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演劇を見た後に感想を話せる「劇場バー」、いいと思いません?【岩井秀人 連載 4月号】

いわい・ひでと●全年齢・全生命体対象の「命のお祭り」再び!!!!!!  多田淳之介(東京デスロック)の原案による問題作を、岩井秀人が演出したハイバイ「再生」が、6月より東京芸術劇場シアターイーストで上演(全国3カ所ツアー)。チケットは本日より一般発売開始。公演・チケット情報はこちらから。●岩井秀人・森山未來・前野健太+金氏徹平による「なむはむだはむ展」が太田市美術館・図書館で開催中、会期は5月7日まで!


今週、立て続けに大阪、福岡、岡山と移動した。

現在絶賛上演中のPARCOミュージカル「おとこたち」の上演を見るために大阪へ行き、大阪千秋楽を見たかったけど、その先の公演の宣伝のために福岡へ行き、オリジナル版ハイバイ「おとこたち」の映像を福岡のみんなに見てもらった後に、男岩井が「おとこたち」をどう作ったか、からミュージカルにするまでのストーリーを話すというイベントを行い、翌日に岡山へと新しくできる劇場を見に行った。

そこで各地の演劇関係者と話をさせてもらった。東京だけじゃなく、地方にもいっぱい演劇をやっている人、演劇を盛り上げようとしている人がいて、このコロナで演劇全体のお客さんが減ったことと、じゃあどうしていけばいいかね、ということが話題のほとんどだったように思う。

演劇全体のお客さんが減ったことは、僕は全くネガティブに捉えていない。

演劇には「商品」と「試作」のようなものがあって、すごくざっくりいうと、商品は「お客さんに向けて作っているもの」で、「試作」は「作りたいから作ってるけど、あわよくばお客さんに面白がってほしい」ものだと、僕は勝手に解釈してる。

これがまさに、演劇の良いところと悪いところの両面で、「お客さんを気にしないで作っちゃう」からこそ、当然とんでもない駄作も生まれるし、一方でプロデューサーもいない、社会的目線が全く通っていないからこそ、作家や劇団の集中力一点突破でとんでもない傑作が生まれることもある。

さらにその「我々はお客さんに作ってます」という風を装いながらも全然、お客さんのことを考えないで作られてるものもあったりするからややこしい。本人たちも嘘をついてるつもりもないのが、さらにややこしい。

かくいう男岩井自身も、初演は「作ってみたい」で作って、結果的にお客さんのウケがいいから、再演からは「お客さんに向けて作ってました」という後付け的な方法を長期的に行なっていて、それも自覚的じゃなくやっているから、上に書いた問題の100倍くらいややこしい。

で、話は戻るが、コロナによって演劇のお客さんにかかわらず、「芸術や表現を享受する人たち」が、シンプルに幸せになろうとし始めた。これは本当にただの個人的な仮説だけど、やたらと感じていることだ。

コロナで自分が「いつ死ぬか分からないし」と思い始めたからなのか、「世界に漂うコロナの影が、この先も長らく続くのだな」と思ったことでシンプルに楽しい時間に身を置きたいと思い始めたのか、原因は一つじゃないし、はっきりとは分からない。

「つまんないかも知んないけど、今まで見てきたから」とか「知り合いが出ているから」とかで劇場に足を運んでいた人が、まずは自粛期間で強制的に劇場に行けなくなった。

そのことで演劇の代わりに「自分を救ってくれるもの」「自分の鏡となるもの」を演劇以外に探し始めたし、いわゆる「推し活」というものがリモートである程度は満たされるということも判明したし、何よりコロナによって配信を始め、ネットで実現できる「自分を喜ばせる方法や手段」がめちゃくちゃ増えて、「演劇よりこっちの方がええやん」となった人も大勢いると思う。

とにかく全体として、みんなが正直になったのだと思う。もう、細かなことを気にして辛く狭いところに居続ける必要はないだろう、と。明るく広いところに出ていこう、と。めちゃくちゃ良いことだと思う。

さて、そこで演劇はどうすればいいか、みたいなことを各地で話してきたんだけど、ものすごく要約すると、「劇場のそばに劇場が運営するバー的な空間を作ろう」というところに行き着いた。

なんのこっちゃな結論ではあるんだけど、結構ないい案な気がする。

演劇って見終わったらすぐに劇場を追い出されるじゃないですか。あれは劇場の都合で、退館時間が決まってるから、それまでにお客さんを帰して、劇場を消毒して、その後に働いてる人たちを時間内に返さなくちゃいけないから。

でも、お客さんからしたら、今見た作品の感想とか話したいし、隣の人がどういうことを感じたか、なども含めてこその「生の演劇」なんだから(中には一人で全て味わいたい人もいますが)、そういうことを話す場があったら絶対行きたいと思う。

そこで、「劇場バー」。

そこに行けば、今自分が見た作品を一緒に見ていた人たちがいて、あーだこーだと喋っている。作り手がそこでトークをしたければすればいいし、そうじゃなく、「見た人たちだけで話す」という時間も、めちゃくちゃ大事。そのうち「見た人代表」みたいな人も出てきて、その人の意見を聞きにくる人もいたりするだろうし、新たなコミュニティができる。

作品は上演されたら消えてなくなるけど、それについておしゃべりしたコミュニティは、なくならない。

よく「劇場にお客さんがつく」という言い方をするんだけど、その劇場が周辺に住んでいる人たちに信頼されるためには、ある程度出入り自由なのと、面白いことが起きていることと、自分に関係があるということが大事で。

でも特に公共ホールはお酒がダメだったり、飲食ダメだったり、場所によっては開場まで一列に奴隷のように座らせたりするところもあって、目的がなんなのか全然分かってなかったりするところもある。

「公共劇場」ってところは、精神的に深呼吸できる場所じゃなくちゃいけないんだけど、逆に「公共劇場」ってことで、夕方以降に活動する人々をサポートできない。これはそもそもの時代の変化と、さらにコロナの環境で、働く時間帯がかなりめっちゃくちゃ(自由になった)になったってことで、「定時に始まり定時に終わる」公共劇場だけの力では、このことに対応できるわけがない。

そこで、夜な夜なやっている「劇場バー」の出番なのだ。働く人は民間でいい。民間の夜型人間を見つけよ(笑)!

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