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仲良しの同期のGⅠ制覇【藤田菜七子 2022年10月号 連載】

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2年ぶり(?)くらいに、なるでしょうか。
卒業を間近に控えた競馬学校騎手過程39期生の第2回模擬レースに参加するため、競馬学校に行ってきました。
学生時代は、同期のみんなができることを、なぜ私だけできないんだろうとイライラしたり、頑張っているつもりなのに、なかなか上手くならないことをくよくよ悩んだり……卒業してすぐの頃は、思い出すのも嫌だったはずなのに、今こうして時間が経ってみると、つらかったことも含めて、全部がいい思い出になっていることが、なんだかとても不思議な気分です。
2R制で行われた模擬レースで、私が参加したのはダート1000mのレースですが、女子2人、男子4人、計6人の学生は、本物のレースを頭に思い描き、勝敗にこだわりながらも、ひとりひとりがきちんと目的意識を持って、落ち着いて騎乗しているように感じました。
自分の時はどうだったか。今年、デビューして7年目ですから、細かいところの記憶は薄ぼんやりとしていますが、思い返すとレース中、空回りをしたり、冷や汗をかいたり……こんなに落ち着いてはいなかったような気がします(苦笑)。
その逆で、同じだなぁと思ったのは、同期の仲の良さです。
来春、デビューすると同時に、一番身近なライバルになるのが同期ですが、苦しいことも楽しいことも一緒に味わい、時には助けたり助けられたり、励ましたり励まされたり……切磋琢磨してきた仲間というのは、学生時代よりむしろ、デビューしてからの方が、その絆が深くなっていくような気がします。
私が卒業した平成28年32期生は、荻野極、菊澤一樹、木幡巧也、坂井瑠星、森裕太朗、そして私の6人。年上の木幡騎手と森騎手は、“クン”付けで、他の3人、キワム、タクヤ、リュウセイは呼び捨て。ちなみに、みんなは私のことを“ナナコ”と呼んでいるので、どっちもどっちという気がしますが(笑)。
その呼び捨てにしているひとり、極が、10月2日に行われたスプリンターズステークスを制覇。32期生では一番乗りとなるGⅠジョッキーになりました。
最後の直線で、力強く抜け出してきた極は、すごく…いや、ものすごくカッコよかったです。
同期の中では、ひとりだけ乗馬の経験がなく、競馬学校に入ってすぐの頃は、おっかなびっくりという感じだったのに、あっという間に上手くなっていて。明るくて、おちゃらけて見えるけど、競馬に対して真摯な極のことを心から尊敬しています。
おめでとう、極!

私も負けていられない――。極に続きたいと思った矢先、10月16日、阪神競馬場で行われたGⅠ秋華賞で、今度は瑠星が大きな仕事をやってのけました。
瑠星のパートナー、スタニングローズは、オークス2着馬。「チャンスはあるぞ」と思いながら、新潟競馬場のモニターでレースを見ていた私は、まるで自分が騎乗しているような気持ちになっていました。
極もカッコよかったけど、残り100mで先頭に立ち、ゴール板を駆け抜けた瞬間の瑠星も輝いて見えました。
ストイックで自分に厳しい瑠星は、デビュー2年目に単身オーストラリアに渡って1年間腕を磨き、その後も欧州を中心に世界で経験を積んできました。その間、きっと私たちにも話していない苦労がたくさんあったと思います。
瑠星が掴んだ勲章は、それがあっての今です。
おめでとう、瑠星!
極も瑠星も、めちゃくちゃカッコよかった。

私だって負けてはいられません。
今は、後ろを振り返っている時じゃありません。
反省すべきところを反省し、凹んだら立ち直り、視線の先はいつだって前に――。

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