る。
②分かりやすい質問、答えやすい質問をする。最初は、「最近どうですか?」のようなオープンクエスチョンではなく、「昼食を食べましたか」等のクローズドクエスチョンをする。些細なことでもよいので、声掛けし、関係を作っていけば、何でも相談してもらえるようになる。


実習生の日本語力を上げるために


多くの実習生は、3年間、日本に住み、日本で働いているのですが、残念なことに、実習生の大半は、日本語力が弱いです。来日した当初とほとんど日本語力が変わっていない実習生もいます。この点も大きな課題となっています。

一般論ですが、実習生に対して日本語学習支援を何もしないと、実習生自ら日本語のブラッシュアップを図ることはありません。

この課題に対し、積極的に取り組んでいる監理団体もあります。具体的には、「JITCO主宰の日本語作文コンクール」への応募を必須化し、そのための学習支援(日本語教師によるオンライン日本語レッスン)を提供しています。実習生の多くは、明確な目標があると、勉強します。実習先の企業によっては、応募したことに対する奨励金を用意することもあるそうです。そして、もし入賞すれば、JITCOから表彰されます。本人にとっても、受入企業にとっても、プラスとなる取組みだと言えます。


適正な監理のため、実習生に望むこと


適正な実習生監理のためには、実習生側の協力も必要です。実習生にお願いしたいことをまとめます。

まず、約束を守ること、そして嘘をつかないこと。嘘をつかれるとお互いに疑心暗鬼になります。実際にあった事例ですが、ある実習生は、コロナ陽性者の濃厚接触者であることを申告しませんでした。
日本では、正直に言ったほうが、結果的には良い結果になることが多いです。しかし、そうではない国もあります。正直に言うとバカを見るという文化が残っている国もあります。こうした文化の違いを、教えておくことで、実習生が正直に言ってくれるようになったというケースもありました。
また、挨拶やお礼の言葉を言うことも重要です。例えば、建設現場では、休憩時に、クライアントからお茶やお菓子をいただくことがあります。何回ももらっているとそれが当然のようになってしまいがちですが、毎回、きちんとお礼を言うことで、実習生への評価が高まることもあります。


技能実習生の現場を知る専門家によるサポートも有効


技能実習生の適正な受入支援を行うためには、外国人雇用の現場を知る専門家によるサポートも有効です。例えば、外国人雇用に強い行政書士や社会保険労務士、日本語教師、自治体の国際交流課などがあります。こうした専門家は、技能実習制度の法改正情報や最新事例の情報収集力に長けており、現場の実情に即したサポートが可能です。専門家は、机上の理論で動くというご指摘を受けることもあるのですが、最近では、現場に積極的に関わる専門家も増えています。


実習生を育てることで、会社も成長していく


今回の取材を通して、適正な実習生監理を行っている監理団体や受入企業がどのような取組みをしているのか、深く知ることができました。誌面の関係で、全ての取組みを紹介することは難しいのですが、ある監理団体の担当者が語っていた次の言葉が、適正な実習生監理をするための肝であると思います。

「私達は、実習生の受入支援をしていますが、この仕事を単なる人材斡旋とは考えていません。教育事業だと考えています。教育するからこそ、優秀な人材に育ちます。日本に来日したばかりの実習生は、日本で働くことに希望を持ち、とてもキラキラした目をしています。そして、3年後、1人の社会人として自立した姿を見ることは、私達にとって大きな誇りです」。そう語る担当者の方も、とてもキラキラした目をしていたのが印象的でした。

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