第606回 私が選ぶ今年の10冊
1、今年の締めくくりと振り返り 第1弾
いよいよ年末感が出てきましたね。
今年の締めくくりとして
①今年の10冊
②歴史ニュース(国内編)
③歴史ニュース(国外編)
の記事を書こうと思っております。
今回はその第1段ですね。
選定の基準としては
①読了して本連載の「読書記録」でレビューしたもの
②昨年後半から今年に発行されたもの
③何度も読み返したくなるもの
④歴史に関連するもの
というところでしょうか。
読者諸兄の共感を得られるような一冊があると幸いです。
それぞれ読書メーターと本noteの該当ページを添付しています。
2、結局選べない
① 松本建速2018『つくられたエミシ』
もっと読まれていい本。東北人の中でも「エミシ」観がアップデートされていないので、もっと普及していきたい。
②桃崎有一郎2018「武士の起源を解きあかす――混血する古代、創発される中世 」
これも実は①と関連して武士の発生にエミシが関わっていたという部分に切り込んだ意欲作。考古学と文献史学の違いはあれど従来のエミシ観が揺さぶられてくるのではないかと非常に期待。
だからこそ『蝦夷展』が旧態依然としたエミシ理解だったことが悔やまれる…
③ 北條 芳隆 編2019『考古学講義』
旧石器・縄文・弥生・古墳の各時代を気鋭の研究者たちが概説にとどまらない、ちょっと踏み込んだ最新研究成果をわかりやすくまとめてくれています。
いつか中世考古学でこのような本が編めるといいですね。
④石毛直道2019『座右の銘はない あそび人学者の自叙伝』
破天荒な文化人類学者のエッセイ集です。可笑しなエピソード満載ですが、深い洞察力にはっとさせられることもしばしば。こんなチャレンジングな人生は真似できませんが、感性は見習って行きたいですね。
⑤佐藤信弥2018『中国古代史研究の最前線』
これもやっぱり醍醐味は知識のアップデートですね。
学生時代に習った知識はすでに発掘調査の進展によって古くなっている。
日本ならまだニュースなどで触れる機会がありますが、外国の話題まで追いかけられないので、最先端の研究者が一般読書人向けにこのようにまとめてくれるのは嬉しいです。
⑥小熊英二2019『日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学』
太平洋戦争でこっぴどくやられた我が国は、制度的に一度そこで断絶しているかと思いきやさにあらず、よくも悪くも戦前から引きずっているものも意外と多い、というのが第一の印象。英雄豪傑で歴史の流れを追うだけでなく、制度設計の思想と変遷から社会を眺めるのが歴史学ですよね。
⑦ 山﨑圭一2019『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』
昨年の世界史に続き、日本史版が出版。正直前著よりもインパクトは薄かったですが、何より流れを抑えるという理解方法は支持できる。本書をどう活用していくかが今後注目されていきますね。
⑧竹井英文2019『戦国武士の履歴書』
大河ドラマ「直虎」や「真田丸」の影響もあってか、「国衆」という戦国大名より一ランク下の武士たちが脚光を浴びるようになってきた昨今。
地域に根付いた「国衆」とは一線を画し、腕一本でのしあがろうとする、生き方を選んだ武将たちの姿を描いた本書。戦国時代像が深みを増して理解されるようになってきたようで嬉しですね。
⑨金子拓2019『信長家臣明智光秀』
来年の大河ドラマ「麒麟が来る」。メインキャストのビジュアルが公開されて徐々に盛り上がってきました。
書店に溢れる関連本の中で、唯一手にとったのが本書でした。
便乗本でブームが去って仕舞えば見向きもされなくなるような本ではない、と自信をもっておすすめできます。
⑩岡陽一郎2019『大道 鎌倉時代の幹線道路』
道の研究を通じて鎌倉幕府権力の実態に迫る。常識・通説を疑い、史料から確かめられるのはどこまでなのか、正統派歴史学の成果として純粋に面白いのでおすすめ。
11 平野明夫編2018『室町幕府全将軍・管領列伝』
一口に「室町時代」と言っても創成期から南北朝動乱期と応仁の乱から戦国期にかけては大きく幕府の方向性も異なっていることが、通してみるとよくわかります。
3、自分がスキなモノはオススメしたい
今年の10冊とは言いながら、結局11冊になっているのはご愛敬。
読書記録としてシェアするために再読した本を除くと、それほど残らなかったのも事実です。
また、気になっているのにまだ読めていない本は該当になってないので
来年は最新の成果にどんどん触れられるよう精進していきたいと思います。
意外と専門に近い分野の本ばかりでなく、
幅広い分野の本を選ぶことができたでしょうか。
さらに、最後にこの本を紹介させてください。
歴史学者が社会にできることは何なのか、その一つの答えがここにあるのではないかと思います。
番外編 ユヴァル・ノア・ハラリ2019『Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』
『サピエンス全史』で過去を、『ホモデウス』で未来を見通したイスラエル出身の歴史学者が現代の21の課題を分析し、考察することで今に生きる我々に考えるヒントを与えてくれます。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
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