「三体」の影に仏教

 アジア人作家として初のSF最大の賞であるヒューゴ賞を受賞!
全世界で2900万部を売り上げた!
バラク・オバマ称賛!

 ……等々華麗なる賛辞が尽きない「三体」であるが、枯淡と生活を送る私なりに彼の作品を考察してみた。ちなみに翻訳家の大森望先生が下記の通りまっとうな感想を掲載されているので、どうぞご参照ください。

 さて、私はここで羅輯というキャラクターに注目した。

 ネタバレになるが、かれは三体人から人類を守るべく選ばれし者”面壁者”の4人目に選ばれる。他の3人は元米国国防長官、ゲリラ戦で大活躍した前ベネズエラ大統領、欧州委員会委員長でもと科学者という錚々たるメンバーである。

 それにひきかえ羅輯は、中途半端な大学教授でメディアにちょっと顔をだしては女遊びしているだらしない男で、何故選ばれたのか皆釈然としない。

 彼が選ばれたのは、文傑という元ガールフレンドの父で学者が、文革にて人類に失望し三体との連絡係代表と数語交わした事だったのだ。

 そして彼が取った三体対抗策は、他メンバーと明らかに違っていた。それぞれ自分の得意分野の知識を総動員した。具体的には戦術、爆発物、心理学を用いて人類と三体の闘いを挑み、いずれも自分の最も大切にしている事柄である、プライド、人民、妻に殺される。

 彼は三体に対抗しなかった。それどころか、面壁者の特権をフル活用して理想の地を得た。その上自分の理想の女性を探させ愛を育み、娘を授かる。彼は400年先の人類の事など知った事はないという発言をする。快楽主義、刹那主義である。筆者には出家前に王宮で乱暴狼藉を働いたブッタを彷彿とさせた。

 しびれを切らした妻が人類対決の日まで冷凍休眠を選択した。ここで彼は文傑との会話を荒業で思い出し、己の敵は己と思い至る。彼の対抗策は、他の知的生命惑星に三体文明の情報を送る事であった。

 ”目の前の事に集中しなさい。自分に打ち克つ。他力本願”これは仏教の神髄であろう。

 SFに限らずファンタジーには初めから凄いヒーロー、あるいは駄目な奴が頑張ってヒーローになる、というお決まりの成長物語がある。
 さて、羅輯は妻を得て多少は成長したかもしれないが、ヒーローとは程遠い。そこに東洋的な、含蓄を覚えた。

続きが楽しみだ。


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