2019 J1第32節 ガンバ大阪vsベガルタ仙台 レビュー

 急に寒くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 先週金曜は出張で東京に居たんですがめちゃめちゃ寒くて一気に冬来たなぁ、と思いながら大阪帰ったらめちゃくちゃ暖かくてえ!?日本!?ってなりました。

 そんな小春日和の大阪で行われたJ1リーグ第32節、迎えるは前半戦スーパー悔しいロスタイム失点(しかも決勝ゴーラーは元ガンバの長沢)で敗戦を喫した、勝ち点38で並ぶベガルタ仙台。すでに残留の公算が高くなっていたガンバですが、勝てば文句なしに残留が決まる一戦。結果は2-0でガンバの勝利。内容・結果ともに、今シーズンのベストゲームと呼べるかもしれない完勝でした。

スタメン

スタメン

 前節は大分トリニータ相手に敗戦を喫したガンバですが、意外にもメンバー変更はなく前節と同じ11人を送り込んだ宮本監督。フォーメーションはここ数戦おなじみとなっている3-1-4-2の形。

 一方の仙台は4-4-2。勝利した前節清水戦と同じフォーメーションです。この形を採用している仙台はポゼッションを重視せずカウンター、前進してセットプレーもらえれば永戸の左足がドーン!という形。名古屋戦・清水戦とも、CKから得たゴールで勝ち点3をもぎ取っています。

増えてきた引き出し、望まれるリテラシー

 前述の通り、スタメンの時点から「ボールを持つガンバ、迎え撃つ仙台」というシナリオは明白でした。そのため、ボールを前に運ぶために色々準備はしてきていたっぽいガンバ。今節は仙台がオーソドックスな4-4-2を用意してきたということで、ガンバがどのように前進を試みようとしているのかが分かりやすかったと思います。

 ガンバがボールを前進させるときの目標地点、いわゆる「ビルドアップの出口」は、大別すると以下の3つに分類できます。

 ①IH(FW)への縦パス⇒サイド奥へ展開
 一番優先順位が高そうなのがこのパターン。中央を経由することで仙台の4-4ブロックがカバーしきれない大外にポジションを取るWBにボールを届け、敵陣サイド深くに起点を作ろうとするパターンです。

 ②アンカーが前を向く
 ①と比べると奪われた後のリスクも大きいのでできたらやろうかぐらいのパターン。アンカーがフリーで前を向くと裏抜け含め色々な選択肢ができてくるので仙台ディフェンスとしては撤退を選ばざるを得ず、押し込みフェーズに移行できます。

 ③ロングボール
 ロングボールを前線にぶつけるパターンです。今節に関しては藤春と小野瀬がWB、中央が宇佐美とアデ、ということで受け手が空中戦で勝てる見込みは薄く「裏にスペースがあり、高さではなく速さで勝負できるシチュエーションを作れるか」がこの前進パターンの鍵でした。

 ガンバはいかにボールを「ビルドアップの出口」に届けられるか、仙台はいかにそれを阻害してカウンターに繋げられるかがこの試合の注目ポイントにだったと思います。ここから、ガンバが志向したビルドアップの形とそれに対する仙台の対応、という形で整理していきたいと思います。

ビルドアップパターンA:3-1-4-2

 ガンバがボールを持つ際の基本形です。試合開始当初はまずこの形での前進を試みていました。

 仙台は、まずアンカーに入ったヤットを2トップのどちらかが捕まえます(②アンカーが前を向くの阻害)左右のCBは①IH(FW)への縦パスのコースを探しますがそのタイミングで仙台SHがプレスのスイッチを入れます。

 この仙台SHがアタックにいくタイミングが非常に嫌らしく、うまくボールサイドWBのパスコースを隠しつつCBに寄せていくため、供給先がなくなったCBは横パスで逆サイドへボールを送ります。

 逃げた先でも仙台は素早くスライドして同じように網にかけにいきます。そのタイミングで2トップの片割れが三浦にアプローチをかけ再びのサイドチェンジを抑えにいくので預けどころが失われ、ダイレクトパスや、WBが一対一での突破などクリーンでない前進方法を選ばざるを得ず、ボールを失うシーンが目立ちました。

