2024 J1 第17節 湘南ベルマーレ × ガンバ大阪 レビュー

レビュー

 試合前の順位とは対照的にゲームの主導権を握っていたのは湘南だった。ガンバの4-4-2ブロックに対して湘南の3-1-4-2ビルドアップが好相性を見せていたことに理由があるだろう。中央を塞ぎながらプレスに出るガンバの4-4-2に対し、湘南はバックラインの3枚+アンカーの1枚で2トップのプレスをいなしながら、サイドでフリーのセンターバックを作る。フリーのセンターバックがボールを持ち上がればガンバのサイドハーフ(ウイング)が出ていかなければいけないが、そのタイミングで湘南のWBが幅を取っているので、「WBを消すのか?中央を消すのか?」の択をサイドハーフに突き付けることになる。ガンバのサイドハーフが消した択の「逆」を選ぶことで、オートマチックに前進が可能になる。

湘南の前進基本構造

 守備の際は5-3-2で守る湘南。ポイントはこの日2トップに入った鈴木章斗。2トップとは書いたが実態としては5-3-1-1のような表現が近いだろう。彼に与えられたタスクは最前線でガンバの攻撃を片サイドに限定すること。それに誘導されてガンバがサイドにボールを運べば、そこから全体がスライドして受け手を捕まえボールを奪う、という寸法だ。

湘南のハイプレス基本構造

 さて、この戦術。試合中はぼんやりとした既視感しかなかったが、有識者の感想で気づかされた。これ、ガンバ大阪U-23だ。

 超・大雑把にまとめれば、まだプロ仕様の肉体になっていないU-23の面子を踏まえ、彼我のフィジカル差を配置で解消するために宮本恒靖監督と山口智ヘッドコーチが編み出した解。キムミンテ、畑大雅というフィジカルで優位が取れる見込みの高い選手が負傷で使えないことを踏まえての結論なのかもしれないし、いつもこうなのかもしれない。普段湘南をあんまり見てないので、ごめんなさい。いずれにせよ、山口智監督の引き出しのなかには既にあるネタだよ、ということをお伝えできれば。

 あの時からの進歩として、ワンサイドカットが効かなさそうな局面ではインサイドハーフをスライドさせて3-4-1-2のように構え、アンカー脇の起点を潰しながらプレスに出るアプローチもあった。運動量がありつつポリバレントにも動ける湘南の選手たちの特徴を活かしたアレンジだろう。

 ロジカルに前進する湘南に主導権を握られ続けていたガンバだったが、22分にもはや恒例となりつつある痛んだウェルトンのインターバルを挟んで――"青空会議"が行われていたかどうかは定かではないが――プレッシングの部分には修正が入ったようだった。2人でアンカーを受け渡していた宇佐美と坂本だが、縦関係になって片方がアンカー、片方が中央CBへのプレス、と役割を定めなおす。中央CBへのプレスによってサイドを限定することができれば、サイドハーフはじめ後ろの選手も思い切って出ていけるようになる。次第に湘南をサイドに追いやることができるようになってきたガンバ。

 湘南は主導権を握りながらも試合を動かせず、焦りが出てきたのかもしれない。ガンバの先制シーンはソン・ボムグンがアンカーの田中に通そうとしたパスがズレたところから生まれたものだが、上述の前進ロジックを踏まえればGKからアンカーに無理やりパスを通す必要がそもそもなかったと思われる。あのプレーを「チャレンジした結果の失敗」と表現しなかった山口智監督のコメントの意図は、そのあたりにあったのではなかろうか。

失点は、やってはいけない、日頃求めていないプレーを選択して起きてしまったことで、すごく責任を感じています。

山口智監督試合後コメントより引用(太字は筆者)

 スコアが動いた後も湘南が幅を使いながら押し込む展開で進んだが、ウイングバックを含めた飽和攻撃に対してはボランチが下がってレーンを埋めることで対応できており、攻め込まれはするものの決定的なシュートは打たせない、という状態に持ち込んで前半を折り返す。



