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マカロニえんぴつ・はっとりが語る「愛を知らずに魔法は使えない」

「全年齢対象ポップスバンド」を掲げるマカロニえんぴつがメジャーデビュー! ニューEP『愛を知らずに魔法は使えない』は、冒頭とラストにアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のタイアップソングを収録。力強くエモーショナルなロックを聴かせつつ、中盤には俄然プログレッシブに振り切った楽曲も。フロントマンはっとりにインタビュー!

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取材&文/小松香里 撮影/飯田エリカ

──EP『愛を知らずに魔法は使えない』は、メジャーデビュー作ではありますが、これまでのマカロニえんぴつらしさを進化させた作品だと思いました。

どうしてもプレッシャーを感じやすいバンドなので、メジャー1枚目ってことで気負って無駄に空回りしないように、最近のバンドのいい空気感を崩さないように意識しました。失敗して学ぶっていう試行錯誤より、おもしろそうだからやってみたら受け入れてもらえたっていう実感がこれまであって。それで、「じゃあ次はこんな所まで行ってみようかな」という感じで進んでこれた。壁とか勝手なヴィジョンを作らないことがこのバンドにはいいんだろうなって思うので、その流れを大切にしました。


──新曲が6トラック入ってますが、いつ頃作った曲なんですか?


半分は(2020年)3月までには録れていて。それで、未完成のまま自粛期間に入ってしまって。タイアップ曲の「溶けない」「生きるをする」「mother」は、CMやアニメで使われる尺分はできていて。でもそこ以外の歌詞は書けてなかったですね。


──自粛期間中はどんなふうに過ごしましたか?


ライブがあると余計なことを考えなくて済むんです。音楽をやっているっていう単純な実感のもと、各地で待ってくれてるお客さんの顔も見られる幸せな時間で。ライブ後に色々考えて成長したりするんですけど。でも1人で過ごす時間も増えて、余計なことをいっぱい考えて。根がマイナス思考なので、どんどん自信がなくなったり。自分がやってきたことが薄っぺらいものなんじゃないかとまで考えちゃって。気持ちが沈むとあまり音楽を聴こうと思わないんですよ。僕の場合は作るっていう職業柄が入ってきちゃうから余計そうだったのもしれないけど、新しいものに出会うことに貪欲にはなれなかった。逆に、自分の心の拠り所にある音楽に帰っていったんです。バンドのことで悩んだり、自信がなくなったときはユニコーンの曲を聴いたり、ライブDVDを観るのが癖なんですけど、今回もそうでした(笑)。あと、ベン・フォールズやウィーザー、オアシスを聴いて。ランディ・ニューマンも大好きなんですけど、自粛期間中に気分転換にレコードプレイヤーを買ったんです。 「ルイジアナ1927」っていうストリングスとピアノのスローバラードに救われました。なんでこんな寄り添ってくれるんだろうと思って歌詞について調べてみたら、昔ルイジアナで起きた大きな水害のことを歌ってる曲なんですね。傷を癒す歌として、コロナの状況とリンクしてるからなのかなと思って。自粛中に一番聴いたかもしれない。

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──2020年4月にリリースした『hope』はポジティブさに光を当てる希望と向き合ったアルバムでしたが、希望がなくなってしまったような状況で音楽に対する気持ちはどう変わりました?


でも、どの曲を作るときもスタートはひとりぼっちなんですよ。「ヤングアダルト」にしたって、フェスなどに初めて出させてもらって、すごく幸せな1年の終わりに幸せな歌を作っても良かったのに、急に孤独感を感じて作った曲で。性格上、うまくいっていることがあったとしたら、「そんなはずはないだろ」ってマイナス思考にいっちゃうところもあるので。逆に、この周りが沈んでる状況だと、もっとシンプルに音楽の聴いてて楽しいっていう部分をブーストさせた曲作りをすればいいんじゃないかなって、ある意味楽観的になっていましたね。自粛明けは「カーペット夜想曲」からメンバーと作り始めたんですけど。イントロのシンセベースとふざけた調子で歌い始める感じに、嫌というほど自分と向き合った時間が開放されて楽しかった気持ちが出てるんじゃないですかね(笑)。底抜けに楽しくしていないと飲み込まれてしまうし、音楽を発信する団体として少なくとも自分たちは暗くなってちゃダメでしょと。この状況は逆に自分たちを明るくさせたし、バカになれた部分はあります。


