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まさに偉大!まさに天才!『TAR(ター)』はケイト師匠の最高傑作!【大根仁 連載 2月号】

おおね・ひとし●ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、FODU-NEXTにて全話配信中。

元々、自ら映画監督を名乗ることは無いが、さすがに5年も映画を撮っていないと、肩書きからその看板を下ろしたくもなる。変わらず映画を観るのは大好きだが、映画を撮る・作るということに対して、すっかり熱情が冷めてしまっているのもまた事実。ありがたくも、時折映画会社のプロデューサーから企画をいただくのだが、その企画書や原作を読んでも「まあ、オレが撮らなくてもいいか……」と、数日後には断りの連絡を入れてしまう。

では、お前はもう一生映画を撮る気はないのか?と聞かれれば、そんなことはなく、冷めてしまった熱情が、自分の中に再び戻ってくるのを待っているのだが、それがいつになるのか、今のところ検討すらつかない……。でもたぶん、それは映画を観ることでしか、戻ってこないんだろうなあと、今日もオレは映画館に通う。

というわけで、最近観て「!!!!」となった作品を紹介します。

それは『TAR(ター)』。2023年米アカデミー賞に作品賞・主演女優賞・監督賞・脚本賞・撮影賞・編集賞と6部門にノミネートされているのだが、日本では今のところさっぱり話題になっていない。実際、オレも最近までこの作品については全く知らなかったのだが、ロンドンに住む知り合いから「『TAR』がヤバい!」とLINEが来て、予告編を観ると、海外版だったこともあるが、ケイト・ブランシェットが主演で、楽団の指揮者の役だということ、どうやらレズビアンであるということ以外、内容やストーリーはさっぱりわからない。ただ、映像が凄まじく美しく、なんだかとんでもなく不穏なムードが漂っていて、そしてとにかくヤバそうだということは、映画に対する勘が鈍っている今のオレでもわかった。そしてこれは今すぐにでも観なきゃダメだ!という謎の強迫観念に駆られた。

だが、ネットで調べると公開は5月。待てない!ということで、配給会社の知り合いに連絡をすると「マスコミ試写はまだ先だけど、明日日本語字幕入り完成版の関係者試写があるから来ますか?」とのこと。これはもう間違いなく呼ばれているやつだ。すぐさま翌日のスケジュールを調整して、関係者ヅラをして忍び込ませていただくことになった。えー、結論から言いますとこの『TAR』、とんでもねえ超弩級のヤバい映画です! 内容に関しては、むしろ知らないで観た方が良いと思うので伏せておくが、とにかくケイト・ブランシェットが凄い!!

ケイト・ブランシェットといえば、キャリア・実力共に世界トップクラスの主役級女優でありながら、脇役やチョイ役、謎のB級映画へのカメオ出演も厭わない信用のおける人で、オレはかねてから敬意を込めて「ケイト師匠」と呼ばせていただいている。スクリーンに登場するだけで、「ケイトが出てきたということは、タダじゃ済まない」感を漂わせ、実際ケイト師匠が出てきて、映画が平和で終わったことは一度もない。たぶん。

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