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押井守のサブぃカルチャー70年「川井憲次の巻」【2021年10月号 押井守 連載第30回】

今回は、押井作品にはなくてはならない音楽、もとい川井憲次氏について。彼との出会いや押井さんが彼と符合する部分、共通する人生の楽しみ方などを語ります。そして、話題はなぜか押井さんのファッションに。実は押井さんのファッション、評価が高かった!?
取材・構成/渡辺麻紀

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人間、年を取って来ると、どんどん快楽主義者になって行く。そんな私が一番、気持ちいいことは…。

――前回は、押井さんの心をフラットにしてくれるモーツァルトの音楽について語っていただきました。で、押井さんの作品で音楽を語るとなると、やはり川井憲次さんになります。今更かもしれませんが、川井さんとの出会いについて教えてください!

川井君は『紅い眼鏡』(1987年)からだよね。ある人に紹介されて知り合ったんだよ。
川井君は、自分のことを音楽家というより職人だと言っているところが面白い。「監督が何を求めているのかを考えて、そこから聴こえてくる音を譜面に移しているだけ」。そう言い切っている。
それに、川井君は大学で理系を専攻していたせいか、機械にこだわりがあって、いつも新しい機械を買い、いろいろといじっている。音楽に対する考え方も、この部分の周波数帯が空いているから、どの音を入れればいいかな、という感じ。その周波数を構成することで、アレンジを具体的に成立させている。

――作曲家らしからぬ音楽の作り方なんですね。

だから、作曲家じゃなくて職人なんですよ。作曲家のなかには、こういう音楽にして欲しいと言うと「それは私の音楽じゃない」云々という先生もいるけど、川井君の口から「自分の音楽」なんてセリフは一度も聞いたことがない。そういう主張はしない人なんです。
私が川井君を気に入った理由は、作る音楽がカッコいいということは当然で、もうひとつは、いろんなオーダーにちゃんと応えてくれるところ。たくさんの引き出しをもっている人だから、「ここはチンドン屋風に」と言うと「はいはい、チンドン屋ね」って感じ。「チンドン屋は違うんじゃない?」なんて主張は絶対にしない。しかも、チンドン屋からジャズまで何でもござれですよ。
私は『紅い眼鏡』のとき、そんな人に初めて会ったから嬉しくなっちゃった。だから、ずっと付き合っている。しかもすっごく軽いしね(笑)。

――私も初めてお会いしたとき、そのフランクさに驚きましたね。「映画? うん、あんまり観てない」って感じ。

そうそう。映画でちゃんと観ているのは“寅さん”(『男はつらいよ』シリーズ<1969~1995年>)くらいじゃない? “寅さん”は大好き。そこは石川(光久)と同じ。石川も映画は“寅さん”で十分って感じだから。
前も言ったけど、音楽は自分にとって、表現行為だけど、創作じゃない。だから、音楽を決めるときはまず川井君と相談することから始めて、それからメインの楽器を決め、ああでもないこうでもないと試行錯誤を繰り返しながら“音”を見つけて行く。その相棒として川井君は、まさに得難い存在なんですよ。

――貴重な出会いだったということですね!

そうです。それに、川井君も快楽主義者。気持ちがいいことしかやりたくなく人なんです。品川で生まれたせいかお祭りが大好きで、そのときは1週間、絶対に仕事をしない。温泉もお酒も、おねえさんも車も大好き。愛車のベンツをぶっ飛ばすのが気持ちいいって言っているから。

――押井さんの周り、そういう「好きなことしかしない」人、多くないですか?

多いよ。というか、60歳くらいから、そういう人間ばかりになっちゃった。うちの(空手の)師範代もその典型ですよ。空手とお酒とおねえさん。あとはもとジーンズショップの店長さんをやっていたくらいなのでファッションも大好き。ファッションにはうるさくて、道場に行くといつも服装をチェックされる。「今日は暖かければ何でもいいという服で来ましたね」って感じで。でも、ほかの道場生はボロクソだけど、私は割と評価が高いんですよ。

――ちょ、ちょっと待ってください。押井さんのファッションの評価が高いんですか?

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