仙台のプレッシング

ビルドアップパターンB:ヤット落ち4-2-4(4-1-5)

 ②アンカーが前を向くができないヤットが最終ラインに落ちる形もよく使うガンバ。この形だと最終ラインに高精度のキッカーが揃うのでそこから裏を狙っていくのですが、ベガルタは恐らくこの形も想定済み。

 アンカーを追わずにブロックを組むことで①IH(FW)への縦パスのコースを消し、③ロングボールしか選択肢がない状況に追い込み、蹴らせてセカンドボールを回収、縦に間延びしたガンバ陣のスペースを2トップが活用、という形でチャンスを作っていました。

 この形に限らずですが、「選択肢がなくなってロングボールを蹴ってしまう」シーンが散見されたのは残念でした。湘南戦でヨングォンがやったように、フリーで持てている最終ラインの選手が持ち上がって相手の陣形に変化をつけにいくなどの動きがあればうまく機能したかもしれません。

ヤット落ち

ビルドアップパターンC:GKが上がった4-3-4

 仙台が一番苦しんでいるように見えたのはこのパターン3。
 GK東口をビルドアップに参加させることでCBを横に広げ、これまで左右CBにアタックにいっていた仙台SHに、「CBを抑えるか、IHのパスコース切りか」という二択を迫ります。仙台2トップは②アンカーが前を向くの阻害のために中央からなかなか動きにくい。

 そこで生まれた仙台2トップ-SH間のギャップを狙って①IH(FW)への縦パスを打ち込むという塩梅です。

 下の図では、三浦⇒菅沼のパス交換で関口を横に広げた後に空いた長沢との間のスペースに井手口が入り込み、縦パスをフリックして小野瀬につなぐシーンをピックアップ。

東口上がり

ビルドアップパターンD:矢島が落ちた2-3-2-3

 とはいえGKをビルドアップに参加させるのはリスクも大きく、東口も足元に強みのある選手ではないため相手のラインが高く奪いに来る意識が強い時に①IH(FW)への縦パスのコースを探すのは難しい。

 そんな時にもう一つのパターンとして用意されていたのはIHの矢島が落ちる形。湘南戦でも一瞬やろうとして頓挫した形ですね。

 最終ラインに三浦とヨングォンの2枚しか残っていないため、相手2トップは前から奪いに来ます。ですがこれが罠。フリーで受けられるサイドに矢島が落ちているので、はたいて2トップの裏に送り込むことで②アンカーが前を向くが発動し前進成功、という流れ。

矢島落ち

 以上のように、ボールを前に進めるためのからくりは色々用意していたっぽい雰囲気のするガンバでしたが、いかんせん、そのからくりを発動させるのに苦労していた印象。低い位置で相手につっかけてしまうことも多く、まだまだ洗練されていない印象があります。

 相手を支配しようとするにあたって、引き出しが増えるのはポジティブ。あとは11人全員が、いまチームがどのようにボールを前進させようと試みていて、そのために自分は何をすべきなのかを理解して立ち回ることができるか。そしてコーチ陣は、その理解を助けるような仕込みができるか。そのあたりが今後の伸びしろになっていくのではないかと感じました。

遂行する定石、成長する工程

 ビルドアップではややまごついていた感のあるガンバですが、アタッキングサードにボールを前進させてからはいままでとかなり違う顔が見えました。具体的には、クロスの数が非常に多かった

 ここまでのガンバは「サイドを崩し切ろうとする」傾向がありましたが、今日はサイド奥まで進んだ場合は中の状況にこだわらず躊躇なくクロスを上げている印象がありました。データを見てもそれは明らかで、クロス本数は今シーズン平均の15.1本に対して実に3倍近い41本のクロスを浴びせています(Football Labより)。

 そして多くのクロスの目的地がファーサイド。要因は仙台が採用していたフォーメーションにあったと思います。仙台は最終ラインを4人で守ろうとするため、クロスに合わせて横幅をとるボールサイドと逆のWB、IHが前線に飛び込んでくることでフリーの選手が生まれやすくなっていました。

