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“仕掛学” × “社会教育”―人を動かすアイデア―

 こんにちは。渡邉です。

 さて、今回は、“人を動かすにはどうしたらいいのか”ということについて、考えるきっかけとなった出来事と、参考になりそうな本をご紹介したいと思います。

 noteを始めたきっかけについては、前回の記事をご覧ください。

 このnoteは、“社会教育行政”という分野で働く公務員の私が、勤務時間外のプライベートな時間約128時間/週を使って、いろいろな角度から町を盛り上げたいと思い、普段の業務を通じて考えていることやアイデアなどを書きためるものです。あくまでも一個人の考え方であり、私が所属する組織の総意ではありません。

人を“やる気”にさせることはかなり難しい

 私は、普段仕事をしている中で、「人のやる気を起こさせるのって、すごく難しいなぁ」と感じることが多々あります。

 書店に行けば、コーチング系の本はごまんと売られています。常にいろいろな情報にアンテナを高くしたいと思いつつも、この手の本は“読まず嫌い”になってしまい、どうも手が出ません(オススメの本があればぜひ教えてください)。

 しかし、かれこれ半年前、面白いアプローチと出会いました。

きっかけは、“知らぬ間に本が置かれる”ことでした。

 どんなアプローチかについてお話しする前に、最初に「少しだけ町民の意識を変えたい」と思った事例をお話しします。
 それは、私の部署が管轄する図書室の蔵書で、除籍したものを町民の皆さんに無償で提供する、通称“古本市”スペースを設けたときのことです。

 「どうぞ持って行ってください」と除籍本を置いたところ、逆に、一部の町民(もしかしたら、そういう場所があると知った近隣住民?)の方たちが、自分の読まなくなった本を持ち込んで、置いて行ってしまい、知らぬ間にたくさんのボロボロの本でスペースが溢れかえってしまったのです。

 もちろん、古本市のスペースについての説明や不要な本の持ち込みはご遠慮いただきたい旨は表示してありました。

 しかし、こちらの意図とは異なる使われ方をしてしまった。

 少し話は逸れますが、コンサルティングの分野で、“ギャップ分析”というものがあります。「“課題”とは“あるべき姿・理想”とのギャップであり、そのギャップの要因が“問題”である」という捉え方です。

 この出来事は、全国の多くの自治体で課題になっているであろう、ゴミの出し方マナーにも通じることでしょうから、解決策の参考も多くあると思います。
 また、見方を変えれば、持ち込んだ町民・近隣住民からすれば、「処分に困っていた本を引き取ってもらえて良かった」ということで、ある意味、住民ニーズに応えられているのかもしれません。

 ただ、私は「この状況はあるべき姿なんだろうか?」と思ったのです。

 こうした“ギャップ”は、この古本市スペースの一件以外にも、些細なものから大きなものまで、日常の至る所にあります。しかし、具体的な解決策が浮かばないものも多くあり、社会教育に携わる私としては、住民の意識を変えることで、こうしたギャップを解決する方法はないものかと考えるようになりました。

ちょっとした“仕掛け”がやる気につながる?

 そんな中、偶然出会ったのが、大阪大学大学院経済学研究科の松村真宏教授の著書『仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方』でした。

「(中略)「したほうが良い」と直接伝えても効果がないことは明らかなので、「ついしたくなる」ように間接的に伝えて結果的に問題を解決することを狙うのが仕掛けによるアプローチになる。」(『仕掛学―人を動かすアイデアのつくり方』p16)

 これを読んだとき、「これって社会教育にも応用できるのでは?」と思いました。

 この本では、ゴミを入れることで落下音がするゴミ箱(こちらから動画が見られます)を設置したことで、ポイ捨てが減ったことや、通勤ラッシュ時のエスカレーターの混雑を解消するために、階段に消費カロリーを表示することで、階段を使う通勤客が増えた、といったものが紹介されています。

 詳しくは、ぜひこの本をご覧いただければと思うのですが、要点をかいつまんでご紹介すると、

 ・仕掛けによって誰も不利益を被らないことが重要(公平性)。
 ・仕掛けは行動を誘うものであって、強要するものではなく(誘引性)、
  行動の選択肢を増やすものであること。
 ・解決したい問題と行動したくなる理由は異なる(二重性)。

 といったことが書かれています。この他にも、仕掛けの仕組みや具体的にどう発想するかということが、一般読者にもわかりやすく書かれています。

“仕掛学”を社会教育行政に

 この本では、“マズローのハンマーの法則”について言及されています。ちなみに、この“マズロー”は、“マズローの欲求5段階説”で有名なアメリカの心理学者アブラハム・マズローです。
 彼は次のようなことを述べているそうです。

 "If all you have is a hammer, Everything looks like a nail"(ハンマーしか持っていなければすべてが釘のように見える)

 つまり、特定の手段(ハンマー)や、固定観念(釘を打つにはハンマー)しか持っていない人は、それに固執して、問題の本質を捉えられない、というものです。

 先ほどご紹介した古本市スペースの例で言えば、「本を持ち込まないで!」と貼り紙をするのは簡単です。ですが、何枚貼り紙を貼ろうと、残念ながら置いていく人は置いていってしまいますし、何より、これは“本が持ち込まれ、置いていかれてしまう”という“目先の事象”に対処しただけであって、本質的な解決にはなりません。まさに“ハンマー”です。

 この法則は、行政が行う課題解決の方法全般に当てはまるように思えます。

 仕掛けのアイデアを捻り出すのに頭を悩ませずとも、お金や人員を投入することで解決できる課題もあるでしょう。

 しかし、お金や人員などのリソースが限られている当町においては、そうした手段に頼ってばかりもいられない。

 先述の繰り返しになりますが、その場しのぎの対症療法ではなく、その現象の根本にあるもの(本質)を解決する必要がある

 そんなことを考えていた矢先にこの本に出会ったのは、非常に大きかった。この本を読んでからというもの、「この仕掛学というフレームワークを社会教育に生かすことができたら、面白いのでは?」と思うようになりました。

 こうした、アイデアで住民の意識を変え、地域課題を解決していくという方法は、社会教育と親和性が高いように思いますし、何より、私としてはこうしたやり方のほうが、ワクワクする

 「この仕掛学というフレームワークを社会教育にどう具体的に生かしていけるだろうか?」


…と、いうことを9月23日の昼間に書いていたところ、その晩、まるで示し合わせたかのように、NHKでこんな番組が放映されました。

 「まさに仕掛学じゃん!タイミング良すぎ!」と思わず、夕飯の洗い物そっちのけで見てしまいました。

 この番組の何がいいって、「自転車事故を減らすには」というテーマで、どうやったら自転車を一時停止させられるか(地域課題)を、参加者が持ち寄った“仕掛学的アイデア”で解決しようとしているだけでなく、一般の参加者、専門家に加えて、自治体職員が出ていること。しかも、今後の施策として進めるような話まで出てました(実際、それが実現するかどうかは定かではありませんが)。

 これこそまさに、“オープンイノベーション”の好例だと思います。

 ぜひ、ご興味ある方は、オンデマンド配信を視聴されてみてはいかがでしょうか。
 
 次回の放送を楽しみにしつつ、番組タイトル下のキャッチコピーが良かったので、それを拝借して、
「“社会教育”を使って 世の中1ミリ変えてみる」というのをこれから推していきたいと思います。


それでは、また次の記事で。


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 ▲前回の記事でご紹介した、私のバイブル、山田崇さんの『日本一おかしな公務員』は付箋と書き込みでいっぱいになっている。

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