2024 J1 第20節 鹿島アントラーズ × ガンバ大阪 レビュー
後半戦一発目は上位対決3連戦の2戦目となるアウェーでの鹿島戦。鹿島は前節とスタメン変更なし、ガンバは負傷交代の山田康太に代わって坂本一彩、ダワンに代わってネタラヴィがスタメンに名を連ねた。
レビュー
まずは鹿島の保持から確認していく。ガンバの守備は、前節神戸戦と比較しても前からプレッシャーを掛けにいく頻度が高かった。鹿島が繋いでくるとスカウティングしたのか、ロングボールを蹴られてもある程度回収できると見立てていたのかは不明だが、結果的にはこのプレッシングが空回りすることで、前半は鹿島のペースになる。
ガンバの前線がセンターバックまでプレスに出ていく際、ボランチの鈴木徳真とネタラヴィはボールを受けに低い位置に降りていく鹿島の両ボランチ(佐野・知念)のマークに出ていく。この動きに連動してディフェンスラインを押し上げられれば良かったのだが、戻しのパスで早川がオープンにボールを持てるのでガンバのディフェンスラインが上がりきらない。結果、前に出たい前線・中盤とディフェンスの間にスペースができてしまう。ここでポイントになったのは鹿島の象徴的存在である鈴木優磨のポジショニングだろう。左サイドに流れて知念に付くネタラヴィの背中に出来たスペースに顔を出してボールを受けるシーンが多かった。前半はこの鈴木悠磨の動きにガンバが対応できず、ここで受けて前を向かれる→師岡、さらにその奥の濃野、といった対角の選手にロングボールを展開され、そこからフィニッシュ、あるいはクロスへと繋がれてしまうシーンが多かった。
濃野は前半から積極的に前に出てきていたので、ガンバとしてはトランジションでその裏を走るウェルトンを使いたかったところなのだが、奪ってから一本目のパスの精度が低くなかなかつながらない。
とはいえ、鹿島は大きな展開を志向していたのでプレーが切れるタイミングも多く、ガンバがボールを保持する時間は長かった。ただ、その保持でもガンバはあまり有効な形を作れていたとは言えなかった。
ガンバは①張ったウイングか、②降りてくる前線かの二択を取りながら前進していく普段通りのビルドアップを志向していた。対して、鹿島はセンターバックへのプレスに出ず、ガンバにボールを持たせる選択をする。センターバックまでプレスに来るチームであれば、一森に戻して相手のブロックを広げその間のスペースを使う手もあったが、鹿島が狭く守ることを決めたことで、ガンバのビルドアップ隊はブロックをこじ開ける必要があった。
①張ったウイングへのパス、という観点でいえば、ガンバのセンターバックはあまり左右に広がらない傾向にあり(恐らくトランジションを考慮してのことだろう)、鹿島のブロックを左右に振り回すことができていなかった。そうなるとウイングへのパスも通りにくい。福岡→山下のラインは何度か開通する瞬間はあったが、対面の安西を突破することができず、また横パスの精度を欠いてプレーが繋がらないシーンが多かった。中谷→ウェルトンのラインはそもそも開通しなかった。
②の降りてくる前線を使うパターンも、この日久しぶりのスタメンだったネタラヴィ・鈴木徳真・ときおりボランチの位置に入る半田、それぞれの動きがなかなかかみ合わず、使うレーンが被ったり、お互いのポジションが近くなりすぎる盤面が頻発していた。加えてそこに宇佐美・坂本も降りてくるので中央は渋滞。狭いスペースでスムーズにボールを動かせず、鹿島のタックルを受けるシーンが何度もみられた。
狙い通りの前進を許し、カウンターでも裏返され、何度も鹿島に攻め込まれるが耐えるガンバ。特に中谷のカバーリングは今節も冴えわたっており、ガンバのビルドアップミスが招いた1点もののピンチを抜群のゴールラインカバーで救ってみせた。
後半途中からネタラヴィが左インサイドハーフのような位置を取るなど試行錯誤がみられたが、周りの連動がなくなかなか機能せず。前半はほとんど鹿島のペースで推移していた。