 今日は右サイドの小野瀬がクロッサーとなり、大外に飛び込んできた藤春、前線に上がってきた矢島がチーム最多のシュート数をカウントしていたので、この試合に向けてひとつ狙いとして作ってきた形だったと思います。

 もう一つは「高速サイドチェンジ」。ガンバの攻撃として特徴的なのが、「ボールサイドでショートパスを回して崩し切る」という形ですが、今節はその崩しにこだわらず、詰まったときは高速サイドチェンジで逆サイドで浮いているWBにボールを届けていました。そこから一対一を挑んでクロス、という形も何度も見せていたガンバ。

 サイドチェンジを蹴るのは宇佐美。抜群のキック精度とスピードが目立っていました。後半はアデミウソンもサイドチェンジのキッカーになっていたので、「詰まったら大外WBに高速サイドチェンジ」はチームとしての決め事だった可能性が高いです。

 「大外⇒大外のクロス」「高速サイドチェンジ」どちらも、「幅」を使って仙台のブロックのチェーンをばらけさせてスペースを生み、シュートポイントを作る、という4-4-2攻略の定石ともいえる形。アタッキングサードに持ち込んでからの攻撃の形に乏しいイメージがあったガンバでしたが、今回はセオリーを共通言語にしてうまく仙台の守備を攻略しようとしていたと思います。

 一方で、この定石から仙台を押し込んだシーンで得点が生まれなかったのもまた事実。要因は2点あったと考えています。1つが、そこに飛び込んできた選手のゴールセンス。もう一つが、ペナルティエリア内に送り込む人の数の少なさ。

 前者・後者とも、キャスティングの影響が大きかったと思います。大外⇒大外のクロスに合わせるのはシュートに強みがあるわけではない藤春。そして高速サイドチェンジによるリサイクルを考えた場合、ボールを蹴るのが宇佐美だったりアデだったりすると、空いた前線を埋めて逆サイドからの折り返しに合わせるのは同じくPA内で強みを見せにくい矢島や井手口になります。

 各々のできることを組み合わせた結果歪なポジションチェンジが発生し、最後の局面でのパワーが残っていないような状況だったとも言えるかもしれません。

 シーズンも終盤にさしかかってきた現在、こうした課題を「選手の成長」で解決するという手もあれば、「補強」によって解決するという手もあります。今期のサッカーを継続できるだけの選手が残る前提ですが、「得点パターンを持つWB」「宇佐美に代わって早いサイドチェンジを蹴れるIH」「クロスに中で合わせて点が取れるIH」などなど、歪さを解消する補強が考えられます。

 ただ、あちらを立てればこちらが立たず、みたいな状況になるのも容易に想像できます。例えばWBのポジションで、藤春以上の守備貢献ができる選手というのはなかなかいないと思います。どういうソリューションを持ってくるつもりなのか、楽しみでもあり不安でもありますね。

すり減らす強み、質で勝つのみ

 ガンバが持ち、仙台が受けるという形になると、必然仙台が狙うのはカウンターとなります。2トップに長沢・ハモンロペスとどちらも質が高く、高さ・速さと強みがある選手がいたので、彼らで攻撃をやりきる形もあれば、やりきれなさそうな場合は2トップに当てたセカンドボールを拾って保持のフェーズに移行するなど、準備されている感がありました。

 またボール保持のフェーズに移行すると仙台はSHが絞って外に開けたレーンにSBが上がってくるという形の変化を行ってきます。ガンバはWBが突撃したりIHのスライドで対応していましたが、サイドを変えられるとスライドが間に合わないこともあり、蜂須賀⇒長沢のヘッドからの決定機などにつなげられていました。

 そうした仙台の狙いに対して、この日のガンバは、守備についてもいい面が多かったです。具体的には、CBのカウンター対応と2トップ・IHのプレッシングの効率性です。

 仙台の2トップの優位性を活かしたロングカウンターについては、三浦・ヨングォン・菅沼の3人がよく対応していました。3人ともデュエルで劣勢になることがなく、仙台としては起点を見つけづらい状況だったと思います。CBとのデュエルで勝てないのでスペースがあるWBの裏を経由して、という形もありましたが相手の攻撃の形を限定できていれば対処も難しくなかったのではないでしょうか。今期45失点とまずまずのペースで失点しているガンバですが、ロングカウンターからの失点はほぼない印象です。それだけCBが強いってことなのかな~と考えています。

