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「日本が美しい」本当の理由:大塚バラ祭りの話

東京に住みはじめて9年。
初めてJR山手線の大塚駅を訪れた。

きっかけはシンプルだ。
一眼レフを買って2か月が経ち、
動画に適した題材を求めていた。
大塚でバラ祭りが開催されているとTwitterで見て、
これはよい動画の素材になると思った。

当日。それは快晴の土曜日だった。
JR大塚駅を降りると、
都電荒川線沿いに満開のバラが咲いていた。
赤、ピンク、黄、白、
何十という品種のバラ。
どれも華やかだった。

もう、それは。それは。
カメラにおさまらないほど綺麗。

がしかし、この日、私の目を惹いたのは
線路沿い「錆」だった。

MVI_1595.00_00_11_08.静止画003

わびさびの「錆」。
もともと黒か銀だった金属が
風雨にさらされて変色したもの。

赤茶色の乾いた色のうえに
ザラザラとした肌触り。
さらに錆が進むと
それはガリガリになり、
バリバリと割れてくる。

それは東京が朽ちる姿だった。

そしてその朽ちる姿に
対して美しさを感じている自分の感覚に
驚きを覚えた。

少し話がそれる。
11年前、通っていた新宿の某予備校の
講師の一人が美学の専門だった。

童顔で清潔感のある、
ちょっとフェミニンな講師。
名前は忘れてしまった。
顔はバカリズムに少し似ていた気がする。

その先生曰く、
美学とは「美しさを研究する学問ではなく、
人が美しさを判断する基準を研究する学問」。
例えば顔ひとつをとっても
—インドの美人
—ポーランドの美人
—タイの美人
—日本の美人

「美学とは何か?」
その先生はクラスに問いかけて、
間を置いた。
そして自分で答えた。
「それはその違いや由来をたどっていく学問に他ならない。」

MVI_1595.00_00_04_23.静止画002

話を戻すと、私は踏切の鉄錆を見つめながら
この先生の話を思い出した。
そして、ひとつの疑問がわいてくる。

自分はなぜ錆に対して
いま美しさを感じているのか?

その裏には何か、幼少期の育った環境に由来する
深層心理のようなものがある気がした。
もしかしたら、答えは「サイバーパンク」ではないか。

サイバーパンク。
それは「AKIRA」や「マッドマックス」「ブレードランナー」
に代表される退廃的、ディストピア的な作風。
「天空のラピュタ」もこの部類に入るかもしれない。

幼少期を振り返ると、
それなりにサイバーパン風の作品に接してきた気がする。
一番最初に思いついたのが「ブラック・ジャック 劇場版」。
その映画の内容は割愛するが、
砂漠の中に古い石油精製場(的なもの)が登場する。

つまり、バカリズム先生の「美学」を考えると、
サイバーパンク的な美意識が
自分の脳みその奥に植え付けられているからこそ、
鉄錆や複雑に絡み合うパイプに美しさを感じる。

それは偶然でも自分の気分の問題でもない。
宿命だ。

と踏み込んだら
考えすぎだろうか。

サブカルチャーの影響は侮れない。
鬱蒼とした森の中、
苔や泉に対して美しさを感じるのは
「もののけ姫」の影響かもしれない。

雪をかぶったスイスアルプスの鋭鋒を見て
美しさを感じるのは
「アルプスの少女ハイジ」の影響かもしれない。

いや、これはサイバーパンクに限らず、
私たちが日本の風景に美しさを感じるのは、
そのように脳がプログラミングされているからなのかもしれない。

MVI_1595.00_00_01_26.静止画001

JR大塚駅近くの線路沿い、
一眼レンズを通してみた鉄錆によって、
新しい世界への扉が開かれようとしていた。

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