鹿島のペースだった前半を踏まえて、後半のガンバは攻守に修正を加えていた。まずは守備の部分。後半も前半と同様にセンターバックまでプレッシャーを掛けていく方針は変えていなかったが、そこから後ろの守り方を少し変えているようだった。まずはボランチの守備位置。鈴木優磨に使われていたネタラヴィの裏のスペースについては、そもそもネタラヴィが前に出ないことで対策。知念は捕まりにくくなるが、山下が少し内側に立って守ることで、安西と知念を前線と分担しながら観る形に変えていたようだ。それでもプレスを掛けに行く際はネタラヴィが前に出ていかなければならないシーンはあったが、その場合はディフェンスラインも連動して上がり、中谷が最終ラインから飛び出して鈴木優磨を潰しに出ていくことで、鹿島の前半の保持パターンを機能させないことに成功していた。
加えて、ボール保持の部分でも修正があった。恐らく、中盤にバランスよく立つ意識が改めて落とし込まれたのだろう。鈴木徳真・ネタラヴィの使うポジションが右寄りに変化していた。左のハーフスペースは宇佐美や坂本といった前から降りてくる選手に使わせる前提に空けてあるシーンが多く、いわゆる「レーン被り」が発生しにくくなっていた。
また、ボランチが右に重心を移したことで、半田がボランチの位置に入る可変も少なくなっていた。それぞれのアドリブを噛み合わせる必要がなくなりバランス良く人が配置できるようになったことで、パス回しだけでなくトランジションの局面でも安定した対応ができるようになったガンバ。少しずつ試合のペースを握れるようになっていく。
また、60分を過ぎたころから鹿島の選手たちの運動量にも陰りがみられるようになっていた。特に鈴木優磨については前半は広範囲に動いてフリーでボールを受けられていたが、後半はボールが来た時点でガンバの選手のチェックを受けていることが多く、起点の役割が果たせなくなっていく。
60分に鹿島は師岡をチャヴリッチに交代。ここから更に試合のペースはガンバに傾く。右サイドのチャヴリッチは守備に問題がありそうな雰囲気だった。具体的には、マーカーの黒川がボールを持った時に縦を切るのか横を切るのかをはっきりしないまま寄せていくシーンが多く、ガンバの攻撃方向を限定できていなかった。結果、黒川→ウェルトンのパスルートが開通し、ガンバがウェルトンにオープンな形でボールを持たせ、鹿島のブロック全体を押し下げられるようになっていく。
鹿島のボール奪取位置は低くなり、繋いで押し上げることができずクリア一辺倒に。前述の通り、ターゲットの鈴木優磨はガス欠気味でセカンドボールの回収もガンバが優勢。71分に交代で坂本→アラーノ、ネタラヴィ→ダワンを投入。アラーノをトップ下に入れたのは、押し込めるようになって中央で決定機を作ろう、という想定だったかもしれない。
76分に鹿島は仲間に替えて藤井、名古に替えて柴崎。それぞれ、左サイド・トップ下と同じポジションに入る。圧倒的なスピードを持つ藤井の個の突破を起点に、モメンタムを取り戻し始める鹿島。
82分、藤井を倒してカードをもらってしまった山下に替えてジェバリ。アラーノが右に入り、ジェバリが中央に。宇佐美はトップ下……というより、体力に限界が来たか、ほぼエリアの外でつなぎ役としての役割を担うシーンが多かった。エリア内でのパンチ力は薄まってしまったが、中盤は厚くなり最終盤はほぼガンバの保持で時間が進んでいく。
アディショナルタイムにウェルトンに替えて中野。そのまま0-0で試合終了。後半は時間が経つにつれボールを保持して押し込めてはいたが、フィニッシュまで踏み込むパワーは足りなかった。
まとめ
前半は厳しい時間が続いたが、ハーフタイムの修正で五分以上に持ってこれたのは良かった。前半戦では「奥」が中心だった鹿島だったが、今節は「手前」を中心にゲームを組み立ててきていた。なので、前半の不調はスカウティングを外された影響もあったのかもしれない。
鹿島というリーグトップクラスの相手を前にしてチームで同じ絵を描いて試合のモメンタムを引き戻せたのは、敵地での勝ち点1とともに自信に繋がったのではないだろうか。理想を言えばこちらのやり方を相手に押し付けて、相手にリアクションを強いる展開が望ましいが、連戦の中でそういうチームにいきなり変わることも難しそうだ。続く町田戦でも似たような試合展開はありうる。こうしたチームのズレが発生してもできるだけ素早くアジャストして、次は勝ち点3に繋げてほしい。
ちくわ(@ckwisb)