【コンディション差を乗り切るために】2021 J1第18節 サガン鳥栖vsガンバ大阪 レビュー

 ようやく勝った試合のレビューが書けます!

 こんにちはちくわ(@ckwisb)です。4月からようやくリーグ戦を再開できたガンバですが、広島・福岡・柏 と続く連戦は2分1敗と勝ちがない立ち上がりとなってしまいました。迎えた4戦目の対戦相手は鳥栖。リーグの台風の目ともなっている好調なチーム相手にガンバはどのような戦いを挑んだのか。

画像2

コンディション差をどう埋めるか?

 再開後のガンバを貫く課題は「相手とのコンディション差をどう埋めるか」。一度体を動かせない時期を挟んでしまったので、リーグ戦をこなしエンジンのかかってきた対戦相手と比べるとどうしてもゲーム体力に差があります。

 前節柏戦はその差が顕著に出たゲームでした。ロングカウンターで何度も長距離のスプリントを強いられた結果最終盤で運動量が上がらず、失点後は同点に追いつきたいのに逆に柏のボール回しに対応できないまま試合をクローズされてしまいました。

 さて、今節の鳥栖もコンスタントに130kmを上回る走行距離・200回以上のスプリントを記録と、走力に強みを持つチーム。普通に挑めば柏戦と同じように終盤に差が出てきてしまうのは明白です。

 広島戦では、コンディション差を埋めるために「狭く守る」というやり方を示したガンバですが、今節のチャレンジは「ボールを持つ」こと。ボールを持つ時間を長くし、自分たち主体で走る時間を増やすことで相手とのコンディション差を埋めよう、ということです。


ボールを持つ3つのメカニズム

 「ボールを持つ」メカニズムとして一つ目に挙げられるのは東口のビルドアップへの関与。2021シーズンに入ってから東口のビルドアップへの貢献は目覚ましく、

 2020シーズンの平均パス成功数:19.8(成功率60%)
 2021シーズンの平均パス成功数:30.6(成功率74%)
 (sofascoreより)

 と、顕著にパス成功数が増加、またパス成功率も上がっているのが分かります。試合を見ていても、シンプルにCBに渡すパスだけでなく、2トップを広げてアンカーに通す、プレッシングに来たFWの頭上を越えて張ったサイドバックに通すなど、パスのバリエーションは明らかに増えています。

 当然、東口だけではなく、ディフェンスラインも含めたチーム全体の貢献があっての改善ですが、こうした東口からのビルドアップをチームの戦術に組み込むことで、鳥栖のプレッシングをいなしながらボールを持つ時間を長くすることができます。

 もう一つのボールを持つメカニズムは「即時のボール奪回」。鳥栖のDFラインに素早くプレッシャーをかけ、ミスを誘ったりボールを捨てさせたりすることで、できるだけ相手の攻撃の時間を短くしようとしていました。

 ただ、鳥栖にとって相手が前から来ることは織り込み済み。ロングボールの供給に無類の強みを持つパクイルギュを中心に、2トップを裏に走らせて一発を狙うカードも持っているため、前からボールを奪いに行くのには相応のリスクがあります。

 ただ、そこを勘定に入れたうえで前からいく、という判断ができたのはガンバのセンターバックコンビ・三浦と昌子への信頼があるからでしょう。このコンビのラインコントロールと安定した対人強度で裏抜けから鳥栖にチャンスを作られることはほぼありませんでした。

 最後のメカニズムは「ロングボール」。ロングボールといえばボールを手放す行為に近いのでなんだか矛盾しているように思えますが、今節のガンバのロングボールの多くは「滞空時間が長く、サイドに落ちる」ボールでした。

 ①滞空時間が長い:陣形の回復に充てる時間が増える
 ②サイドに落ちるボール:相手の攻撃開始位置を限定できる

 ということで、前述した「即時のボール奪回」のためのプレッシングの発動条件が整いやすくなります。

 鳥栖の選手が蹴るロングボールと比較すると分かりやすいかもしれません。ディフェンダーを背走させ「裏」を活用しようとするのが鳥栖のロングボールなので、鳥栖の選手は競り合う選手を「追い越す」動きを頻繁に見せるのに対して、ガンバの場合は「構える」ことにプライオリティを置いていたように見えました。


リスクヘッジしつつ攻撃を成立させるには?

