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新・三大 殺人犯が似合うミュージシャン俳優【大根仁 連載】

公開中の映画『キャラクター』を観た。特に観たいと思っていた作品ではないが、スタッフに知り合いが何人か関わっていること、予告編に東宝×フジテレビ製作メジャー映画として新しいことに挑もうとしている気合いを感じたこと、準備している次の作品が犯罪絡みなのでその参考に、などが理由だ。

公開中なので作品の内容や感想については避けるが、宣伝のトピックの一つだった【SEKAI NO OWARIのボーカルFukaseが俳優デビュー、殺人鬼役に挑む】に関しては期待以上だった。いや、正直に言うと期待していたわけではない。バンドとしてのセカオワにもFukaseにも特別な感情移入はないし、ネット記事で出演を知った時も「ふーん、まあアリっちゃアリかもな」程度だった。なのでこの役を演じるために1年間芝居のワークショップに通ったとかは、あとで知ったことなのだが、Fukase本人が持つ演技的資質や“キャラクター”は役に合っていたし、そこかしこにミュージシャンでしか演じることができない特別な瞬間も感じた。

音楽も芝居も自己表現の一つと捉えれば、ミュージシャンが演技をすることは不自然ではないのだが、与えられた役になりきり、誰かが選んだ衣装を着て、自分の言葉ではないセリフを言う、という役者の行為は似て非なるものなのではないか?とも思う。だが、自分の経験を照らし合わせてみても、やはりミュージシャンにはミュージシャンの独特の芝居のリズム・表情・間合い、そして色気のようなものがある。

星野源、峯田和伸、福山雅治、吉川晃司、トータス松本、田口トモロヲ、野田洋次郎、浜野謙太、ピエール瀧……音楽活動をしながら俳優もこなすミュージシャンはたくさんいるし、視聴者や観客もそこに違和感を覚えることはない。世代によっては武田鉄矢や岸部一徳がもともとミュージシャンだったことなど知らないだろう。人の良さそうな中年男を演じる田口トモロヲを観て「この人、昔バンドやってた時にライブでご飯が炊き上がった炊飯ジャーの中に脱糞してたんだよなあ……」などと目を細めるのはオレを含めて全国で数十人しかいないと思う。「あっ、ちなみにそのバンドは、ばちかぶりじゃなくてガガーリンね」と補足できる数となると……まあそんな話はどうでもいいが、とにかくFukaseは殺人鬼役がよく似合っていたし、独特の色気も感じた。

人気番組『マツコ&有吉 怒り新党』のかつての人気コーナーに、「新・三大○○調査会」があった。毎回どうかと思うほどクオリティが高く、大好きだったのだが、いつの間にかなくなってしまった。あのコーナーが素晴らしかったのは「新・三大○○」と謳っている割にはそれまでの「旧・三大○○」があったわけではなく、スタッフがそのジャンルの有識者(と呼ばれるニッチな専門家もしくはオタク)から仕入れたネタを、政見放送風に仕上げたことだ。「進化しすぎたサメ映画」「警視Kの斬新すぎる勝新太郎演出」「アパッチ野球軍の異色な展開」「浦和レッズ山田暢久の気の毒なレッドカード」「チャージマン研!の突飛な展開」「スケバン刑事のすごい仕留め方」などの傑作VTRは、今もまとめてソフト化してほしいとすら思っている。

そんなわけで前置きが長くなったが、今回オレが提唱したいのは「新・三大 殺人犯が似合うミュージシャン俳優」である。

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