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海外暮らしのメンタルケア

はじめに

私が初めて海外赴任を経験したのは2013年のマレーシアから。それから足掛け7年に渡り、マレーシアとベトナムで生活してきました。

同じ東南アジアといっても、マレーシアとベトナムでは生活感が全然違います。同じ地域でもベトナムなら北のハノイと南のサイゴンでは、そもそも気候からしてまったく違う。そこに暮らしている人の気質もそれぞれ違います。

私と一緒に海外赴任を経験した同僚達は、次々に日本へと帰任していきました。その中にはメンタル的にかなり厳しい状況になった人もいます。

今回は、私が海外生活を送るなかで体験した、海外生活に旨く適応できなくなるメンタル面についてのお話しをしようと思います。

これから海外生活を考えている方、あるいは既に海外で生活をしている方を含めて、何かの参考になれば良いな、と思っています。

私がマレーシアに赴任した当時は、今とは状況がかなり違います。東南アジアの国は日進月歩で環境が変わっています。ですので、その時々にとって状況はまるで違うと思います。

ただ、日本とは異なる文化圏での暮らしという点では変わらないですし、そこには普遍的な悩みも多くあると思います。

今回は、私自身の経験を通して感じた海外生活としてのお話となりますが、変わらない共通のテーマをそこから感じ取って頂ければと思います。

海外生活の最初の壁

海外生活の最初の壁は食生活です。

これは現地で長期に暮らす人が誰もが最初に気にする事ではないでしょうか?

ちなみに私の場合、最初はマレーシアの料理を食べられませんでした。かなり苦戦した記憶があります。これは、私の場合は少し特殊で、日本で暮らしていた時も、食生活への拘りが強かったという事もあります。なので、マレーシアの食事が最初はなかなか口に合わなくて苦労しました。

特に衛生面については、最初はかなり警戒していたので、どちらかというと先入観があまり良くなかったんですね。

これは最初に現地を案内してくれた方が、かなりのマレーシア通であったため、次々とローカル飯をご馳走してくれ、軽くトラウマになったという面はあります。もちろん、今振り返って考えば、あのローカル飯は、かなり良いセレクトだったと分かります。案内してくれた方には感謝しています。

ただ、海外に慣れていない最初のうちは日本人が馴染みのある料理から徐々に慣らしていくほうが無難かなと思います。

私は、新任の駐在員が来る事に備えて、出来るだけ海外暮らしに良いイメージを抱いてもらうために、普段でも利用できるようなリーズナブルな価格、そして程良い清潔感、日本人にあう味付け。そういうレストランを日々開拓するように心掛けていました。日本人にも合うレストランをピックアップしておき、ソフトランディングな食生活になるように工夫して案内していました。

これは自分自身の経験から、そのような方法を取り入れました。

新任の駐在員達にも、このオペレーションは概ね好評で、「これなら食生活は問題なさそうですね!」と安心してもらえると、私も嬉しく感じたものです。

ただ、この方法は、徐々にあとからキツくなっていくというマイナス面もあります。なにせ開拓して見つけた美味しいお店は、普通はなかなか巡り会えないので・・・

今まで経験したなかで、ちょっと危ないかな、というパターンは、食にあまり興味がなく、自炊をあまりしない、外食も興味がなく、徐々にインスタント系の食事に偏ってしまう人。

食生活の乱れは生活のリズムも徐々に崩れていきます。特に慣れない海外暮らしでは。

自炊派、外食派と人それぞれかと思いますが、慣れない土地で暮らす上で、まずは食環境を整える。これはかなり重要だと思います。ワンパターンな食生活にならないような工夫は、最初の一年は特に心掛けた方が良いと思います。

やはり、最終的には現地での食生活に馴染んでいくしかないと思います。

私の場合は、マレーシア赴任の最初の一年目は、とにかくローカル飯をひたすら食べていました。慣れてくると、最初は辛かった食事が何だか美味しく感じるようになってくるから不思議です。ただし、一年もするとだんだんマンネリ化してくるので、二年目からは自宅で本格的に自炊する生活を始めました。三年目になって、外食の機会が増え、おもに日本食中心の生活へと戻っていった感じです。