──「カーペット夜想曲」は笑い声が入っていたり、80年代ディスコに展開されたり、かなりおもしろい楽曲です。


時間をすごくかけたんです。あと、エンジニアがこの曲だけ違うんですよ。高校の同級生で山梨から一緒に洗足学園大学に進んだエンジニアをやっている友人がいて。その友人と「仮にメジャーデビューできたら、その時は録ってくれ」「俺も録りたい」みたいな熱い約束をかわしてたんです。それで、そのきんちゃんっていう友達に録ってもらった。きんちゃんとは初めて一緒にやるってこともあって、多めの時間スタジオをおさえてもらってたんです。でもきんちゃんがうまくて、かなりスピードも早くて、作業の日数が余ちゃったんです。でも時間があったらあるだけ使いたいんで、バラさずに使ったんですね。大ちゃん(Key/長谷川大喜)が最近プロフェットって新しいシンセサイザーを買ったんですけど、そこに膨大な音色が入ってて。「あの音入れよー!この音も入れよー!」っていう時間が始まって。俺ひとりで楽しくなっちゃって(笑)。この曲にいろんな音が入っているのは、そういう時間がたくさんあったってことなんですよ。


──歌詞ではコロナ禍におけるストレートなメッセージが書かれています。


この曲は制作の最後のほうで歌詞を書いたんですけど、割と心にもゆとりがあって。「生きるをする」「mother」っていう『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のオープニングとエンディング曲が頭とケツにしっかりといたので、崩壊してる文脈だったり、ケミカルな歌詞でもいいんじゃないかなって思って、殴り書きのような感じで書きました。だからあまり頭を使ってないというか、そのときの感覚とか出てきた言葉を紡いでいった結果、僕なりの人生賛歌になった。この時期、17年くらい長生きした犬が死んじゃったり、大好きなライターさんが死んじゃったり、個人的に身近な死があったんです。それに加えて、ニュースでは死者の数が報道されて…死っていうものに向き合う時間が長かったこともあって、会いたい人には会わないとなって改めて思ったんですよね。

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──自粛期間があけて、レコーディングを再開して、気分的にはすぐにそこに持っていけたんですか?


何せレコーディングは楽しかったですからね。ツアーがなかった分、没頭できる時間がそこだけだったので。のちのち笑い飛ばせる思い出になればいいなと思ってるんですよね。そのとき聴いてた曲を何年後に聴いた時に悲しい気持ちになったら、もったいないじゃないですか。曲ってそのときのことを一番思い出すし。そこに前向きになれた自分が思い出せなきゃ希望はないと思った。だから、そういう歌になっているつもりです。


──中盤のプログレッシブな曲のふり幅もさらに振り切れたったものになってますよね。


時間があったということもあり、音にはすごく凝れましたね。「ルート16」では、初めてグランドピアノをレコーディングで使いました。スタインウェイは渋いニューヨーカーの乾いた音がしましたね。録りってオーディエンスがいないから、いくらかっこいい音出したり、おもしろいことしても喜んでもらえないんですよ。だから、メンバー内で褒め合って高めあわないともったいないというか(笑)。


──マカロニえんぴつのメンバー間って、お互いの音にどんどんいいね!って盛り上がるイメージがあります(笑)。


みんな優しいから。俺は言わせるんですけど(笑)。よっちゃん(G、田辺由明)は、今回どの曲でもかっこいいギターソロ弾いてて。そういうときは目の前で最高の拍手を送るし、俺の歌入れはよっちゃんが見ててくれて、いいテイクが取れたら「すごく良かった」って言ってくれる。オーディエンスを自給自足してるんです(笑)。それが内輪でできてると楽しいですね。

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――「ルート16」は長谷川さん作曲ですが、王道のマカロニえんぴつのポップソングっていう印象で。今作の中でも特に明るい曲ですよね。


