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構造デザインの講義【トピック8:立体構造のデザインを科学する】第3講:ハイブリッドテンションの力学とフォルムの可能性(1)

ハイブリッドテンションの構造とデザイン【前編】

東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です



部材の長所・短所を補完しあうハイブリッド構造の魅力

圧縮材は、大きな断面の建築部材によって支持します。
RCや木造、そして閉断面の鉄骨部材が採用されます。
なお、比重の大きな鉄骨材のように板要素で構成されると、座屈と呼ばれる不安定現象が生じ、注意が必要です。

引張材は、RCの場合、ひび割れが生じ、注意が必要です。
鉄骨は、単位面積当たりの負担できる耐力が大きく、断面効率の高い建築部材として使用できます。
しかし、建築物における引張材は、天井や屋根、壁など、面材を直接支える場合に工夫が必要です。

これらの構造的な長所・短所、利点・弱点に対し、お互いを補い合うハイブリッド構造があります。

テンション材を利用した東京国際フォーラム・ガラス棟は、透明性が高く、軽快で合理的な構造システムを随所で見ることができる

建築物の屋根や天井、あるいはこれらを構成する梁を圧縮材として利用し、テンション材を組み合わせた張弦梁構造があります。
軽量で明快な構造であり、工期短縮につながることもあります。

大分県別府市内のイナコスの橋
構造家・川口衛による設計は、極限まで力学を追求した構造美を見ることができる
スイデンテラスは、木造屋根が圧縮を負担し、ストラッドから伸びるテンション材と合わせて張弦梁構造となる
細身のストラッドとテンション材は、その存在を消し、心地よい木材の空間を演出する
葛西臨海公園の水族館の周囲には、テンション材や膜材による軽快な構造物群が取り巻いている

最上川ふるさと総合公園・センターハウス

山形県寒河江市の最上川ふるさと総合公園のセンターハウスは、公園の管理や展示室、休憩所などの施設です。
三日月形の平面形状で、全面ガラス張りの外壁として透明性を高め、周囲の山並みや、建物前面の池と調和しています。
内部空間もシンプルで、開放的な内部空間となっています。

天井の視線の抜けや採光などに配慮し、細身の鉄骨を用いた張弦梁により、軽量感と浮遊感を感じさせながら、構造的な安定も図られています。
張弦梁を含む各構面は、平面形状に合わせて放射状に配置されています。
屋根の傾斜に合わせているため、来館者の手の届く距離に構造架構が設けられています。

張弦梁は、傾斜しているため、曲げとせん断、ならびに軸力が作用します。
張弦梁の両端は、下段側はピン、上段側は固定、あるいは半固定のディテールとなっています。
下段部は外部の景観の眺望のため、細身の円形鋼管で支持され、柱への曲げモーメントの伝達が抑えられます。

張弦梁のストラッド先端より、その他の張弦梁とワイヤネットで接続して立体的抵抗の協働効果への工夫がみられます。
三日月形の平面形状のため、桁行方向の両端に向かって平面が絞られ、それに合わせて張弦梁のスパンも収束していきます。
鉄骨接合部のディテールも特徴的です。

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鉄骨構造の教材(電子書籍)

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