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”緊急事態”のなかで、やるようになったこと、やらなくなったこと。 「やらなくなったことは思い出せない」 山田由梨(贅沢貧乏) 【6月号特別企画】

企画・構成/おぐらりゅうじ

およそ2ヶ月前の4月7日、政府により緊急事態宣言が発出。これにより、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、外出の自粛や、いわゆる3密の回避が求められ、人々の生活様式やコミュニケーションのあり方にも大きな変化をもたらしました。

また、切迫した状況下における、政府の指針や関係各所の対応、さらには(SNS上での振る舞いも含めた)人々の言動や態度などを目の当たりにし、根本的な生き方や考え方を見直した方もいるでしょう。

そこで、今回のコラム企画では『“緊急事態”のなかで、やるようになったこと、やらなくなったこと。』と題して、多方面の方々から「やるようになったこと」と「やらなくなったこと」をテーマにご執筆いただきました。

第5回は、劇団「贅沢貧乏」主宰の劇作家で、俳優や執筆の分野でも活動する山田由梨さんです。

やまだ・ゆり ● 劇団「贅沢貧乏」主宰。1992年、東京生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。劇作家・演出家・俳優のほか、ドラマの脚本、小説の執筆、エッセイの寄稿なども行う。2017年の上演『フィクション・シティー』と、2018年の上演『ミクスチュア』が、それぞれ岸田國士戯曲賞最終候補作品にノミネート。

やらなくなったことは思い出せない

 わたしがコロナ期間中にやるようになったことは、暇電である。暇電とは、特に用事はないけど友達かなんかに暇を持て余して電話をかけることだ。そういった電話を最近している。そういえば、コロナの前はあんまりしなかったかもしれない。だって、それってなんか大人の世界じゃどうなの? 「暇?」みたいな電話が突然きたら、社会人のみなさんにとっては迷惑なんじゃなかろうか、とか思っちゃう。

 厳密に言ったら、暇を持て余してるわけじゃないのだけど電話をかけている。例えば、家でずっと台本を書いていて、「もうだめだ」となった時などに友達に電話をしてみる。「今なにしてんの?」という感じである。それって、中学生の時に、紙の名簿を見て友達に固定電話から電話をかけて「やっほー何してるの?」とか言ってた感じに似ている気がする。懐かしみがある。たぶんわたしはそういう生産性のない、無駄話に飢えている。

 緊急事態宣言中めちゃくちゃやったzoom会議。1日に4件くらいはしごすることもあったzoom会議。オンラインの会議って、話す要点が決まっているから、目的の話をすぐ始めて、結構要領よく終わっちゃう。それはそれで効率がいいなと思うんだけど、要点ばかりで疲れてくる。要じゃない点も話したい。

 要といえば、「不要不急」という言葉を聞きまくった最近だった。仕方ないのだけど。非常に嫌です。嫌いな言葉ベスト10には入ると思う。何かをしようとするときに、「これって不要不急だよな…」と萎縮してしまう。こういう状況では「不要不急」に入りそうな仕事を生業にしているのでなおさらこわい。

 ちょっと話は変わるけど、わたしは戯曲や台本等の執筆をしているとき、普段あまりしないゲームをすることが多い。それもテトリスとかそういう類のパズルゲームみたいなものだ。ただただブロックを消していく。画面上のブロックを、何にもならないのに、ただ、消していく。またブロックが現れる。また消す。こういう感じだ。なんとも意味がない。自分のその行動原理について考えてみたときに、一つの真理にたどり着いた。「人間は意味あることばかりすると頭がおかしくなる」ということである。執筆期間は集中的にパソコンに向かい、仕事上意味のある言葉を書きまくる。くだらないセリフだったとしても、それは作品上意味がある。意味のある言葉を書きまくり、意味のあるメールのやりとりばかりをしていると、だんだん意味のないことをしなければならないという気になる。そしてブロックを消す。しかし、それが楽しいのかと聞かれれば別に楽しいわけではない。無だ。無の行為を通して、わたしの中の意味のバランスを取ろうとしているのだと思う。

 とはいえ、意味のないことばかりをしていると人は苦痛を感じる。昔の拷問に、大きな穴を掘ったあとに、それを自分で埋めさせるというものがあったらしい。それってすごくつらい。人生において、意味のあることと、意味のないことのバランスは重要みたいだ。これを書きながら、すっごくどうでもいい話だなと思っている。非常にいい傾向だ。

 話を戻すが、コロナ禍で友達と会ってご飯をたべながら喋る、みたいなことは不要不急とされていてしばらくできなかったので、電話した相手から思いもよらない報告を受けたりすることもあった。彼氏と明日別れる予定、とかそういうことである。いわゆるコロナ破局かもしれない。それから、劇団員にも「パトロール」と称して暇電をした。うちの劇団は仲が良く、公演がなくても定期的に会っていたため、非常に寂しい。なので、ひとりひとりに「パトロールです」と電話をかけて近況を聞いたのち、「ちなみに○○の夕飯は今日はパスタらしい」とか「△△のお母さんは、いまネットフリックスのこのドラマにはまってる」みたいな、他のメンバーの要らない情報を伝えたりしていた。もちろん劇団の活動に関する業務連絡は頻繁にしているのだが、それとは別にやっぱり無駄話が必要だ。

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 今回のコラムのお題は「やるようになったこと、やらなくなったこと」ということだが、やらないようになったことはなんだろう。やるようになったことは他にもある。人のインスタライブを見るとか、インスタライブを自分でやってみたとか、シソの種を植えて育ててみたとか、近所の蕎麦屋から出前をとるようになったとか、散歩を前よりするようになったとか。結構ある。これらをやるようになったかわりに、やらないようになったことがあるのだと思う。やらなくなったことはなんだろう。それはもうやってないことなので、思い出せない。

 でも、やっぱり、集まることだろうか。大勢で集まることをしていない。わたしは、劇場や映画館に通うタイプだったので、その時間がかなり空いているはずだ。でもこれは、やらないようになったのではなく、やりたいけどやれないことだ。一生やめることはないことだ。「不要不急」なことを大勢で集まって盛大にやりたいなあ。

(了)

山田由梨さんが主宰する劇団「贅沢貧乏」の情報はこちらから。

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