大ちゃんは俺と違って人といないと寂しくて死んじゃうようなタイプで。家でひとりで自炊して食事するのも楽しくなくて、大食い系のユーチューバーの動画を見ながら一緒に食べて正気を保ってたみたいです(笑)。俺はいくらでもひとりで良くて、限界がきたら誰かに会いたくなるんですけど。それで大ちゃんが言ってたのは、そういうときに作る曲は底抜けに明るくなるらしくて。でも、大ちゃんだけでなく、自粛期間で時間があったこともあり、みんなのデモ音源の雰囲気がすごく良くなりましたね。


――「生きるをする」はアニメ『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のオープニング主題歌ですが、歌始まりですごく疾走感があります。


オープニング曲だから勢いがあっていいかなって。でもこれくらいのBPMって僕らとしては久々で。アニメにはハマるんじゃないかなと思って挑戦しました。物語の冒険のスタートと、僕たちのメジャーからの1枚目っていうのも親和性があるなと。これからマカロニえんぴつも長い道のりが待ってると思うんですけど、この曲からスタートできたのは、胸を張って船出ができた感じはしますね。歌詞は、ダイの世界を書くっていうよりは、この世界に描かれている登場人物に自分を重ねて。アニメに出てくるポップというキャラクターが、自分が人間だっていうことへのコンプレックスを仲間に強がって見せなかったり、共感できる部分がすごく多くて。ポップの顔が浮かびながら書いてました。


──ただ単に行こうぜとか進もうぜっていう曲じゃなくて、《まだ信じてもいいか?》とか、《くすぶるのは、ちゃんと燃えたからだ》とか、ゼロから1じゃなくて、今までの歩みがあったからこその旅立ちの曲になってるのがはっとりさんらしいなと。


今は、自分が信じていたり、自分の持ち味だった部分に自信が持てなくなることが一番怖いんです。ある程度まっさらでゼロからのスタートのほうが失うものがないから、伸び伸びと挑戦もできるし失敗もできる。コロナ禍で、一個自分の武器に自信がなくなったのはあると思うんです。自分がこれまで道を切り拓いてきたオリジナルの刀があったとしても、ここから先はもう使えないとなったら面喰らっちゃうわけなんですよ。でも通用するって思いこみたい。出会ってきた人をがっかりさせたくないし、自分が自分にがっかりしたくない。ゼロから1より、1から2への挑戦の方がしんどいし怖かったですけど。はったりでもいいから底抜けに強がってみせるしかない瞬間もあるなって。この曲は、久々にそういうまっすぐな歌詞で、インディーズの1枚目の「鳴らせ」という曲を思い出しました。当時はゼロから1の心境だったから、逆に何書いていいかわからなかったし、何を書いても正解にも不正解にもならないから、すごく空っぽの状態で書いたんですけど。そういう意味では「鳴らせ」からの成長をすごく感じたし、8年の歩みも振り返りましたね。自分ひとりでやってきたら、歌詞や価値観も変わってなかったけど、いろんな人と出会ったりお客さんと出会って自信が持てて。その中で歌に入れられる思いがどんと増えたことを実感しました。

──そのオリジナルの刀みたいなものを使って実績も作ってきて、メジャーでやっていくわけですが、どんどん巨大なフィールドに飛び込んでいく中で、自分たちの武器について考えていることは?


自分達で思ってる武器とかセールスポイントって大体ずれてたりするんですよね。逆にウィークポイントはあたってるんですよ。だから、僕らはそこを考えないっていうことにしました。考えすぎると僕は胃が悪くなって、胃酸が出て声が出なくなる(笑)。一方、ライブっていうのは、目をつぶって聴いてるだけじゃなくて、視覚的なパフォーマンスがあって。そこで良いバンドだなと思ってもらえるような佇まいが必要で。だから「良かったよね」と思ってもらえるライブを毎回やることが目標なのかな。それと、僕が声が出なかったとしても全力で歌うっていう。松山千春さんも「駄目なときは心でカバーしろ」と言ってました(笑)。トータルで言うと、やっぱり楽しんでやるっていうことですかね。

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はっとり(Vo&Gt)、高野賢也(Ba&Cho)、田辺由明(Gt&Cho、長谷川大喜(Key&Cho)からなる4人組バンド。2012年神奈川県で結成。メンバー全員が音大出身。2020年11月、EP『愛を知らずに魔法は使えない』でトイズファクトリーからメジャーデビュー。

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