人にもよると思いますが、私はローカル飯も日本食も両方を食べてましたし、その日の気分次第で柔軟に対応していました。

日本との住環境の違い

今ではマレーシアの都市部はかなり発展しているので、素晴らしい物件も多く、暮らしで困ることはないだろうと思いますが、私が赴任した当時は、今ほど環境が整っておらず、住み始めると様々なトラブルに見舞われました。今になってみれば、それも良い思い出ですが、当時は大変でした。

水周りは要注意

老朽化したコンドミニアムの場合は、雨漏り、水道管などの水周りのトラブルに気をつけた方が良いです。入居前はしっかりと水周り全般に問題がないことをエージェントと一緒に確認すべき。これは決して人任せにしてはいけません。殆どの場合、なにかしらの問題があります。

マレーシア赴任時の思い出
老朽化したコンドが最初の住居。大雨になると天井から雨漏りが。修理業者に連絡すると「雨がやんだら行くよ」と言われる。次の日、業者が来たので部屋をチェックしてもらうと「雨漏りしてないじゃないか?」と言われ「雨漏りしたら呼んでくれ」といって帰ってしまった。

入居して直ぐに、普通に水道の水が出ないとか、洗面台が水漏れしているなんて事も良くあります。とにかくエージェントが同席している時に、確実にチェックしましょう。

電気トラブルもあります

家に帰ると普通に通電トラブルで電気が使えない事もあります。冷蔵庫も止まる。会社から帰る時間帯は既にマネジメントオフィスが閉まってるので、朝まで待つしかありません。

マレーシアでは、なにか契約条件のトラブルがあると水と電気を問答無用に止めます。こちらに非がなくても、オーナーさんがなにかしらの手続き漏れ、という場合もあります。私の同僚はオーナーの不手際で水道を止められ、トイレの水が流せずに泣いてました。

蟻対策も忘れずに

それと、東南アジアは南国なので、虫対策はそれなりに必要です。特に蟻は要注意。新築のマンションでも、内部は蟻に浸食されてます。

老朽化マンションでのエピソード
朝起きると、ベッドの上で蟻さんがコンニチワ。日に日に増えていく蟻。ある日、目が覚めると、もはや看過できない数になっていた。よく見ると蟻達は枕の下に移動している。ふと、枕を持ち上げると、枕の四角の形にそって数十匹の蟻がワラワラと群れていた。終わったと思いましたね。

基本は蟻の巣コロリ一択です。即効性抜群。長期的には床清掃でデトールを使う。寄ってこなくなります。

新築マンションでのエピソード
新築のマンションに引っ越して半年程たったある日、部屋に蟻がちらほら増え始め、最終的には数十の蟻がウロウロ。「どこから来てるんだろう?」と思って調べたら、なんとフローリングの床でした。タイルとタイルの隙間の石膏を食い破って内側から出てきていました。すかさず透明な木工用ボンドで穴埋め。部屋の亀裂や隙間をすべて封鎖しました。

基本的には、品質の高い新築のマンションであれば、ほとんど問題は起きないという印象。逆に高級物件であっても築数年が経過している場合は、かなり要注意。

トラブルは未然に防ごう

思いつくままに住環境のトラブルを書いてみました。こういう一つ一つのトラブルが起きると、地味にメンタルが痛みます。慣れてくると、特に何も感じなくなってきますが、最初はびっくりする事もあります。とにかく人任せにしない事。入居時には「大丈夫だろう」と思わず、入念に部屋をチェックしてください。

やがて単純な日常生活へ

最初の半年は見るもの、感じるもの、すべてが新鮮な刺激であり、瞬く間に数ヶ月が過ぎていきます。

しかし、やがて半年もすると、現地の生活にも慣れてきて、徐々に落ち着いた生活になっていきます。

休暇を利用した近隣の国への旅行などのアクティビディも行いますが、それも一年ほどが経過すると、一通り経験して落ち着いてきます。

こうなると、海外での暮らしは完全な日常生活となっていきます。

いつまで暮らすか分からない

マレーシアで暮らし始めて一年ほどすると、私と一緒に赴任した日本人の駐在員は次々と日本へと帰任していきました。本人が帰任を望むようになったからです。精神的にもキツそうでした。

