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星野源、lyrical school、ZOOM…。このご時世だからこそのオンラインクリエイティブを考える【6月号音楽コラム】

今回はヒップホップ界隈をメインに活動中のライター・高木”JET”晋一郎さんに、このコロナ禍だからこそ生まれたオンラインクリエイティブを感じる3曲をレコメンドしていただきました。

文/高木”JET”晋一郎

たかぎ”じぇっと”しんいちろう●男の墓場プロダクション/レキシネーム:門仲町一郎/モノホンHIPHOP物書(トージン認定)/サ上と中江マイメンNo.1/サイプレス上野「ジャポニカヒップホップ練習帳」構成/Amebreak「Beat Scientist」連載/R-指定(Creepy Nuts)トークイベント「Rの異常な愛情」進行/オワコンないと


まーとんだご時世になってしまって、色々と右往左往と試行錯誤の毎日、みなさまいかがお過ごしでしょうか?

ライター業界もご多分に漏れず右往左往しておりまして、その中でもインタビューのリモート化というのが、大きな変化として存在しております。
それでは聴いていただきましょう、Remoteで「Never Be」。

……EXIT兼近の「『ドラゴンボール』ネタで笑えない問題」(編注:5月17日放送の「ワイドナショー」で「いま活躍している芸人たちがドラゴンボールやプロレスでよく例えるけど、若者には伝わってない」という趣旨の発言をした)を更に煮詰めたようなヒドい世代ギャグで恐縮ですが、「リモート」といえば即断で「池田貴族」と口に出てしまう世代でも、SkypeやらZOOMやらGoogle Meetsやらを使ってインタビューをしております。

その意味でも、「リモート」というアプローチが社会インフラの中でも大きな役割を果たすようになった現在、音楽業界/エンタメ業界でも、当然のことながら「リモート」がひとつのムーブメントになっておるわけで。

その中でも、広義のリモートとして社会的なインパクトが大きかったのは、やはり星野源がInstagramで発表した「うちで踊ろう」と、そこからの広がりではないでしょうか。緊急事態宣言前ではあったものの、世界的な新型コロナウィルスの流行と、医療崩壊と感染拡大を防ぐための自宅待機の有用性はすでに広く言われていたことであり、そのメッセージと時代性が、グッドミュージックの中にしっかりと貫かれた稀有な表現でした。

この発表に反応して、マルチプレイヤーのmabanuaや、SANABAGUN.の岩間俊樹など、数え切れないアーティストやプレイヤーが、本家の映像と「リモートの形」でコラボした楽曲を発表したのは記憶に新しいところ。その後の☓☓☓☓☓☓☓☓(政治的発言につき自主検閲)によって一気にコラボが減少してしまうという、マジでなにしてくれてんの……アホなの……どんだけ祟り神よ……という事態は起こったものの、リモート・セッションという形で楽曲映像を配信した在日ファンクや(しかも「はやりやまい」!)や、画面の分割もスゴすぎる新日本フィルのリモート演奏など、「うちで踊ろう」にインスパイアされた表現は数多く登場。「コロナ禍中の表現」「緊急事態宣言下の表現」として、記憶に残ることでしょう。

そしてコロナ禍で発生したことと言えば、数々のライブの中止ですね。すでにフジロックやロック・イン・ジャパンといった超大型フェスの中止も発表され、ライブ・レポートの仕事も全く無くなってしまった筆者も苦境のズンドコに立たされて、さらに「おいでよ どうぶつの森」でのカブ価暴落のショックに打ちひしがれておるわけですが、それよりもアーティストやレーベル、ライブハウスやクラブ、ライブ制作会社、警備会社などの苦労を考えると言葉もありません……。

lyrical school「REMOTE FREE LIVE vol.01」

そんな「ライブが出来ない」という状況下で、その環境を逆手に取って新機軸を打ち出したのがヒップホップ・アイドル・ユニットのlyrical school。
これまでにもスマホのシステムを映像に織り込み、国際的な賞も獲得したMV「Run and Run」の制作や、過去の名作映画をすべて手作りでサンプリング&再構築した「LAST DANCE」など、音楽やアイドルとしての存在性とパフォーマンスはもちろん、デザインや映像など、トータルとして評価の高い彼女たち。

4月22日にニュー・リリースとなったEP「OK!」が非常事態宣言と丸かぶりする形となってしまい、リリース・ライブはおろか、メンバーが揃うことさえも難しくなった状況で、彼女たちが取った行動は「リモート・ライブ」。

しかもメンバーがそれぞれの自宅で映像を収録し、それを一画面に構成することで、いわゆる「ライブ中継」とは違う、「この状況下だからこその表現」が形になっており、一つの発明として素晴らしい! 更には新曲「Last Summer」も発表するなど、発明集団としてのリリスク&プロデュース・チームの才覚には驚かされました。またフィロソフィーのダンスやRYUTistなども画面分割システムでのリモート・ライブ映像をアップしていましたが、このアイドルのリモート・ライブ・システムの何がいいかというと、「常に最前列で見れる!」ということですね、はい。

OK Go「All Together Now」

そういった新機軸をMVに落とし込むグループと言えば、やはり欠かせないのがOK Go。無重力になったり、ランニングマシーンに載ったり、日体大の集団行動もかくやという動きを見せたりと、映像のインパクトがスゴすぎて3回ぐらい見ないと曲に集中できないことでおなじみのグループは(でも「- This Too Shall Pass - Rube Goldberg Machine -」の「ピタゴラスイッチ」援用は、スチャダラパー「Disco System」の方が早かった)、リモートセッションを題材にとった「All Together Now」を発表しました。「新型コロナウイルス感染拡大の中、最前線で戦い続ける医療従事者やエッセンシャルワーカー達を讃える新曲」という、社会的意義の高い行動と、興味深い映像制作という2つを同時に形にした彼らの誠実さが伝わります。


valknee/田島ハルコ/なみちえ/ASOBOiSM/Marukido/あっこゴリラ
「Zoom」

また、こういったリモートを映像題材にした時に採用されるのが「ZOOM」型の分割画面でしょう。ネット通話ソフトといえばSkype一強だった時代はとうに過ぎ、様々なソフトがその利便性で鎬を削るなか、一歩抜き出ているのがZOOMであり、緊急事態宣言下では「ZOOM飲み」なんていう嗜みも話題になりました。そして、その題材をそのまま作品テーマにしたのがvalknee/田島ハルコ/なみちえ/ASOBOiSM/Marukido/あっこゴリラの6人のラッパーによって制作された「Zoom」。「新型コロナ以降」を表現した曲がちょくちょく登場しているのは、現実を映す側面の強いラップ表現においては当然なのですが、その中でも「Zoom」は、「新型コロナで顕になったもの」をしっかりと腑分けしていく、まさに「今だから登場した曲」の最たるものではないでしょうか。差別の問題や、社会格差、政治不全と不信、社会構造の非対称性など、新型コロナでより顕になった「構造のいびつさ」を、6MCがズバズバと切り込んでいくさまは、これがヒップホップじゃなかったらなにがヒップホップなのだ! という程の、社会を如実に映し出す力強さがあり、このエンパワーメントには期待しかありません。


そんな訳で、「リモート」を題材にした、2020年の6月にしか書けない音楽コラムでした。

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