 また仙台ボール保持の際も、2トップとIHがうまくブロックを組み、仙台の攻撃をサイドに限定していました。特に2トップのプレッシングが良くなってきていると感じます。先述した通り、サイド変更を許すとフリーで受けたSBからのアーリークロスなど相手の強みを出されやすい状況に陥りますが、2トップのプレッシングが機能していれば強みを出される機会が減ります。

 前項で書いたクロス爆撃をやるなら起用するのはパトリックなのでは、と思う向きもあるかと思いますが、パトリックを起用するとどうしてもこのプレッシングがうまく機能しなくなるので、モメンタムを保ったままゲームを進めるという意味では今日の2トップが正解だったと思います。

 あとは、やはり井手口ですね。コメント要るのかな。笑

崩れる均衡、剥き出す本性

 「質で負けない」×「機会を減らす」×「困ったときの井手口」で、仙台の攻撃を機能させなかったガンバ。常にモメンタムはガンバが持っていたので、変化を加えるとすれば仙台のほうでした。

 仙台は長沢に代えて阿部拓馬を投入。高さを活かして起点になったり守備も懸命に頑張ろうとしてくれるんですが肝心の攻撃でエンジンきれちゃう感があるのはガンバサポなら非常によく知る長沢あるある。このへんのカウンターのパワーを復活させようとする意図があったのかもしれません。

 その阿部拓馬がヤットへの素早いプレスバックを行ったことから仙台のカウンターが発動。ただここでのCBの対応がほんとにすばらしかった。時間を稼ぎ、やりなおさざるを得ない状況に追い込んで蹴らせたバックパスにミスが出てボールをかっさらう宇佐美。プレーを切ろうとするCBを交わして独走、クロスカウンターでゴール。

 やっぱシュートうまい宇佐美。。スウォビクのコース消しに行く対応もさすがだと思うけど、ニア上にあのスピードで撃ち込まれたらどうすることもできない。あれを刺せるのが宇佐美……。

 先制してからは人に付く意識が強くなった仙台の逆を突いての2点めは、GKからつないで作ったいわゆる疑似カウンターの形。ダイアゴナルなパスを繰り返して仙台のプレスを空転させ、まるでパズルを解くかのように現れた広大なスペースを蹂躙するアデミウソンと宇佐美。見てて思わず「完璧やん……」と唸ってしまうような素晴らしい崩しでした。

 その後は宇佐美に代えてパトリック投入。カウンターからどかどかチャンスを作れていたので、相手が前がかりになったときには強みのある選手だということを改めて認識しました。最後に出てきたスサエタにも点を取ってほしかったですが、あえなくスウォビクのナイスセーブに遭い、そのまま2-0で試合は終了。

まとめ:高まる完成度と終わりゆくシーズン

 仙台としては、残留を確定させるために盤面を崩さず0-0で守り切るという選択肢もあったかと思いますが、勝つために選んだであろう変更でガンバの本来の強みであるカウンターを発動させてしまったというのはよくある話ではありますが、残念なところでした。

 一方で、カウンターという強みを隠しつつゲームプランを遂行できたガンバも素晴らしかったと思います。どの局面においても強さを発揮していたのが今日のガンバ。宮本監督が理想とする形にかなり近づいていたゲームだったと言えるのではないでしょうか。

 惜しむらくは、ようやく完成度が高まってきたこの状況でシーズンが終わってしまうこと。こういうサッカーができる状態で上位チームとぶつかってみたかった。

 残留を確定させ、残すはあと2戦。2連勝で少しでも上の順位に立ちたいですね。ホーム最終戦は自分もスタジアムで応援します!

その他、気になったあれこれ

・倉田復帰&誕生日おめでとう!同い年の選手として勝手にシンパシー感じてました。何事もなさそうでうれしいです!!

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