その後も何人もの人が日本から赴任して来ましたが、だいたい一年ほどすると精神的にキツくなってくるようでした。私はこれを「任期一年の壁」と呼んでいました。

私の場合も、一年の壁はありました。しかし、現地での生活が三年を過ぎる頃には、海外暮らしにもすっかりと慣れました。どこで暮らしても生活は出来るよね、という感覚。精神的なストレスもなく、特に大きな不満は何一つない暮らし。

つい日本と比べてしまう

さて、一年程が過ぎて現地での生活になれてくると、徐々にマンネリ化という新しい課題が出てきます。特に東京などの大都市圏で暮らしていると、様々な娯楽があり退屈しません。東南アジア生活は総じて娯楽が少なく刺激が足りないかなと思います。特に若い方にとっては、そのように感じることもあるかと思います。

個人差はあるかと思いますが、ついつい「日本の生活と比較する」という事をしてしまいがちです。これは精神的にもストレスになります。

日本は日本。海外は海外。頭のスイッチを切り替えて、現地ならではの生活スタイルを確立することを心がけると良いと思います。

コミュニティーの断絶

これは特に若い人に多い印象だったのですが、日本での友人に会えない。これは、かなり辛いみたいです。日本でのコミュニティーが断絶してしまう。今はSNSも発達しているので、ある程度は日本の友達ともコミュニケーションはとれますが、日本とは距離も離れています。

海外での暮らしが長くなり、徐々に生活が日常化していくなかで、現地での新しいコミュニティーを作ることが出来ないと、孤独感が強くなってしまうようです。実は生活する上では英語の語学力はそれほど必要にはならないのですが、新しいコミュニティーに参加するためには語学力が必要になってくるかなと思います。

海外生活をおくる上で、コミュニティーはもっとも重要な問題かもしれません。

これは、海外暮らしを始めた時、すぐにアクションを起こして積極的にコミュニティーを作った方が良いと感じました。時間が経過すればするほど、生活に慣れてしまい、おっくうになってきて仕事以外は部屋に引きこもるようになる。なによりこれが危ない。

現地に旨く適応できている人は、最初から現地のコミュニティーに積極的にアプローチする人が多かったですね。総じて、スポーツの趣味を一つ持っている人は強いなと感じました。

ちなみに私の場合は、ある程度、年齢も落ち着いていたという事もあり、私生活はそれほど退屈はしませんでした。

現地の責任者でもあり、海外でも常に忙しく、週末も仕事をしている事が多かったので、あまり退屈する事がなかったというのも大きいかもしれません。まあ、それもどうなんだと思いますけども。

あとは車でドライブするのがストレス解消になっていました。なかなか眠れない夜は、夜中に車にのって誰もいない高速道路を走らせるとスッキリしました。都市部は朝まで営業しているカフェもあるので、そういうお店でまったりとコーヒーを飲んだりして寛いでました。基本的に一人の時間が好きなタイプなので、日本でも海外でも生活に慣れたら、どこでも一緒だなと思っていました。

最後に

海外生活でのメンタルケアというテーマでお話しましたが、何気ない日常の中にストレスがあるという事を感じて頂ければと思います。

本当にちょっとした、なんでもない事なんです。

それでも、海外暮らしが肌に合わずに日本に帰任する方を何人も見てきました。ただ、それがダメな事だとは思っていません。

何事も経験する事が大事で、そこから何を学ぶかという事だと思います。いままで以上に日本での暮らしを大切に思えるようになるかもしれません。

ただし、メンタルが傷ついてしまうと、やはり辛いので、海外での生活では無理をせずに、出来るだけ気楽な気持ちで臨むと良いと思います。

辛い事もあるかもしれませんが、楽しい事や新しい発見も沢山ありますので。

最後に私が暮らしたマレーシアとベトナムでの所感など。

マレーシアでの暮らし
同じ東南アジアといっても、マレーシアとベトナムでは当たり前ですが生活感はまったく異なります。マレーシア、特にクアラルンプールの都市部を中心とした生活は、非常に都会的でスタイリッシュです。
 
