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第33回 真っ当に生きるということ、それは人生の局面で如何にマンガに描かれていたハッタリを取り込むかということ
読みましたか! みんな大好きビッグ錠先生の新作『怪盗くいしん坊』!
刑務所を出所した主人公・コングが、強盗を働くために忍び込んだ家で作る料理と人情ドラマ……そう、なんとこの作品、怪盗じゃなく強盗!
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「怪盗」要素については、華麗に盗んでいったのは、強盗に入られた家の住人の心です! みたいなところに全力投入して「怪盗」と「強盗」の境目を限りなく曖昧にしております。
特に第6話の「お粥」の回が最高で、富豪のおじいちゃんのが今際の際に「お粥が食べたい」と言ったのでコングが美味い粥を作ってあげたら、何も食べることができないくらいに衰弱していたおじいちゃんがしっかりそれを食べて最高の笑顔を見せてくれた上で、ページをめくったらすぐ死ぬ、という至高のドライブ感を味合わせてくれます。強盗が作った飯で!?
その他、「空き巣じゃねえ! 相手と顔も合わさず物だけ盗むのは許せねえ!」という素晴らしい悪の哲学が炸裂したり、フィンガーボウルの水を飲み干してしまったけど隣で一緒に飲んで恥をかかせないようにフォローをしてくれる人がいなかったり、幽霊オチが繰り返されたり、『スーパーくいしん坊』が急に出てきたりするので必読です。
さて、先月出た作品だと『戦車椅子』もとにかくキャラデザイン(すぐ死ぬキャラまで全部良い)とアクションが素晴らしくて、車椅子という「一見するとハンディキャップを連想させそうな要素」を逆手にとって、生身の人体には再現不可能な高速回転・急加速・フォームチェンジなどの要素をバトルに全投入しており、荒唐無稽と外連味のバランスが最高のことになっています。生身の人体は、高速スピンなかなかできないからなー。読みましょう。
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読みましょうといえば『自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~』も素晴らしくて、長らく単行本化されていなかった作者の自衛隊時代の壮絶なエピソードを描いた短編「200000歩2夜3日」「340メートル60秒」の2作と、昨年新たに描き下ろされた「おしっこガマン回」と「おちんちんチャレンジ回」の2作の温度感の違いに、「ああ、俺はこの漫画家をずっと好きでよかった」と思わされます。
板垣恵介『自伝板垣恵介自衛隊秘録~我が青春の習志野第一空挺団~』(秋田書店)
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真っ当に生きるということは、人生の局面で如何にマンガに描かれていたハッタリを取り込むかと同義なので、格闘家時代の減量中にポッカレモンを舐めながら我慢した自分や、初体験できそうな予感がするデートの朝に炭酸抜きコーラを飲んでいった自分を全肯定し、そんな減量の方法は絶対に間違っているということや、初体験できなかったから黒くて甘いものをただ飲んだだけだったという過去の自分を改めて愛おしいと思える一冊になっています。みなさんが試してみたマンガの特訓や覚醒方法、ぜひお寄せください。
げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。あと、個人的に大好きだったけど「第一部完!」になってしまっていた『リモデリング』が、新たな作画者を迎えて『リモデリング:R』としてリスタートしているので読んでください! 不憫さから絞り出される生きた言葉、いい。
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