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天下御免の向こう見ず『不夜城』『大島だよ!』【6月号 爆笑問題 連載】


<文/太田光>

不夜城

 その部屋の窓からは大東京の夜景が広く見渡せた。ばらまかれたような光の粒が宝石のように美しい。
 女性は一日の激務の終わりにこうして窓際に立ち、世界有数の大都市を見下ろす時間が好きだった。昼間は嫌でも目に付く汚れがこうして夜になれば見えなくなる。
 39、35、29、31、55……。
 この街の感染者だけが何故か横ばいで推移して、なかなか減らない。まるで自分をあざ笑っているように感じる。
 女性は苛立ちを感じ、一箇所だけぼんやりと滲んで浮かび上がるように光っている空を睨む。下にあるのは不夜城と呼ばれる最大の歓楽街だ。
……目障りなウィルス……何をしているの?
……何故消えないの?……
「ケケケ……何を消そうとしてるんだニャ?」
 どこからかヘンテコリンな声が聞こえた。
 女性は部屋を見る。誰もいない。いつも通りの執務室だ。空耳だろうか? ここの所働きづめで疲れている。かと思えば幻聴がするなど、自分らしくもない。この程度のことは何度も乗り越えてきた。マスコミのバッシングなど馴れているではないか。こんな状況、ピンチと呼ぶのもバカバカしい。
「ふっ」女性は自嘲気味に苦笑いし、少しして真顔に戻る。
 大坂、名古屋、福岡、札幌……。他の大都市は感染を抑え込んでる……ように見える。
 自然とマスコミの指摘はそれぞれの首長の手腕に向けられる。
『ウィズ・コロナ』
 女性が最後に発した新語だ。以降良い言葉が思いついてない。そんな自分にも苛立ちを覚えた。窓際を離れ、知事の椅子に座り、机の上に置いてある花柄のマスクをつかみ、ゆっくりと力を入れ握りつぶす。
……何故消えないの?……
「ケケケ、消えニャイってニャンのことだニャ?……コロニャか? それともおまえの思い通りにニャらニャイで、感染する人達かニャぁ?」
「うるさい! 誰?」
 今度こそハッキリ聞こえた。幻聴なんかじゃない。女性は机を叩いて立ち上がった。
「ケケケケケケケケ」
見ると応接室のソファーに見たこともない奇っ怪で白い小さな動物が足を組んで座っている。
「何よこれ?」
 耳は長くてウサギのようだが顔は完全にネコのウサギネコだ。
「ちょっと誰か! 誰か来て!」女性は声を張り上げたが誰も来る気配がない。
「ケケケ、呼んでもムダだニャ、みんニャいそがしい」ウサギネコはソファーから立つとニヤニヤしながら女性に近づいてくる。
「ちょっと! 来ないで! それ以上私に近寄らないで!」

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