もちろん、東京と比較するのは無理があります。東京は世界的にみて、規模が世界最大級の巨大な大都市です。クアラルンプールはいわゆるコンパクトシティであり、規模はけっして大きくはありません。
 
とはいえ、マレーシアが近年急速に発展してきたのは事実で、一年も経てば都市の景観も様変わりしています。私が赴任した2013年と現在の2020年では、住環境の進化はもはや比較できません。 
逆にいえば、急速に発展した爪痕として、非常に快適な住環境の地域と、昔の古い町並みのままの地域がくっきりと分かれています。同じ都市部でも生活感覚は住む地域でまるで異なります。
 
長くマレーシアで暮らしている移住者の方は、あえて外国人がほとんど居ない古い町並みの地区に住んでいる人も居ます。もう少し都会的でスタイリッシュな暮らしを望むのであれば、外国人向けに開発された新興地域がおすすめです。日本でよほどセレブな生活をしていた方をのぞけば、殆どの人は日本での生活費よりも安く、そしてより快適な住環境で暮らす事が出来ます。
 
東南アジアといえば、やはり蟻などの虫被害を心配する人もいるでしょう。これも住む場所によりけり。適切に対処すれば、日本での暮らしと大差ないか、それ以上に虫と遭遇しない暮らしが可能です。
 
マレーシアは多民族国家です。マレー人、中華系、インド系と大きく分類されます。それ以外にも近隣の東南アジアから働きにきている外国人も多くいます。また、仕事のために赴任している欧米人もよく見かけます。東南アジアの中で、これほど多民族な人達が共存している国は珍しいのではないかと思います。
 
イスラム圏でもあり、お酒を飲まない人が大半なので、仕事が終わると皆家族の待つ家に帰っていきます。そうなると、我々は、中華系マレー人との交流機会が自然と増えることになります。
 
子供に対してはとても寛容で、レストランなどの公共施設で子供が騒いでいても、周りの目線は優しいです。お店側にトラブルがあっても品よく対応している人が多い。ちょっと恥ずかしい話ですが、むしろ日本人がレストランのスタッフの対応にイライラしていたり、怒っている人は何度か見かけました。
ベトナム(ハノイ)での暮らし
北のハノイと南のサイゴンでは暮らしがまったく違うと聞きます。私はサイゴンで暮らした経験がないので、比較することは出来ませんが、サイゴンは気候がマレーシアに近く、より南国。人の気質がおっとりしていると聞きます。
 
ハノイは四季が一応あり、厳しい冬があります。もともとは湿地帯であり、黄砂などの影響もあり、空気はかなり汚染されています。近年急速に発展しているので、住環境はみるみると良くなっていますが、マレーシアの都市部の発展ぶりと比較するのは、まだ難しいでしょう。
 
ベトナムのコンドミニアムの大きな特徴として、部屋の掃除と洗濯をしてくれるサービスアパートが一般的です。すべて家賃に含まれてるので、ホテルよりも快適かもしれません。インフラもインターネット完備、日本のテレビ番組も試聴できるようになってます。マレーシアではインターネット等はすべて自分で手配、契約しなければなりません。このあたりは外国人向けにかなり工夫されているなと思います。
 
ただし家賃は総じてマレーシアより高い。これはコンドミニアムの数が需要に応じて不足しているのが原因の一つだと思います。今後、徐々に家賃は下がっていくでしょう。そしてコンドミニアムの品質は逆に向上していきます。発展いちじるしい東南アジアでは、それが普通です。
 
ベトナム赴任の思い出として、とにかくベトナム人が優しくて親切です。特に女性は本当に義理堅い。年配の日本人の方が「まるで昔の日本を見ているようだ」と言ってましたが、私も同じように感じました。昔の風習が残っていて、家族を大切にしている姿には爽やかな感動を覚えます。都市部を中心に経済発展いちじるしく、人々の生活も急速に変わってきています。おそらく都市部の暮らしはどんどんとスタイリッシュになっていくので、こうした風習も徐々に廃れていくでしょうが、今のベトナムは人の気質が非常に魅力的だと思います。

Twitter:
https://twitter.com/turbomaru_hiro

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