2024 J1 第1節 町田ゼルビア × ガンバ大阪 レビュー

レビュー

 町田の攻撃はデザインがシンプルで明確だったと思う。

 ①DFライン+GKが大きく幅を取ってプレッシングをいなす。
 ②誰かが余るのでロングボールを蹴る余裕が生まれる。
 ③ターゲット(オ・セフン)に蹴る。
 ④落としを前向きの選手が回収してサイドに付ける。
 ⑤サイドハーフが縦に仕掛けてヤードゲイン。
 ⑥ゴールまでの道が見えれば積極的にクロス/シュート。
 ⑦決まらなくてもセットプレーが取れればOK。
 ⑧CKorロングスローでゴールに迫る。
 ⑨跳ね返されてもマイボールにできればボールを下げながら
 ①最初に戻る。

 こう書いてみると、「フローチャート」が書けそうだ、と思った。黒田監督は思いついたら夜中でもパソコン開いて作業するぐらいのパワーポイント狂だそうなので、もしかするとパワポで作ったフローチャートを選手に見せている可能性すらある。そう思えるぐらい、やることが明白で選手が迷っていない印象があった。

 このフローチャート(があるものとして話を進める)の良いところは、守備とも連動させられるところ。全てのアクションが「エリアの高さ」と紐づけることができる。例えば、ディフェンシブサードでボールを奪ったなら①~③に繋げる。ミドルサードで奪ったなら④~⑥に繋げる、など。奪った位置で即座にやることがわかるので、選手の反応が早い。言い換えれば、カウンターの局面でエリア内に人がたくさん送り込める。

 やることが明白――つまり強固なモデルを持つ相手に対してガンバがやるべきことは「このフローチャートにいかにバグを生むか」ということになる。前半はこれがほぼできなかった。

 前半目立ったのは、坂本へのロングボールと岸本の位置でのボールロスト。フローチャートに沿った町田の先制パンチで数度のピンチを招いたガンバは、アウェー・開幕戦・情報の少ない相手という環境もあって探り探りゲームを進めようとしていたはずである。そうしたマインドは個々人のゲームプランへのコミットにズレを生む。プレスに対する利き足側への誘導、結果としての右サイドでのボールロスト、空中戦に強くないFWへの放り込みといった「易きに流れる」事象はこれらの裏付けなのではないだろうか。

 結果的に前半は町田に蹂躙されることとなった。ハンドからのPKによる最小失点に抑え、オープンプレーでネットを揺らさせなかったのは、悪い流れのままに2点3点と失点が嵩んだ去年と比べると悪いなりに耐え忍ぶことができるだけマシになった……と言えるかもしれないが、新戦力が増えたとはいえもう2年目なのだし、自分たちのモデルを押し付けることでそこを突破してほしかった、というのが本音。


 後半も、町田のキックオフで始まった最初の5分は前半のリプライズとなったが、少しずつ試合の様相は変わっていく。前半と異なり内側にポジションを取るようになったアラーノにより、中盤のセカンドボール争いで優位を取れるようになる。53分にはトランジションを制して岸本の決定機。得点には繋がらなかったが、一連の運びとバックドアの取り方は見事だった。

 直後の55分にネタラヴィ・宇佐美・松田陸の三枚替え。ボランチを鈴木徳真・ネタラヴィといった握力重視のセットに切り替えたことを機に、ガンバが自陣深くに町田の選手を引き込むビルドアップにチャレンジするようになった。活用するのは、GKを含めた3v2の数的優位によりポイントを絞れなくなった町田2トップの裏。56分からの保持シークエンスは、上述のウイング絞りと合わせてクリーンな前進の予感を漂わせるものだった。さあ試合のモメンタムを取るぞ……といった矢先の59分、仙頭が2枚目のイエローで退場。以降は、4-4-1で耐える町田、押し込むガンバ、といった構図に。もうあと10分でいいから、11対11の時間が続いて、ガンバが主体的なアクションで作った町田のバグをどう活かすか……を見てみたかった。


考察

 町田が持つ強固なモデルがどこまで通用するのかは純粋に楽しみ。考えうる対策としては①地上戦でモメンタムを取り、蹴り合いを起こさない(55分以降のガンバ)、②ハイプレスできれいにロングボールを蹴らせない(起点潰し)、③CBvsCFの質バトルで勝つ(骨格から壊す)みたいなのが思いつく。恐らくJ2よりJ1の方が②ハイプレス志向は強いだろうし、③質バトルに正面から向かい合えるチームも多かろうと思う。ガンバにはチャカチャカ軍の代表として①で昇格組をわからせてほしかったが、それはホームまでの貸しということで……。

 また、今節の町田戦後は、黒田監督と青森山田のブランドがもたらす先入観と、大きな資本のバックアップを受けてJ1に参入する、という既存クラブのルサンチマンを多分に刺激する構図の影響もあってかラフプレーがやたらと取り沙汰されていた。が、個人的にはそうしたミクロなことを気にするよりも、ここまで鳴り物入りで昇格してきたチームは記憶にないという意味でも、彼らが起こす変化を楽しんでいくべきではないかと思う。「変化なくして成長はない」。彼らに各クラブがどう対応していくかが次のリーグ全体の成長に繋がっていく……はずである。歴史に残るJ1初戦のお相手となれたよしみで、これからも生ぬるく見守らせていただきたいと思います。


ちくわ(@ckwisb

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