エマ
19世紀末のイギリスを舞台に、メイドと主人の恋愛が描かれている。と書くと、ストーリーは概ね想像できるし、その通りに進むので期待を裏切らない展開。
この手の作品は兎角、史実や、文化的考証の観点からツッコミを受けがちだが、何が真実かなどは誰にも見たことがないので、わかることではないと思う。史実と言われていることも、時とともに変わるし、世に出ている本も書き手のアプローチによって違うことや、教科書に載っていることも、自分が習っていた頃とずいぶん変わっていることからもわかる。現在の自分をみても解釈はあくまで自分視点でしかないのと同じ。
「メイド」「ヴィクトリア朝」への、作者の思い入れが素晴らしい。この思い入れがあるからこそ、これだけ描けるのだと、どの絵を見ても思う。また、コルセットをつけるシーンでは旦那が足を腰にかけてギュウギュウに引っ張るシーンなど、いかに体に負担をかけてドレスを着ていたかがわかる。
産業革命は国にさまざまな影響を及ぼした。生産性、効率化は格段に上がったが、同時に貧富の差や環境破壊が拡大した。霧の街ロンドンと言われても、実はスモッグのことらしい。
貴族に対してブルジョアジーが台頭し、その後各国で革命が起きるようになる。そんな時代に、クラスを超えた恋愛は、それを通すのか、実際の生活(自分だけでなく関わる人たちも含め)を通すのかは難しい。恋愛ものとしてみると、それを通して欲しいと思うが、全体を見ると二人の都合で生活が激変する人たちがどれほどになるか。
現在でも、クラスの違いのようなものはあるだろうし、このような感情と現実の相反する事態はある。絶対の正解がないからこそ、この題材の作品がシチュエーションを変えて次々と生み出され、著者が回答を模索しているのだとおもう。
全10巻のうち、8、9、10巻は外伝。どんな作品も主人公を支える人たちがいて、その人たちにもさまざまな暮らしと考えがある。どうしてあの時そう言ったのか、どういう立場なのかを補完する意味でも面白い。でも3巻あるのは珍しいかも。
面白くて10巻一気読みしたので、睡眠時間がずいぶん減ってしまった・・・
街歩きがさらに楽しくなるものがあるといいな