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押井守のサブぃカルチャー70年「漫画の巻 その4」【2021年12月号 押井守 連載第34回】

漫画を定期購読しなくなって久しい押井さん。それでもかつては、大好きな漫画のアニメ化を企図したこともあったそう。そんな漫画や当時の内幕、先日行った漫画本の大断捨離でも生き残った作品を語ります。
取材・構成/渡辺麻紀

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『日出処の天子』のアニメ化は、私が最適で、やらせてくれと頼んだ

――前回は『ビッグコミック』の役割等について語っていただきました。

そのあと、漫画を定期購読するという習慣はなくなったよね。最後まで取っていたのは『りぼん』だったと思う。

――少女漫画だったわけですね?

そうです。山岸凉子の『アラベスク』が大好きで読んでいた。掲載時に追いかけた漫画も、これが最後だったと思う。あとはほとんど単行本化されてから読んだというパターン。
まえも言ったけど、私は山岸凉子のファンなんです。彼女の『日出処の天子』は是非ともアニメ化したかった。

――私も『日出処の天子』は大好きです。私的少女漫画のナンバーワンなんですが、押井さんがアニメ化というのは、ちょっとピンと来ないんですけど……。

あのね、あの漫画のアニメ化が難しいのは分かるでしょ?

――もちろんです!

なぜ難しいかと言うと、知識と興味が必要だからです。中学校の日本史レベルの知識じゃ太刀打ちできない。だから、その時代に興味があって知識ももっていた私が適任だと言っているんです。その辺の時代に、もっとも詳しい監督であることを自負してますから。
山岸さんも言っていたけど、あの聖徳太子の時代って記録がほとんど残ってないんだよ。

――歴史では飛鳥時代と教えられてますよね。592年から710年までをそう呼ぶと歴史の授業で教えられました。聖徳太子こと厩戸皇子が生まれたのは573年だそうです。

そういうのは『日本書紀』に記されているんだけど、この歴史書自体、編纂されたのが奈良時代で、当時に書かれたものじゃない。お札にもなった有名な聖徳太子の肖像画だって後年に描かれたもので、本人じゃない説もあるからね。600年くらいの日本で何を食べていたのか、どういう服を着ていたのか、そもそも普段はどういう生活をしていたのか、ほとんどわかっていない。
そうなると、生活のディテールを描き込めない。漫画も白っぽかったでしょ?

――あの白さは山岸さんの個性だと思っていましたけど。

もちろん、それもあるけど、やっぱり描き込めない。たとえば合戦があっても、ちゃんと描写されてないからね。当時の兵士がどうだったかなんて、埴輪から連想して描いている。
最近、やっとポツポツと資料も出て来たけれど、私がアニメ化を狙っていた時期には目新しい資料は何もなかった。
そういうところをどうカバーするかと言えば、時代に対する好奇心とその周辺の知識なんです。だから私が最適で、やらせてくれと頼んだんですよ。

――山岸さんと話したんですか?

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