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「世界の終わり」を生き延びようとする人々(植田かもめ)

植田かもめの「いま世界にいる本たち」第26回
"Notes from an Apocalypse: A Personal Journey to the End of the World and Back"(終末のノート:世界の終わりへのひとり旅、そして帰還)
by Mark O'Connell(マーク・オコネル)2020年4月発売

こんな本がこんなタイミングで出るとは著者も思っていなかっただろう。本書"Notes from an Apocalypse"は、世界がめちゃくちゃになる時が来ると信じて準備をする人々を取材したノンフィクションだ。新型コロナウイルスの流行が始まる前に書かれたものだが、奇しくも非常にタイムリーな時期に発表されることになった。

世界の終わりはそこで待ってる

著者のマーク・オコネルはダブリン在住のジャーナリストである。前作の『トランスヒューマニズム』(原題:To Be a Machine)では、人体のサイボーグ化や、脳とAIの融合を目指すテクノロジーを取材していた。

彼の作品は、世界の秘境を旅する冒険ルポルタージュのようなものだ。ただし彼の目的地は、地理的な秘境というよりも、精神や思想の辺境である。

今回、彼が探検するのは「プレッパーズ(preppers)」と呼ばれる人々の世界だ。核戦争、自然災害、伝染病のパンデミック。理由は何であれ、文明の滅亡の時が来ると信じて、食糧や武器の備蓄、自宅のシェルター化を行なっているような人々である。過去にナショナルジオグラフィックが彼らを取材したドキュメンタリー番組シリーズを製作したことでも知られるようになった。

オコネルは米国の片田舎に暮らすプレッパーを訪ね、富裕層向けに核シェルターを販売するサービスを取材する。さらにはイーロン・マスクが目指している火星移住計画についても論じる。

プレッパーは「妄信的な人たち」か?

本書が紹介しているプレッパーの信条と行動は、読んでいて滑稽に感じられるかもしれない。大量の缶詰、厳重なシェルター。彼らは自分たちのファンタジーが実現するときに備えている。

けれども、「彼らと自分の間に大きな違いはないのではないか」とオコネルは語る。

なぜならば、プレッパーも、そうでない人も「現代社会は非常に脆弱な基盤の上に成り立っている」という不安を抱えながら生活しているのは同じだからだ。たとえば食糧の生産は非常に少数の人だけが担っていて、その供給はとても複雑な物流ネットワークの上に成り立っている。

コロナ禍で食品や日用品の買い占め騒動を全世界が味わったように、人間は「正しく恐れる」ことがとても下手くそだ。何かのきっかけですぐにパニックになるのは、もともと不安があるからかもしれない。

オコネルは偏執的な恐怖に取りつかれて、まるでその治療のように、終末世界をイメージさせる「聖地」を巡礼する。チェルノブイリの観光ツアーにも参加する。

ほんとうは行かなくてもいい「世界の終末」を巡る旅を経て、オコネルは「これは一種の”暴露療法”(exposure therapy)だったのかもしれない」と振り返る。暴露療法とは、あえて恐怖の対象に直面することで、不安や苦痛を克服しようとする行動療法の手法である。

サバイバルに重要な「他者との協調」

さて、誰もプレッパーを笑えないけれども、一方で、彼らの行動原理には明確に間違っていると言える点がひとつあると思う。

オコネルも何度か本書で指摘しているが、彼らは「他の人はどうなってもいいので、自分たちだけは生き残る」という信条で動いているのだ。

私見であるが、ここにはキリスト教的な終末観も強く影響しているだろう。そもそもApocalypse(黙示録)というのはキリスト教の用語だ。世界の終末が訪れて、正しいものだけが生き残り、間違った者は滅びるという世界観である。

ちなみに現代の黙示録では、正しいか間違っているかを決めるのは神への信心深さではなく、資本をどれだけ持っているかのようだ。ピーター・ティールをはじめとする著名な投資家がシェルター用にニュージーランドに土地を購入しているという情報に触れて、オコネルは「ニュージーランドはまるで現代のアララト山だ(ノアの箱舟が流れ着いたとされる山)」と語る。

けれども、大災厄をサバイブする確率を上げたければ、他人をどう出し抜くかよりも、他人とどう協調するかが重要ではないだろうか。個人レベルでも、人間という集団のレベルでも。新型コロナウイルスへの対策をめぐって国際的な連帯と自国中心的な横暴が同時に起こっている世界がまさに、私たちがリアルタイムで経験していることだと思う。

世界の終わりを旅する本、マーク・オコネル著"Notes from an Apocalypse"は2020年4月に発売された一冊。

執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。ツイッターはこちら


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