 後半も湘南にボールを保持される展開が続く。湘南がボールを持てる、ということもそうだが、ガンバが地上戦での保持にこだわらずロングボールを蹴っていたことにも理由がありそうだった。ボールを捨てる構えのガンバに対し、湘南は前半のように福田が低い位置で受けに来る形ではなく、インサイドハーフがCB-SBの間に飛び出して裏を使う形を増やしてきた。「手前」と「裏」を使い分けてガンバのブロックを揺さぶってくる湘南。

 ガンバは55分と早い時間帯に坂本に代えて倉田を投入。このタイミングでガンバは久々の4-3-3。倉田が左の、ダワンが右のインサイドハーフ、鈴木徳真がアンカーの位置に入る。中盤の人数を増やして、中央のパスへの圧力を増やす意図があったかもしれない。

 はっきり効果が出ていたかは微妙だったが、追加点を得たのはガンバ。中谷のロングボールのセカンドにいち早く反応した宇佐美が絶妙なスルーパスで山下のバックドアに合わせる。持ち前のスピードでマッチアップする杉岡の前に入った山下がファウルを誘発しPKを獲得。宇佐美が右隅に強烈な一発を叩き込み、ガンバがリードを2点に広げる。

 直後に湘南は鈴木章斗を下げてルキアン、平岡を下げて元ガンバの阿部を投入。運用はそのままで、ルキアンがトップ、阿部が左インサイドハーフに入る。2点差になってからは再び倉田をトップ下に置く4-2-3-1に戻したガンバ。手ごたえがなかったからか、スコアが動いたからかは不明。

 2点差を維持しながらゲームを進めたいところだったが、湘南が76分に杉岡に替えて茨田を投入した直後のセットプレーで失点。倉田が弾いたボールがちょうどルキアンのところに届く事故的な失点ではあった。

 ガンバは78分に宇佐美とウェルトンを下げ、山田康太とジェバリを投入。倉田が左に回り、山田康太がトップ下、ジェバリが最前線に。更に84分、足が攣ったダワンと山下を下げ、ネタラヴィと松田陸を投入。これまでは松田陸をウイングバックに入れる5バックへの変更がお決まりだったが、今回は4バックのままで松田はサイドハーフの位置に入っていた。

 この交代をきっかけに再びガンバはプレッシングの圧力を高める。湘南も茨田投入後は4バックに切り替わっていたため、噛み合わせやすくなっていたことに注目したかもしれない。何度かガンバが高い位置でボールを奪うシーンもあったが、湘南が持ち上がるCBに対してあまりしつこくいかないジェバリの脇に狙いを絞ってからはふたたび押し込まれるように。

 湘南はサイドバックに移った大野に高い位置で幅を取らせ、阿部ちゃんがハーフスペースの低い位置でフリーになって対角のハーフスペースにクロス、というパターンを見出しゴールに迫るが得点には繋がらず。そのまま守り切ったガンバが2-1で勝利。


まとめ

 始終湘南にボールを握られる苦しい展開が続いた。同じボールを握られる展開でも、ここ数試合はブロックの外側で回される時間が長くソリッドに守れている印象が強かったのに対し、今日はブロックを湘南に崩されてしまっていた。それでも最後の局面で面を埋めてコースを切る、シュートに体を投げ出すといったアクションに切れ目がなく、決定的な場面は作らせなかったガンバ。ブロックの練度だけでなく、エリア内でこの粘り強い守備ができるのも、今のガンバがリーグ最少失点である所以だろう。

 こういう試合のモメンタムをボール保持で取り戻すことができるようになればよりパーフェクトなチームになれそうな気がするが、今節そういった取り組みが見られなかったのは残念。この試合限りのゲーム戦術なのかそうでないのかは不明だが、ようやく一休みできるリーグ戦中断期間に練度を上げてきてほしい。

 リーグ戦17試合を終えて目標の7位を大きく上回る3位に付けている。6月は神戸・鹿島・町田と上位相手のボスラッシュが続く。ここを良い形で乗り切って、目標の上方修正といきたいところだ。




ちくわ(@ckwisb

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