 上記のメカニズムでボールを保持することはできましたが、あくまでローリスクで時間を進められたというだけで効果的な攻撃に繋がっていたとは言えませんでした。ここから更に効果的な攻撃に繋げるためには、ビルドアップの出口にボールを前進させた後の「崩し」のフェーズで効果的なプレーができなければいけません。

(状況をざっくり図示)

画像1

 気になるのはサイドの突破力です。再開後の、というか言ってしまえばここ数年のガンバはここに光るものを用意できていません。今節左サイドハーフで起用された福田にはこの突破力が期待されていたと思いますが、ドリブルにチャレンジする機会はほぼありませんでした。

 サイドアタッカーが個人で解決できない、となるとサイドに人をかけるか、中央を経由して前進するかですが、どちらもカウンターのリスクが高まります。この試合ではサイドにあまり人をかけず、宇佐美や小野瀬がプレスに来た相手インサイドハーフの裏で縦パスを受ける「中央を経由する」形が多く見られましたが、そこで潰されてしまうと相手は広いスペースを使って前進することができます。柏戦ではこの形で何度もカウンターを発動されていました。

 もちろんリスクを受け入れるべき局面もありますが、現状ピッチ上に見えるコンセプトに沿うのであればもう少しリスクの少ない局面の解決方法≒サイドアタックの破壊力が欲しいな、と監督は感じているはず。ここはコンディションの回復と合わせて、新戦力や怪我人の復帰などで底上げを図っていくつもりの部分だと思います。

しばらくはこれが勝ちパターン?

 後半、持たれる展開をよしとしないのか、前半よりも前から行く気配が強くなった鳥栖。ガンバは繋ぐよりはセーフティなプレーが目立つようになりました。三浦は目の前に余裕がある状況でもロングボールを蹴る機会がいくつか。もう少し余裕を持って展開できれば良かったですが、後半開始から奥野が何度かミスタッチで相手にボールを渡してしまっていたため、そのあたりのリスクを考慮したのかもしれません。

 そうすると俄然勢いづくのが鳥栖。CBの一人が崩しに関与し、サイドでトライアングル・ひし形を作りながら局面の突破を図ります。ガンバはパトリックが精力的なプレスバックを行って数的不利を埋めにかかりますが、そうした状況だとセカンドボールも拾われやすく試合は鳥栖のペースに。

 押し込まれれば相手の背中にスペースができるのでカウンターも発動しやすくなるのですが、相手GKパクイルギュのカバー範囲が広いこともあり、精度の高いパスが要求されるカウンターの局面でなかなかかみ合わず攻撃をやり切れないガンバ。ただ、鳥栖の攻撃も淡泊なクロスが多かったため、ガンバとしてはしのげる展開にはなっていたと思います。

 そんな中でガンバにようやくの今シーズン初得点が入ります。競り合いのセカンドボールを拾った奥野から福田へ。福田が対面の選手を抜き切らずにピッチを横断するクロスをファーサイドに走り込んだ宇佐美に届けます。宇佐美のファーストタッチの置き所が見事で、さすがのパクイルギュもコースを塞ぎきれませんでした。

 ガンバは先制点を取った宇佐美と福田を下げて倉田と川崎を投入。2トップの一角に倉田を配置しました。後半は宇佐美を最前線に残し、パトリックがプレスバックに入る形になっていましたが、この交代から2トップの両方がしっかり守備に戻るようになります。

 二度追い・三度追いが精力的にでき、キープ力も高い倉田がトップの位置に入ることで、ガンバは高い位置で鳥栖の攻撃を押しとどめることに成功します。決定機を作られることなくそのまま1-0で試合終了。ガンバが5戦目にしてようやくシーズン初勝利を掴みました。

 コンディション差が露わになりにくい戦術で静かに試合を展開しながら、宇佐美の素晴らしいクオリティで何とか僅差の試合をモノにすることができました。最後にガッツリ守る形にチームを落ち着けたのも含めて、チームのコンディションが揃ってくるまではこのような試合展開が勝ちパターンになっていくのかもしれません。

 ただ、前述のとおりまだまだ改善の余地はあります。ここからどうゴール機会を増やしていくか。次節は未だ産みの苦しみの中にいそうな清水。ここを足掛かりに上位進出への機会を探っていきたいですね。



 最後に鳥栖についてもちょっと。流石のロジカルさを見せてくれた鳥栖ですが、ガンバにしっかり守り切られてしまったということで先制された試合をどう乗り越えていくのかが課題になっていそうな感じ。

 気になるのは交代選手のクオリティ。選手交代からどんどんインパクトが薄れてガンバとしては守りやすくなってしまっていた気がします。ミョンヒ監督の教え子でもある下部組織の選手たちを中心としたファーストセットが違いを見せている鳥栖ですが、移籍加入選手や新外国人を活用してどのように試合を「味変」させていくのかが、監督の腕の見せ所になってくるのかもしれません。



ちくわ(@ckwisb

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?