2024 J1 第6節 ガンバ大阪 × 京都サンガ レビュー

レビュー

 前節広島戦レビューのまとめで「地上戦でもう少しできることがあったのではないか」と振り返った。今節はスタメンにネタラヴィと鈴木徳真の「保持寄り」の2枚を配置したことで、地上戦のウエイトを高めていくのか……と予想したが、結果的にそうはならなかった。GKからのショートパスによる繋ぎはほぼなく、アラーノ・ウェルトンへのロングボールの形が目立つ。プレッシングをかわす、京都の二枚看板である豊川雄太と原大智のプレー関与を減らす、優位性が取れそうなウイング周辺でプレーする、など色々理由は考えられるが、いずれせよ、ショートパスを選べるはずの一森がそれを選ばなかったということは、それは「そうせざるを得なかった」のではなく「そうすると決めていた」と考えたほうが自然だ。

 ガンバがセーフティなプレーを選びがちだったのに対して、京都はボール保持にも意欲的だった。目立ったのはこの日アンカーに入った武田。CBの間に入ったり、CB-SB間に入ったり、2トップにマークされながら空いたCBに持ち上がりを促したり……など、位置・役割を変えながらのプレーが目立った。彼の立ち回りによって、これまでの試合で効いていた宇佐美と山田のファーストプレスがなかなかはまらない。

 そうなると、インサイドハーフが中央でボールを受ける余裕が生まれる。フリーにするわけにはいかないのでガンバは中盤からプレッシャーを掛けに行くことになるが、京都はそうしたガンバの「前向きのベクトル」を利用して、レイオフで落とす→つるべの動きでサイドの背中を取りに行く(特に、内側レーンに入った左SBの佐藤からの展開が目立った)という流れで繋ぐプレーをスムーズに行えていた。

 中盤が苦しくなれば、原が中盤でボールをはたく役割に加わることもあった。局面の数的優位を作られ、なかなかボールの奪いどころが定められないガンバ。一方で、京都はビルドアップにかける人数が多くなっていたため、本来カロリーをかけたいであろうPAに送り込める人数の数は少ない。エリア内のキーマンであろう原もサイドに流れているシーンが多かった。崩しの局面にはガンバのDFが間に合ってしまうため、ダイレクトで繋ぐ、ピンポイントのクロスなど難易度の高いプレーを要求されることになり、敵陣プレーの数と比較すると質の高いチャンスは少なかった印象。

 一方、難易度の高いプレーといえば、それを次々に成功させていたのが今節の宇佐美だ。山田のヘッドに繋がるピンポイントクロスや後半のウェルトンへの絶妙スルーパスなど、試合全般にわたって凄まじい精度のキックを繰り返していた。



 連戦もまだ序盤だが怪我人が続くガンバ。前半にはアラーノがハムストリングを痛めて交代し、山田も前半で違和感を訴え交代。代わって入った坂本がトップ下に入る。

 後半から試合はガンバのペースになっていく。大きな役割を果たしていたのは前節に引き続き途中交代で出場機会を得た坂本。アンカーの武田に苦しめられた前半からの修正として、坂本は宇佐美と分担しながら武田を管理する動きが目立った。アンカーを塞ぐ⇒選択肢を消されたCBへのプレス という時系列で京都を追い込む。前半はプレッシングのベクトルの逆を突かれてスペースを使われてしまっていたが、この変更によって後手を踏む守備が減り前向きに奪い切る形が増えた。結果、ガンバが高い位置でカウンターに繋げられるシーンが増えていった。

 そのまま一気にガンバのペース……といきたいところだったが、なかなか相手を押し込み続けるような形にならなかったのはボール保持の部分に課題があったからだろう。特に右サイドではいい連携が作れていなかった。全体でボールを前に進められなければ行ったり来たりの展開になってしまう。63分にはウェルトンと食野が左右を入れ替えたが、配置の調整で解決を図ろうとしている部分もあったのではないだろうか。

 一方の京都も、キーマンである豊川・原の疲労もあってか、後半はなかなか前線に起点を作れなくなっていた。ロングスローやコーナーキックなど、セットプレーに活路を見出しあわやというシーンも作るが、ガンバの守備陣の強固なブロックがゴールを許さない。83分の福岡とジェバリの投入以降はほぼガンバのペースとなるが、京都も耐えきり、ゴールはこじ開けられず0-0のスコアレスドローで試合が終了する。


まとめ・考察

 5戦負けなしで期待値を上げているメディアやサポーターと対照的に、京都をリスペクトした冷静な一森の試合後インタビューが印象的だった。彼のコメントから、少しずつ今年のガンバがどういうチームなのかが見えてきた気がする。

 2023シーズンの序盤戦を思い出してみると、まず目指すべき「型」——ビジネス用語でいうならto be——があり、そこに自分たちを合わせていくというプロセスでチームビルディングが進んでいた。ただ、この型(to be)と現状(as is)のギャップがミスという形で表出し、結果が出なかったことで負のスパイラルに追い込まれてしまった。ポヤトス監督が「同じ轍は踏むまい」という思いを抱えていることは想像に難くない。

 今期のガンバの生命線は、トランジションの強度とエリア内での踏ん張りだと考える。広島戦・京都戦それぞれの修正、交代策を踏まえても、特にトランジションで強度が出せる盤面調整についてポヤトス監督のこだわりは強い。エリア内での踏ん張りについても、保持のリスクを取りすぎないことが、ボックス内の最後の一歩に割ける選手たちのメモリーを間接的に増やしている効果はありそうだ。

 上記の仮説が確からしいとすれば、次の札幌戦も無理には繋がない展開になるだろう(ビハインドでなければ)。上位相手に健闘し下位相手に無理をしない。ポヤトス監督が「引き分けメーカー」と取沙汰されることの実体が見えてくるようだ。ただ、彼がこれまで率いてきたチームとガンバに違うことがあるとすれば、相対的なチーム規模の大きさから選手の質で勝つ余地があること。宇佐美のキーパスやウェルトンの突破など、局面の質でゴールを打ち破る寸前まで進んだのが今節の京都戦。これを取り切れるかどうかに、今後のガンバの浮沈がかかっているだろう。



ちくわ(@ckwisb

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